第7話 終焉

 そして俺達は街から出ることに成功し、近隣の森へと逃げ込むことが出来た。


「ここまで来れば大丈夫だろう」

「うん、そうだね」


 俺の後ろで弱々しくルインは返事をした。

 カナタを殺したあの感触が、未だに離れない。後悔は無い。しかし、なんでこんなことになってしまったのだろう。

 俺のやっていることは、きっと間違っている。カナタが本当は正しいはずだ。一を捨て全を救う。それが普通なのだから。


 しかし、俺はそれでも彼女を守りたい。文字通り、世界中の全てを敵にし、犠牲にしてでも。


 だって、俺は彼女のことを───。









 ────グサッ。









 瞬間、俺の背中から異物が侵入した感触があった。


「え─────?」


 胸を見やれば、カナタの持っていた愛剣が、俺の身を貫き、血液を滴らせていた。


「ごめんね、ハガト」


 背後にゆっくり目をやると、そこには剣の柄を握るルインがいた。


「なん、で…………?」

「このまま一緒にいようと思ったけど、あなたが女神の戦士とわかった以上、生かしておくわけにはいかない」


 彼女は無感情に剣を引き抜き、同時に俺の体は積み木のように崩れ去った。


「万が一女神に目覚められてしまっては、邪神復活の妨げになるからね」


 視界が歪む。異常な寒気に襲われる。痛覚はもはや麻痺し、反応を諦めている。自身の血液の海の中で、こだまのようにルインの声が響く。


「元々私は邪神の末裔で、巫女なのは知っていた。そして、そのことは死ぬまで隠そうとしてたの。しかし、この世界は歪みすぎている。興味本位で王族に取り入って、世界を見てみたけど、酷い有様だった。底知れぬ悪意に満ちたものばかりだった。あの街だって、裏は黒い事だらけ。私はそんな世界に、絶望した。だから、邪神を復活させて、世界を作り直す」


 彼女がこちらを無慈悲に見下ろしてくる。俺が大好きだったあの金色の瞳は、妖しい紅色に変わっていた。


「別に一人でも脱出出来たけど、わざわざありがとう」


 そう言って、俺の顔にハンカチを被せると、ルインは変わらぬ足取りでその場を後にした。





「────あなた達との日々は、それなりに楽しかった。それじゃあね、正義の味方さん」



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「正義の味方」と「悪の敵」 @root0

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