慈愛のモンキーイエロー
なんか、ほんとな。調子が、狂う。
カインは、すでに僕と
なんでだよ。
だって、すぐにわかった。
カインはべつにコミュニケーションがぶきっちょな不格好なヤツではない、と。
初日のレクリエーションルームのときからさみしいとかなんとか言ってさ、やたらと僕にくっついてきたからもしや人間関係に難アリのタイプかと思っていたけど――なんか、なんだよ、ぜんぜん、違ったんじゃんかって。
修道院に入った僕たちは学業ではなく修養をする。修養のなかに学業というのも含まれているけれど、でも僕たちの目標は学業そのものではない。あくまでも、神の
教室、というのももちろん神の色の調和の論理のなかにある。
僕たちはそれぞれ目覚めとともに真っ赤な部屋で赤の早朝を越え、
橙の朝から、黄の昼を越えて、黄緑の昼下がりあるいは水色の午後まで――僕たちは、修道院の一角にある真っ白な、整然と机の並んだ教室で、まるで社会の若者たちのごとく週に五日は修養に、励むのだ。
修養は入院式の翌日から早速――つまりきょう、この朝からおこなわれる、わけなんだけど。
カインの自己紹介は、座席順で僕よりもずっと前だった。
「どうもー。俺、カインって言います。カイン・カーフリィ。好きな色は、慈愛のモンキーイエロー」
演説台みたいな
好きな色の優等生的答えに、ほほ、ときょうだけ限定で後ろに立っている先輩修道士たちは、微笑んだ。
「出身は、
凡俗出身か、でもねそんなのここでは関係ないからねってそんなことを言いたげな、先輩修道士だけではなく同輩の兄弟たちさえも含んだそんな雰囲気。
「だけど。どうしてカーフリィ修道院に来たかっていうと、やっぱり神を知っちゃったから」
うん、うん。凡俗出身とて、神の御前では関係のない。
……やたらと高貴なディープレッドの修養服を着たけっこう年上の先輩修道士が、そのようなことをひとりごとめいて厳かにおっしゃって、それこそイエローモンキーの表すように慈愛に満ちて微笑んでいた。
「――俺は
カインはそう言うと、その湖のように蒼い瞳をつと教室のどこでもない場所に固定した。
……ふいに現れた
……悔しいな。僕さえも、だ。
「……たとえば、空を見てくださいみなさん」
空は、橙色だ。
当たり前だ。俗世とは、違って――修道院ではちゃんと、空を着色するのだ。
「あそこにある空は、……朝はいつだってオレンジジュースみたいな色してるけど、」
おい、だから、たとえの低俗さだよ。カイン。
「ホントはソーダ水みたいな水色をしていてさあ、」
「……俗説ではそうとも言いますね?」
突っ込んだのは、先輩修道士。
「――そうそう、そうなんです。俺、そういう俗説のことをとてもよく知ってる。
神を、信じないやからのことを、とてもよく知ってる。
だから、嬉しいんです。いまここに来れて。――神を通じてみんなに出会えて」
……おいおい、ガラじゃないんじゃないかカイン?
そう思うのに――唐突に優等生らしさを見せた彼の演説に、たしかに引き込まれてしまっている自分もいる。
あくまで、教室のひとりとして、そんなことなんてほんらいありえないはずなのに――。
「……飛行機雲っていうのがいまだに凡俗では信じられてんだよな。
飛行機雲。信じられる? ――神の
――キマった。
すくなくとも、カインの演説は。
みんな、げらげらと笑っている。
なかには手を叩くほどの者までいて。
それは――歳相応の少年らしい、騒がしさだった。
でも、僕も席についたままちょっとだけ口の端で笑ってしまったんだ。
だって。そうだよ。――飛行機雲なんていうオールディでギルティな物の見方だけで、神の御許にいる僕らはいつまでだってジョークとして笑えてしまうのだから。
……カイン。
カイン・カーフリィ。
なんだ、キミもほんとは意外と、ちゃんと、してるんじゃないのか――?
ブラザー、神を讃えようぜ。 柳なつき @natsuki0710
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