車中にて

陽月

車中にて

「すっかり、後ろが静かになったね」

 助手席の妻が、思い出したように声を掛けてきた。

 しりとりをしていたのだが、詰まって考えているうちに、子供達は限界が来てしまったようだ。

「一日中はしゃいでいたからな。泳いで、駆け回って、砂遊びをして、すっかり疲れたんだろう」

 他にも貝殻を拾って、いくつかは持ち帰っている。今度は潮干狩りもいいかもしれない。

「あれだけ楽しそうにしてくれたら、連れて行って良かったって思えるよね」

「そうだな」

 子供達は夏休み、けれども大人には普通の土日。一週間働いて、土日で旅行、そしてまた一週間働く。

 土日で疲れが抜けるどころか、溜まる一方だが、子供達の笑顔があれば頑張ろうと思える。


「まさか、こんなに出かけるようになるなんて、あの頃は思わなかったよね」

 毎度毎度、この話題になる。

「二人とも出不精だったからな」

 それがどうだ、結婚して子供が生まれて、色々な経験をさせてやりたいと思った。

 頻繁にはできないが、年に一度か二度、旅行に出かける。ゆっくりする旅行ではなく、色々なものを見たり、体験したりする旅行だ。

 つきあっていた頃は、どちらかの部屋でゆっくりしているだけが多かった。誕生日のような記念日でさえ、どこかに食事に行くということもしなかったのに。

「子供って、本当にすごいよね。私たちをこんなに変えてしまうんだから」

「どこかに連れて行けってねだられて、よそはよそ、うちはうちと、どこにも行かないような図しか想像していなかったもんな」


 毎度同じ話題ながらもこうやって話しかけてくれるのは、睡魔に負けないようにと思ってくれているのだろう。

 パーキングエリアの案内が見える。

「運転、代わろうか?」

「今日は、渋滞にもはまってないし、大丈夫」

 遠足ではないが、無事に家に帰り着くまでが旅行だ。

 いつまで家族旅行ができるかわからないが、それも今日無事に帰り着いてこそ。

 大切な命を乗せている、それを心に留めて安全運転で我が家まで。

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車中にて 陽月 @luceri

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