5



 二匹が残したばかりの足跡を追うと、だんだんと道が開けていった。

 そしてニャルが再び二匹を捉えた場所はなんと、畑に入る手前だった!


「落ち着くんだレフ! 大丈夫だから!」

「ラフ! 大丈夫にゃる!?」


 遠吠えを上げて暴れるレフを必死に抑える獣――ラフに、ニャルはしがみついた!


「にゃ、ニャル姉ちゃん!?」

「ラフとレフ、いつの間に変化できるようになったにゃるね!」

「夜になるとこうなっちゃうんだ――そのせいでレフは自分が分からなくなってるみたい――でぶっ!」


 語り途中のラフの顔面にレフのパンチが飛ぶ! ラフが飛ばされた先の畑にぶつかる――はずだった。


 背中から、ばふ、と音がしてそのまま、貼りついたように動かなくなったのだ。


「はあ……間に、あった……!」


 激しく息を切らしながらこう言ったのは、ほうきの柄をこちらに向けるトルテ。彼女は事前に仕掛けた、入ろうとする者を制止させる魔法を発動させたのだ。

 発動させる対象が全く違うが――これが発動したおかげで畑は荒らされない。そう安堵したのも束の間、レフが、貼りついた二匹に突進してくる!


「トリック・ラップ・スピン!」


 トルテからパチンと鳴った指を合図に、ラフとニャルの横から甘い香りの白い物体が通る! それがレフの道を遮ると、レフは白い物体に包まれ、地面に落ちた。


「「 レフ! 」」


 二匹が地に落ちたレフに呼び掛けるも、レフは動く様子がなかった。


「大丈夫よ二人共。我を返せたらきっと――」

「ぷはあーっ! これ美味しーい!」


 トルテが言い切るまでに、白い物体から狼の顔が飛び出した!


「綿飴に包まれるなんて夢のようだよ!」


 満面の笑みで言うレフに目を丸くした二匹だったが、やがて全身から力が抜けていった。


「大丈夫だった?」

「ニャルは大丈夫にゃる!」

「あなたには聞いてないわ」

「にゃる!?」


 驚きの声を上げるニャルを無視し、トルテはラフを抱き上げた。


「よく頑張ったわね、ラフ」

「っ……トルテ姉ちゃあああああ――!」


 トルテに呼び掛けられたラフが大声で泣き出すと、トルテはラフを抱き寄せ、よしよし、と背中を優しく叩いてあげた。


「ラフ! レフ!」

「――にゃるうっ?! 後ろ、大きい、にゃる……!」


 突然かかった声に対するニャルの驚きように、皆がニャルが見ている方向へ目をやる。そこには、トルテの身長をはるかにしのぐ大きさの狼がこちらに近付いてきていた!


「にゃああ! レフを食べちゃダメにゃるーっ!」


 大きな狼は、綿飴に包まれたままのレフに近付き口を開け――!


「――うわっ、やめろよママ! くすぐったいって!」


 舌を出した大きな狼は、レフに付いた綿飴をなめとっていった。そんな光景にニャルは口をあんぐりさせる。


「あれは、ルフおばさん。ルフおばさんのお家の人は皆、狼に変化できるのよ。月が出てる夜限定だけど」


 大きな狼の正体を教えてもらいながら、ニャルはトルテに抱き上げられた。


「じゃあ、ニャルと同じにゃる?」

「そ。ニャルと同じ、変化ができる人達なのよ。でもおばさんのあの大きさ、すごいでしょう? 狭い街路で夜になったりしたら、辺りが壊れて大変な事になっちゃうから、夜の外出は控えてるみたい」


 なのに、と、トルテはラフとレフに向き合う。


「どうして二人は昨日からこんな所にいるのかしら?」


 この問いかけに、ラフとレフは頭を垂れたまま押し黙っている。


「まあまあそのくらいにしてやってよ。元はといえば、あたしが原因だからさ」


 ルフが、二人をかばうように一歩前へ踏み出した。


「実は昨日、あたしが怒りすぎて二人が帰ってこなくなっちゃってさ。それをトルテちゃんに相談しようと思ってたんだけど、事件の話を聞いて勘付いちゃってねえ。トルテちゃんが帰った後、すぐ店を閉めて探し回ったんだよ。早くこいつらを連れて帰って、これ以上畑を荒らさせないように、って。そしたら夜になっちまって、あたしもこの有様さ!」


 口元をめいいっぱいに広げて豪快に笑った後、ふっと目を細めたルフ。そして、ラフとレフの間に顔を入れすり寄った。


「ラフとレフには、いつだってあたしがついてるよ。――明日、一緒に謝りに行こう」


 ルフの言葉に、二匹はすり寄ることで応えた。


「これで解決ね」

「ニャル、全力で走って疲れたにゃる。皆でお家に帰って寝るにゃる」




 翌日。ラフとレフはルフに連れられ、畑を荒らしてしまったことを謝りに、一人一人へ伺い、許しをもらった。

 しかし、畑を荒らした事実は変わらない。そこでルフが、ラフとレフに農作業を手伝わせる、と提案。ラフとレフは汗水垂らし、住人達の下で毎日働いた。トルテとニャルも欠かさず畑へやって来ては、住人達の生活を支えた。


 そうして月日は経ち。草原が、若々しい緑色に染まった頃だった。トルテの家の扉を叩く者が現れる。


「トルテ姉ちゃん! ニャル姉ちゃん! ラフです!」

「レフもいるよー!」


 外から呼び掛けられたトルテが、ニャルを連れて扉を開けると。

 ラフとレフが満面の笑みで、かごいっぱいに入った作物をみせつけてきた。その後ろには当時の住人達が控えており、その人達が持つかごにも、溢れるほどの作物が詰まっていた。


「ついに実ったぜ! 俺達の自慢の作物!」

「おぬしらのおかげでここまで立て直せたぞ。じゃから、そのお礼じゃ。受け取っとくれ!」

「私達、本当に助かったよ! 二人共ありがとうね!」

「「 ありがとう! 」」

「もしかしてこれ、全部採れたてにゃる!?」

「丁度良いわ! これからお昼ご飯をつくるところだったの。早速、このお野菜を使いましょう!」


 ――ここは、あらゆる種族が、各々が育てた産物を分かち合い、分け隔てなく過ごす街“ハロウィンタウン”。

 今日も人々は、産物を持ち寄り、ご馳走の準備に大忙しだ。


「トルテ! 全部美味しそうにゃる! 早く食べたいにゃる!」

「ちゃんと挨拶をしてからよ? 皆、飲み物は持った?」


 トルテの呼び掛けに、全員がグラスを掲げて応える。


「じゃあ……この日の恵みに感謝を!」

「「 これからの恵みに祈りを! 」」


 トルテ達は揃ってグラスを高く掲げると、採れたて出来立ての料理を分かち合ったのだった――!



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ハロウィンタウンの魔女とニャル かーや・ぱっせ @passeven7

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