第9話


 『悪事千里ではなく、善事千里』


 ある人は言う。


「人生を簡単にするのは、暴力しかない」

 だが、俺はその考えを否定する。

 否定から入るのは人間の性だ。だから、そこは見逃してくれ。

 暴力しかない、そう言っているということは、それは極論を言っていることを表している。なぜ、極論しか言わないのか、俺には理解できない。

 極論はあくまで極論だ。その極論のような状況にならないように立ち回ることが、俺たちに求められていることだ。そこをはき違えると、人生に天と地の差がつく。

 メイは、普段は人の揚げ足をとって笑っているが、真剣になると顔が変わる。

 小学校卒業後の3年間は、このような人生で大切だと思うことを、たくさん教えてくれた。

 そういう時があるから、メイには反抗できないんだよな。

 非常に小賢しい。 


 今、俺たちは学校に歩いて戻ろうとしている最中だ。

 もうゴーストタウンは、抜けたので安心だ。

 今回の合同訓練は、あっという間に終わってしまった。また近いうちにやるってことは、メイが言ってたし、楽しみだ。

 ステージ3のアグロ・キュートの件からの活動は、慎重に進めていった。結果で言うと、ステージ1を3体、ステージ2を1体、ステージ3を1体駆逐した。

 ステージ1は、俺を除くチーム「フォアフロント」の3人が、素晴らしいチームワークで圧倒した。

 ステージ2は、あの後にシズが自分の実力を、ちゃんとみんなに見てもらいたいということで、一瞬で灰に変えた。

 ステージ3は、俺が倒したとみんなが言っているが、信じがたいな。

 メイが1人で倒したんじゃないか?

 この前の学校で起きた事件も、ミク先生が俺が1人で倒したって誇張してたし。

 それより、1つ気になってたことがあるんだよな。

 思い切って、シズに聞いてみる。


「シズの傷は誰が治してくれたの?」

「あっ、これ?」


 シズは、自分の服を上にずらして、傷がついていた位置を手で軽く触る。


「うん・・・」 


 見ているこっちが恥ずかしいから、今すぐ戻してくれ。


「これは、メイが能力で治してくれた」


 え!?

 ということは、俺の知らなかったメイの最後の能力は、「治癒」。

 つまり、戦闘力と治癒能力を兼ね備えているということになる。

 かなり強いな、それは。俺の想定の、はるか斜め上をいったな。


「私の強さが分かったか?」


 メイが歩きを止める。

 いきなり俺たち、弟子同士の会話に入ってくるなよ!

 しかも煽り声で割り込んでくるから、ウザさが50倍になってる。


「分かったから、早く進んで」


 右手で、しっしっとする。


「はいはい」

「シズの鬼人化には、どんな効果があるの?」

「鬼人化は簡単に言うと、身体能力向上みたいなもの」


 それなら、活性化と似たようなものか。

 SPで国上のトップに立つのは、かなり特訓しないとできないことだ。

 よく頑張ってる、我が妹分は。


「21時30には、学校に戻らないといけない。少し急ぐぞ」

「はい!」


 学校までのラストスパートでは、3人とシズが楽しくワイワイ喋っていた。

 俺は、その間空気へと化した。

 

 学校に着くと、すでに多くの人がアリーナに集まっていた。


「兄貴!聞きましたよ!」


 入口に入って早々にこれだ。


「何を?」

「また、ステージ3のアグロ・キュートを1人で瞬殺したんですね!」


 はぁ?

 仲間はみんなそう言っているが、何でその情報がもう金剛君に届いてるんだ?

 少し心当たりがあったので、ゆっくりと後ろに首をまげると約1名笑っている人がいた。

 殺す、絶対に殺す。マジで許さん。


「ちょっと私は総指揮の仕事があるから、行ってくるね」


 はい、逃げていくー。

 それから、しばらく仲間と談笑している間に、全員が帰ってきたようだ。


「まずは、皆さんお疲れさまでした。疲れていると思うので、早めに終わらせます。国上の生徒は本日、羽愞の空きがある寮に泊まってもらいます」


 みんなが当然のように聞いている。

 毎年恒例なのかな。


「国上の生徒は、教員の指示に従って寮に向かってください。羽愞の生徒は、自分の寮に戻って休息をとってください。では、解散」


 さすが宣言通り早かったな。


「楓守、私も楓守たちの寮に行く」


 横から俺に声がかかる。

 シズか。でも、俺はいいんだけど、それありなのか?


「いいじゃないですか」

「そうだよ!」


 シビーと紗綾は了承らしい。


「私たちは全然困らないわ」


 ジェリーもオッケーってことは、もうこのまま一緒に行っていいのかな。

 明日の国上への帰りまでにあっちと集合したらいいんだから、余裕で行けるな、うん。


「シズ、おいで」


 俺の方にシズが飛んでくる。

 危ないよ!

 真正面でキャッチする。


「ありがとう」


 頬を赤く染めながら、シズが俺に呟く。


「どういたしまして。はい!早く行こう!」


 シズの温かい息が、俺の耳に触れる前にギリギリ避ける。

 もし触れてしまったら、俺の煩悩が解放されそうになるからな。


 寮までの道のりは割愛させてもらう。

 俺は空気だったからな。


「やっと着いた~」


 3人は勢いよくベッドにダイブする。

 ドサッ。

 シズと俺を除く3人は、とてもお疲れのようだ。


「そうだ。シズはどこで寝たい?」


 残念ながら、ベッドは4つしかない。

 なので、俺は床で寝ることになりそうだな。全然かまわないけど。


「楓守と一緒に寝る」


 俺の腕にシズが抱きつく。

 え!?

 まさか、俺を犯罪者にしようとしてる!?


「楓守はそれでいいの?」


 ジェリーは否定なし!?


「俺はいいんだけど。本当にいいのかシズ?」


 最終確認はしとかないとな・・・。


「うん」


 はい!あとは、俺の煩悩が解放されないことを祈るだけだ。

 犯罪者にはなりたくない。


「先3人でお風呂入っていい?シズは楓守と一緒に入りたいでしょ?」


 はい? 

 何、爆弾発言してるの?

 一緒に寝るのはいいけど、さすがにお風呂は犯罪行為だろ。


「うん」


 いいの!?

 何か、ごめん・・・。



「ということで、先行くね!」

「楓守お先!」

「お先に失礼します」


 3人がダッシュでバスルームに向かう。

 確かに今日は、彼女たちにとって、初めてアグロ・キュートと戦った日だもんな。

 そりゃ、汗もたくさん、かいただろうな。


「お喋りしよう」


 シズが、俺の服の袖を引っ張ってくる。

 しかも、下から目線で言ってくるもんだから、断れるはずなかった。

 丸テーブルを囲むように座り、メイと一緒に修行をしていた時のことや、メイの悪口や、メイのことをたくさん話した。

 こんな所にもメイの話題が出るなんて。

 メイの奴許さん。

 まあ、しょうがないか。共通の話題が、それくらいしか思いつかなかったから。

 15分くらい何となく話していると、3人がお風呂から上がってきた。

 ボ、ボディが眩しい・・・!

 シズと俺は、目を覆いながら小走りでバスルームに駆け込んだ。

 脱衣所では、背中を向かい合わせて服を脱いでいるものの、衣擦れの音でちょっと想像してしまう。

 脱衣所はクリアしたが、問題はここからだ。


「背中流す」


 水の感触と一緒に、シズの指が俺の背中を優しく沿う。

 恥ずかしい。


「次は、私の背中」


 今俺の眼前には、肩幅の小さい柔肌の背中がある。


「流すよ」

「うん」


 シャワーを背中にかけながら、ボディソープで背中をきれいにしていく。


「ん・・・!」

「大丈夫か!?」

「大丈夫、問題ない」


 喘ぎ声みたいな声出されたら、反応するから勘弁してくれ。

 よしっ!


「終わったぞ」


 内心はめっちゃ緊張なんですけど。


「ありがとう。一緒に湯船入ろう」


 湯船の中のシズが、俺の手を引いて湯船に強制移動させる。

 もっと、ちゃんと隠してくれ!

 桃色の先端がちょっと見えかけたから。

 やはり子供体系ということもあり、胸は美乳に分類される大きさだった。

 俺は湯船の中、約5分間シズを膝の上に乗せる状態で、何とか耐えた。

 俺が完全に後ろをとっているわけで、上半身は完全に何もかも丸見えだった。

 頑張って耐えろ俺のコア!

 そう心の中で叫びながら、煩悩の解放を制限した。


「ハァー、ハァー」

「どうしたの?」


 お風呂を上がった俺は、完全に疲れ切っていた。

 アグロ・キュートとの戦闘より、過酷な戦いだったことは、間違いないだろう。


「何でもないよ。今になって、疲れが出てきただけ」


 仲間には、そう誤魔化しておいた。

 本当のことがバレたら、俺は殺されること確定だからな。


「眠いよ。早く寝よう」


 子供だな、もう!かわいいな!


「消灯していいか?」


 みんなにも確認をとる。


「いいわよ」

「早く寝たい」

「いいですよ」 


 一応オッケーだな。

 消灯しまーす。

 俺のベッドは上なので、先にシズに行ってもらい俺が後に上った。


「おやすみ」

「・・・・」


 もう寝てるのか、寝つき良すぎだろ。

 俺は、シズの頭を軽く撫でて、眠りについた。


 

 眩しっ!

 俺は、メイとの修行生活の時から早起きが習慣になっている。

 ん?

 何か左手に柔らかい感触があるんだが。

 ムニムニ、ムニムニ。


「あっ・・・!」


 喘ぎ声?

 視線を声の方に向けると、そこには童顔の美少女が寝ていた。

 これって、シズの太もも!?

 俺は、光の速度で腕を抜く。

 あぶねー。

 もう少し手を上にずらしたら、乙女の茂みに触れるところだった。

 それをしたら、もう犯罪だから。そのときは、自分で自分を殺すわ。

 

 朝は、そのまま過ぎて行って、俺は今学校の教室でHRを聞いているところだ。

 またシズのことを見れるのは、来年になりそうだな。


「ここで転校生を紹介をする。入れ」


 転校生か。

 気になるな。男かな?女かな?

 足音が教室の外から響いてくる。


「皆さんこんにちは。これから共に励ませてもらう、山口静紅です」


 ・・・・・。


 シズ!?

          

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最弱学校の異端児「ルデア」 烏猫秋 @karasunekoaki

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