最終章最終話 俺たちはいつも無茶ばっかりだな
周囲には多数の小惑星。
背後にはションリと20機近い帝國軍の無人戦闘機。
帝國のマークが描かれた大きな貨物をぶら下げたグラットンは、そんな場所を飛び抜ける。
《今度こそ逃がさんぞ、魔術師! 帝國の躍進の糧となれ!》
「大変です! カーラック提督のションリです!」
「わざわざションリを出してくるなんて、よっぽど盗まれたくない代物だったんだね、あの貨物」
「シェノさん、逃げ切れますか?」
「まお〜!?」
「逃げ切るしかないでしょ」
操縦席に座ったシェノは冷静に、副操縦席に座ったフユメは焦りを滲ませ、使い魔は羽をぱたつかせ、危機を乗り越えようと必死だ。
ヒュージーン経由でエルデリアから依頼された、帝國の秘密倉庫からとある貨物を盗み出すという仕事。
明らかに面倒そうな仕事だが、高額報酬に目がくらんだシェノは、その仕事を引き受けた。
その結果が今の状況である。
必死なシェノとフユメとは対照的に、俺とニミー、ナツは、コターツに埋まりプーリンを食べている最中だ。
「ねえねえ、カーラックおねえさんがきたって〜!」
「しつこいひとなのです。すとーかーなのです。あいてしていられないのです」
「ナツの言う通りだ。ストーカーの相手はシェノたちに任せよう」
「おねえちゃん! がんばって〜!」
「わたしたちは、なにをするのです?」
「そうだなぁ……俺たちはグダグダ神に会いに行こう」
「わかったのです」
「おお〜! ニミー、グダグダしんにあいにいくの、だいすき〜!」
ニミーの笑顔が輝かしい。
彼女の笑顔を見ていれば、グラットンの外で起きていることなど忘れられる。
早くみんなでグダグダ神に会いに行こう。
「3人とも、のんきそうで良いですね!」
今にも眠ろうとしていた俺に、フユメのツッコミが突き刺さった。
だが、知らん。
「文句はラグルエルに言ってくれ、
「それはそうですけど、緊張感ぐらいは持ってくださいよ!」
フユメは心の底から呆れ果てたような表情だ。
俺がラグルエルに対し、魔法修行を終えても『ステラー』に残ると言い放ったときの嬉しそうな表情は何処へやら。
ラグルエルから魔術師の監視役に任命され、俺たちとの旅を続けられることに喜んでいたあのときの表情は何処へやら。
まあ、フユメの呆れ果てた表情は、普段通りの表情でもあるのだが。
「ハイパーウェイ突入の準備」
モニターを操作するシェノがそう言ったと同時、白く輝く球体がグラットンの目前に現れた。
あそこに突っ込めば、俺たちは帝國の追撃から逃れることができる。
もちろん、カーラック率いる帝國が俺たちを簡単に逃がしてくれるはずもない。
帝國の無人戦闘機たちはグラットンへの攻撃を強め、ハイパーウェイ突入は阻止されてしまった。
加えて、数発のレーザーがグラットンに命中。
「危ない! 部品が!」
レーザーの命中で弾け飛んだグラットンの部品が、船内を飛び跳ねる。
飛び跳ねた部品は、狙いすましたかのように俺の胸を貫いた。
綺麗に心臓を撃ち抜かれた俺は、そのまま意識を失う。
元救世主、ここに死す。
蘇生魔法に魂を呼び戻され蘇った俺は、思わずぼやいた。
「魔王を倒した元救世主が、こんな簡単に死んで良いのか……」
「良くはないと思いますけど、私が何度でもソラトさんを蘇らせますから、安心してください」
苦笑いを浮かべるフユメに、俺も苦笑いを返すことしかできない。
さて、俺が蘇った直後、グラットンの近くに巨大な白く輝く球体が出現した。
球体から飛び出してきたのは、乱雑な艦影。
《シェノさんシェノさん! 助けに来ましたわ!》
《……帝國軍、わたしが、追い払う……》
アイシアとメイティを乗せたヤーウッドの登場だ。
勇者メイティはすぐさま魔法を発動、マグマの糸が無人戦闘機を切り刻む。
さらにヤーウッドの艦砲射撃がションリを牽制した。
この隙にグラットンは態勢を立て直し、今度こそハイパーウェイ突入の準備を整える。
「まったく、俺たちはいつも無茶ばっかりだな」
「でも、ソラトさんはその無茶、楽しんでいるように見えますよ」
「お互い様だろ」
蘇生魔法使いが必須の、五感と巡り合いで覚える魔法修行の旅は過去のもの。
今の俺たちは、偶然の巡り合いで集った仲間たちとともに行く、無茶ばかりで、何度死ぬかも分からない旅の最中だ。
蘇生魔法使いが必須の、五感と巡り合いで楽しむ宇宙の旅は、まだまだ先が長そうである。
五感と巡り合いで覚える簡単魔法修行*なお蘇生魔法使いが必須となります ぷっつぷ @T-shirasaka
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