魔法のレシピ

藤咲雨夜

第1話

 おばあちゃんの家の薄暗い屋根裏部屋に、幼い頃、特にお気に入りだったドールハウスが置かれていた。かつてウサギの家族が暮らしていた小さな家はいつしかこっそり大切なものを隠す場所になり、そうしていつの間にか忘れ去ってしまっていた。

 そのドールハウスの中に、見覚えのない古惚けた一冊のノートを見つけたのは、つい、先週の話だ。

 外見は、かなり昔のデザインのノートでかなり使い込まれているように思える。しかし、中はつい最近書かれたのではないかというほど鮮明に読み取れる手書きのレシピ集だった。

 料理なんてほとんどしたことがないけれど、甘いお菓子は大好きだ。しかも心躍るような風変わりなタイトルとかわいいイラストで解説されている。

 ノートをぺらぺらとめくったあたしはどうしてそのノートがドールハウスの中にあったかなんて考えをすっぽり忘れ去ってそのままノートを持ち帰った。

 部屋に戻るとベッドに寝転んで、夢中になってノートをめくる。

 簡単に作れて可愛くておいしいお菓子はないだろうか?

 けれどもノートに書かれているレシピには聞いたことのない材料が多く含まれている。

 マジョラムはハーブだろうか? 

 料理なんて殆どしないあたしにはよくわからない。

 少なくともマグカップに材料を突っ込んで電子レンジで加熱するだけのお菓子はひとつも見つからなかった。

 ママはお菓子作りなんて嫌いだし、そもそも仕事が忙しいなんて言って作ってはくれないだろう。

 けれどもあたしはどこか神秘的にさえ思えるこのレシピのお菓子たちを食べたくてうずうずしている。

 となると、こういう時に頼れるのはお菓子作りが好きなアンジェラだ。時々学校にサクサクのビスケットやジャムの美味しいスコーンなんかを持ってきてくれる。きっと彼女ならこのよくわからない材料もわかるだろう。

 思いついた瞬間、行動は速い。

 アンジェラに電話して作ってもらおう。

 きっと彼女は断らない。そう、確信してなんとなく手が止まったページを見つめながら電話をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法のレシピ 藤咲雨夜 @AmayoFujisaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る