#6 渚のシンドバッド

 ――こんな具合にすったもんだを片付けた後ぉ、私とたーちゃんと千里センリ先生はあの街を脱出して~、次の日の夜中にはもう目白児童保護育成会の施設についていたんですう。とんでもないハードスケジュールでしょお? 私もたーちゃんも着いたとたんに挨拶もせず、着の身着のままでことんって寝ちゃったくらいですからぁ。


 んーっとぉ、空に居座ってた侵略者も退治されたわけですけどぉ、でも安全は確認はできてないからって理由から空を飛んでの移動はまだ無理でぇ、だから私たちは船で移動したんですぅ。だってえ、先に述べた理由でグズグズしていられなかったんですものぉ。

 え? あの時あの一帯は一般の船舶の航行許可が降りてなかった? 侵略者の体組織を回収作業があったから。あの時あの海域を航行出来たのは太平洋校の輸送船だけだったって? ……あらぁ、そうだったんですかぁ〜。私、今初めて知りましたぁ。



 ──ここにきて語り手が交代したのかと驚かれた方はいらっしゃるだろうか? 安心していただきたい、私である。

 再び目白リリイ時代の口調をこの場にて再現してみせたのは、ここから目白リリイ時代の思い出を語るよという合図を兼ねたちょっとしたおちゃめ心の表れだ。

 文章を書くだなんて慣れないことをしてるんだもの、こうやって時々イタズラをしかけることくらいは許してほしい。



 さて、目白児童保護育成会なる施設にやってきて即、用意された布団にばったり倒れこむようにしてから泥のように眠ったおかげで次の日の朝はすっきり目を覚ますことができた。東から光が差し込み明るく暖かくなりつつある部屋の布団の上で、むっくり起き上がる。

 そして、部屋をぐるりと眺める。前の夜は慣れない船旅による疲れと眠さで部屋の詳細を観察するのをあと回しにしていたのだ。



 古いwebの遺跡からこの文章をわざわざ発掘しては私のこの昔語りにお付き合いくださる酔狂な(あらぁ、ごめんなさぁい~)、もとい、陰謀論や都市伝説なんかのおどろおどろしい話に目が無い暇な方(どうしましたぁ? ご気分害されましたぁ~? やだぁ、本当のこと言われて怒らないでくださいますぅ~?)、ともあれ、好奇心旺盛な方々は、とうにこの目白児童保護育成会なる団体がどういったものかはご存じの筈。

 はいその通り、主に環太平洋圏の戦乱・災害・侵略者の活動によって身寄りを失くした児童を保護し自立できる年齢まで十分な教育を支援するという福祉団体というお奇麗な看板の下で、健康体の子どもたちに国際法で禁じられている類の手術を施して改造人間に造り変えていたことが発覚したのち全世界からバッシングされて閉鎖に追い込まれることになった、目白児童保護育成会だ。私もその節は大変な目に遭ったっけ。幸い皆さまのご支援とご声援、それになりより持って生まれた美貌および歌唱力の身体能力のおかげでこうして一歌手であり女優として生きることができている(ありがとうございまぁす)。


 そんな皆さんのように「メジロの子どもたち」に興味津々な方々の殆どは、私たちが暮らしていた家を病院の病棟のような清潔で無機質な建築物、もしくは身寄りを失った子供たちの保護施設ということで鬼のような指導員にすさんで不潔な子供たちという実に古典的な孤児院をイメージされるようだ。きっと「何も知らされず改造手術を受ける実験体の子どもたちが生活する施設」という哀れなイメージが強すぎるせいだろう。

 だが、「メジロの子どもたち」の一人であり、その上≪飴食いワルキューレキャンディーズ≫だなんて極東が拠点だったアイドル上がりには光栄な隠語で呼ばれるメジロ謹製人造ワルキューレのプロトタイプの一人だった私としてはそれらは間違いだと言わせていただく。


 私たちが暮らしていたのは、古い歴史があり文人墨客が好んで暮らしていたという落ちついた雰囲気の町にある元別荘だ。

 旧日本の首都で代々病院を経営していた目白という一族がもっとも羽振りの良かったころ夏を過ごす目的で建てた日本家屋で、立派な庭の向こうには木立があり、それをぬければプライベートビーチに出られるようになっていた。周囲には目白の号を冠した小さな病院と富裕者向けのホスピスがあったような記憶がある。

 別荘とはいえ精緻な細工物を思わせるほれぼれするような数寄屋造りの日本家屋であり、「メジロの子どもたち」と現代によみがえったヨーゼフ・メンゲレだの堕ちた天才ワルキューレだのと称される目白千里がともに生活したという散々な事故物件になったにもかかわらず、これだけの建材を用いた豪奢な建物を解体するにはあまりに惜しいという理由で重要文化財として保全する動きがすすんでいるとのこと。ということであれば、近日中に一般公開されるのではないだろうか。その日を是非おたのしみに。ただし、その際には期待されているようなおどろおどろしい雰囲気がまるでないことにガッカリしないこと。

 


 ――いっけなぁい、また話がそれちゃいましたぁ。ついおしゃべりがはずんじゃうみたぁい――。



 というわけで話の筋道を、私が初めて目白の施設で朝を迎えた時に戻す。

 

 一晩泥のようになって眠ったその部屋、そこは私が生まれて初めて立ち入った和室だった。

 白い障子に襖、青い畳、どこぞの庭園の様子が彫られた天井の側の欄間。シンプルで掃除の行き届いた、私がそれまでいた環境と全く異なる部屋だ。それも動画や動漫でしか見たことがない木造の日本家屋。だから一瞬、夢を見てるのではないかと惑った。私はいつものようにあの便所の床で寝ているのか、もしくはターニャ姐さんの動画屋にいるんじゃないか、と。


 でも、すぐにこれは夢じゃないと頭や体が現状を受け入れ出す。


 私のすぐ側、同じ布団に、体を丸めるようにして横向きに眠る子供がいたから。それは言うまでもなくタイガだ。

 私と同じように昨夜来ていた安っぽい子供服姿で、あどけない寝顔をさらしている。あどけなさすぎて半開きの口からは涎が垂れて頰や白いシーツを濡らしていた。

 全く、その様子は本当にただの子供だ。便所の個室から音もなく忍び寄りナイフを閃かせながら銃を持った連中の膝の腱を躊躇いなく斬り裂くくらい、修羅場慣れした人間には見えない。古い動漫なら間違いなく、もう食べらんないという寝言を吐きそうだ。

 のんきでだらしないタイガの寝顔を見ながら、私の気持ちは安らいでいた。初めて乗る輸送艦で狭い一部屋に二人押し込まれていた昨日、揺れによる酔いから不安になる私のそばにタイガはいてくれた。そんなことから、私の中ではタイガに対して警戒心をもう少し解いても良いなという気持ちが芽生えつつあったから。

 とにかくこいつはバカはバカだけど、ここぞという大事な局面での飲み込みは異常に早い。お互いロクな育ち方をしてないせいなのか、全て言葉にしなくても視線を交わすだけで何かがピンと通じるような響きあうものがある。悔しいが私よりずっと強い。それに、何故かは知らないけど出会ってから一方的に私なんかを信用してくれる変な外国人の子供。


 朝日がタイガの髪を照らす。タイガの髪は黒だが空気を含ませるようにハサミが入れられたふんわりしたショートカットのお陰で陽の光を浴びると所々明るい茶色に見える。走り回るとぴょんぴょん毛先が跳ねるのがちょっと憎らしい髪だ。タイガが幸せそうに眠っているのをいいことに、手を伸ばしてそれに触れる。見た目通りコシが少ない髪を無意味に指先で何度かすいてみる。


 生き物を飼って愛でるなんてゆとりなんてものが、路上や便所でくらしていた子供時代の私にあるわけがない。

 だからそれまで、温かくてピクピク動くような生き物の毛並みを撫でるような行為は、人の心をむやみやたらに落ち着かせることだと全く知らなかった。

 ──ああだから──と、昨日のことに思いを馳せた時、タイガがきゅうっと身を縮めた。そして目をきつく閉じる。


 思わず手を止めると、ゆっくりぼんやり体の緊張を解きながら意外と長いまつげの生えそろった瞼をゆっくり持ち上げる。ぼんやりとこっちに向けられた、うんと濃い珈琲みたいな色の瞳にに私が映る。気まずくて髪をすく手を引っ込めた。


 寝ぼけまなこのタイガは私をじっと見て、何度かまばたきをくり返す。


「りりい……?」


 まだ慣れない私の新しい名前を口にした。その響きに一瞬違和感を覚えたものの、勝手に髪に触れて和んでいた気まずさをごまかすために私は目覚めの挨拶をする。


「おはよう、タイガ。お日さんも上ったんだからとっとと起きなよ。昨日も言った通り、おれ、ここから外に出るんだからお前の協力が──」

「……オハヨウ、りりい。※※※※?」


 むっくり体を起こし伸びをして、涎で不快らしい口元を手の甲で無造作に拭うタイガの口から放たれる外国語に、私は身を強張らせた。オハヨウ、という単語からタイガの口から放たれたのは日本語なのはわかる。わからないのはここでは翻訳機能が全く働いていないことだ。

 どこもかしこも屋内や路上にセッティングされた翻訳システムで外国人が母語同士で語ってもスムーズに会話できる社会になって久しいこの時代、昨日までなんの問題もなく会話していた相手のタイガから馴染みの少ない言語が漏れることに、私は軽いパニックに陥る。


 旧日本製動漫に親しんでいた私なので、ほんの少しだけなら日本語のヒアリングもできたが日常会話が楽しめるほどではない。焦りながらも私は慣れない日本語と身振り手振りでタイガに話しかける。


「タイガ、ここ、言葉、通じない。何故? それから、ワタシ、出たい、外」

「……んあ? りりい、※※※※※、※※※※※……」


 目をこすったり欠伸をしたり、固まった体を伸ばしたりタイガは起床に伴う仕草を私に見せつけながら日本語で何かを喋る。

 おそらくあの子のことだから、「まだ言ってんのかよ、そんなの無理だって」か「それよりまず朝飯食おうぜ、ここの飯あんま美味くねえけど」というようなことをむにゃむにゃ口にしていた筈である。

 けれど、あの街で訳されたタイガの言葉はご存知のようにあのようなものだったからタイガは初心者では聞き取りにくい癖の強すぎる日本語を口にしていた。それに焦れて私がつい舌打ちをした時に、どたどたどたどたとまるで地響きをたてるような複数の足音がこっちにむかってせまり来た。


 反射的に側にある傘に手を伸ばそうとした私をみてタイガは一瞬で覚醒したのか傘を持つ私の手を持ってそれを使うなと光のともった目で指示した。それを見て頷いたと同時に、障子に複数の影が差して即、スパン! と左右に開いた。


「オカエリターチャン! ※※※※っ!」


 けたたましい日本語が室内の静けさを破り、濃い茶色と金の髪の塊がタイガの目の前に座った後、首根っこをかきいだく形でぎゅーっと抱きしめたのだった。タイガの手は私の手の甲の上に置かれたままなのに。

 しかもあとからあとからどやどややってきた、大小様々な子供達がタイガの周りを取り囲んだ。室内が一気にやかましくなる。


 タイガに抱きつく茶と金まだらの髪に黒いニットとチェックのスカートというモノトーンベースの装いにつつんだそいつは日本語で何かしらまくし立てる。

 顔はタイガの顔の向こう側にあるので私からは見えないが、障子だから仕方ない面もあるもののノックもせず闖入してきた上にその部屋で休んでる最中の人間を華麗に無視したそいつの無作法さよりも、私が気になったのはタイガの方だ。

 私の手から自分の手を離し、同じようにそいつをぎゅっと抱き返したのだから。


 その上、にいっと猫目を細めた私に散々むけてきたのと全く同じ笑顔で向けて、二色まだらの髪を撫でる。


「タダイマくうが、※※※※※? ※※※──……」


 おそらく、大人しくしてたか? チビの面倒はちゃんと見てたか? オレがいなくて寂しくなかったか? ……なんてことをタイガは雑な日本語で伝えていた筈である。


 ──全くこういう子だったのだ! たーちゃんという子は、本当にもう!

 と、今思い出してもつい唇を噛んでしまうというのに、その時の私のショックと混乱たるや相当なものだった。

 こいつがいるならなんとかなるかもなと相手を信じた上で見知らぬ土地の怪しい施設にやってきたというのに、そいつとは急に言葉が通じなくなった上に同い年ぐらいの知らない相手に抱きつかれたのを笑顔で受け止めながら私の扱えない言語でニコニコ語り出したのだ。しかも隣にいる私のことなど忘れたように。


 昨日の夜には船の中であんなことを言ってくれたのに。


 まだ赤ん坊と言っていいような、肌も髪も目の色も様々な二から三歳のチビたち数人が私を取り囲み、あんたは誰? という目つきでこっちを見上げたり舌足らずな日本語でなんだかウニャウニャ騒いでいたけれどそれどころではない。ショック状態からまともな精神状態に立ち直るために傘を抱きながら全神経を集中させていたのだ。気持ちを切り替えてここから外へ出て行くためには冷静にならないといけない。

 シンジテイタノニウラギラレタ! という爆弾を心の中に落とされたことによるショックは私の中でそれくらい甚大だったのだ。


 そんな私を煽ったのはもちろん、タイガに抱きついていた濃い茶と金の混ざった同い年くらいの特撮ヒーローみたいな名前で呼ばれた女だ。

 チビ達の騒ぎでようやく私の存在にやっとこさ気づいたらしい。タイガから体を離してこっちを見ると、明るい茶色の黒目が優って大きい目でこっちを睨む。好莱坞ハリウッド産映画の女優にでもなる気なのかって塩梅の派手な顔つきの女だった。

 派手な顔のそいつ、クウガは笑顔を引っ込めてこっちをじっと見つめてから私の所に立て膝で近寄る。


「アンタ誰?」


 そして私が抱きしめる傘を見て怪訝そうな表情になり、何かを呟くと無造に手を伸ばす。咎めるような口ぶりだったので私はとっさに柄を取り外して仕込みの刃を飛び出させた。

 クウガの顔色も、それにタイガの表情も一変し何か日本語で短く叫んで私に手を伸ばした。

 それより先に私はクウガの方へ刃を向ける。私の傘に触れるな、という警告だけに収めるには過剰なムカつきを乗せたそれを、クウガはスレスレで躱した。そのまま流れるような動きで私の右腕を掴んで両脚を絡めて締め上げ関節を固めに入られた。


 ――いやはや、怒りや悲しみで冷静な判断能力を欠いてしまうのは全くもっていただけない。初対面の人間に間接技をキメられそうになるのだから。


 クウガが私の手首から傘の柄を奪い取ろうとしたタイミングでなんとかそれを指先で回して刃の向きを変える。目の前に刃先がちらついたのに怯んだクウガが力を抜いた瞬間に跳ね起きて飛び退り距離をとった。

 そのまま一瞬の隙で私を逃した悔しさを隠さないクウガへ傘の石突を向ける。

 コイツにしめられたせいで右腕が痛み、利き腕ではない左手で傘を持たなきゃいけないのが悔しいが、血相を変えたタイガが顔を真っ赤にしているクウガの前に回って庇い、早口でさささっと何か囁くのがのがまたやたらめったら悔しかった。


「なんだよ、おれの分からない言葉でしゃべんなっ!」


 気が付けば鼻の奥が痛くなるし、目の前が滲むし、みっともなくて喚きちらしている。ここで礫を安易に打ち出さなかったのはなけなしのプライドが残っていたせいだろう。

 タイガはというと、おちつけおちつけどうどう……というように両手をゆっくり上下させる。いたって真面目な顔つきなのにふざけているようにしか見えないその動作が私を苛立たせる。からかわれているとしか思えなかったのだ。しかも言葉がよくわからないとなると苛立ちも悲しみも膨れ上がる。


「りりい、くうがは※※※※、※※※※※※……」

「だからおれのわかる言葉で喋れつってんだろうが!」


 吠える私を挑発する目的があったのだろう、タイガに庇われているクウガは涙目の私をみて一発フフンと鼻で笑うと背後からタイガに抱き着く。そして自分たちだけが通じる言葉でなにやら囁く。多分、あの傘女こわーいなんとかして~、みたいなこと言ってんだな、というのはその顔つきで分かった。

 よーし分かった、目の前のガキ二人すみやかに蜂の巣にしてくれる――。というタイミングで私の背後の襖がスパンと開いた。その気配に気づく間もなく私の頭にごちんと衝撃が走る。

 背後からどすどす足音たててやってきた後ろ姿がまるっこいおばちゃんににゲンコツでなぐられたという状況を把握する間に、おばちゃんはずかずか歩いてタイガとクウガも同じようにごちんごちんと鉄拳制裁を下した。そのうえ日本語でガウガウガウガウ! と怒鳴って二人を叱った。おばちゃんにしかられた二人はあわてて正座し、反省した顔つきでぺこんと頭を下げる。

 それを確認してからおばちゃんは振り向き、ゲンコツ落とされて痛む頭をかかえる私を見つめた。

 エプロンつけた後ろ姿同様ちょっと丸っこい顔に化粧をやや厚めにぬってはいるけれどまん丸い目やおちょぼ口が可愛らしいとは言えなくもないおばちゃんは、私を前にしてまた怖い顔を作る。

 その顔に向けて私は感情のまま罵った。どうせこいつにも私の言葉は伝わらないのだという悲しみと開き直りによる八つ当たりだ。


 なにしやがるクソババアぶち殺すぞ――と、どんなに丁寧に訳してもこういった意味んにしかならない、下品な罵倒だ。それを聞いたおばちゃんの化粧で大きく見せている目を大きく見開いてこういった。


「まあっ、なんて口の悪い子でしょう! そんな悪い言葉を使う子には、今日のおやつはあげられません! せっかくあなたの歓迎をするためにケーキを用意したのに、もうっ」

「何が歓迎会だ、ケーキだ、ふざけてんじゃ」


 ねえぞクソババア――、と続ける予定が尻すぼみになったのは、ぷうっと丸っこい顔を余計に膨らませておこっているおばちゃんの言葉が私にも理解できるとようやく気付いたからだ。つまりこの、エプロンつけた子だくさんのおっかさんみたいなおばちゃんは、私の故郷の母語を翻訳機能も使うことなく流暢に操っているということになる。

 それに気づいて私は怯んだ。さっきおばちゃんに向かって投げつけた言葉が、昨日までいた街では女の人へ向けた最低最悪の罵り言葉だったためだ。そういう言葉を使ってしまった自分が猛烈に恥ずかしくなったのである。


 言葉に窮する私を見て、おばちゃんの怒った顔は緩んでゆく。


「反省したならよろしい。うちの規則は〝ケンカは外で″! 特に武器を使うような激しいものはお家の中じゃ厳禁ですっ。守れなかった子はその日一日おやつ抜きですよ!」


 そしておそらく同じことをタイガとクウガの二人にも言い聞かせた。ハイ、と神妙な顔つきで二人は唱和した。 

 それに満足したのかおばちゃんは腰に手を当てて大きく頷くと、パンパン手を叩いてなにやら日本語で言う。するとタイガとクウガも、他の大小さまざまなガキたちもそろってハ~イと返事をし、どやどやとこの部屋の外へ出て行った。

 タイガは私の方を見て腕を伸ばしたけれど、あの忌々しいクウガがもう片方の腕をつかんで引きずってゆく。かくしてタイガ含むガキ連中は、クウガがやってきた外に面した奇妙な廊下(縁側って呼び名があることを私はまだ知らない)を通って別の部屋へ移動してゆく。


 後に残された私は、とりあえず隣にいるおばちゃんを睨む。この家の中で唯一言葉の通じる人間なのだ、聞きたいことは山のようにあった。


「なんでここ翻訳機設置してないの? 壊れてんの?」

「人に物を訊ねる前にあなたは私に言わなければいけないことがあるんじゃなくて?」

 

 お上品な言葉でおばちゃんは会話の主導権を握っているのは自分だと主張する。仕方がないので、さっきはあんなひどい言葉を使ってごめんなさいと謝ると、満足したように大きくうなずいてから答えた。


「何事も勉強よ。旧日本はワルキューレ産業においてかろうじてトップシェアを死守していますからね。翻訳機能を介せず日本語で日常会話がこなせるようになって得することはあれど損はいたしません。あなた達の今後を十分助けてくれます」

「――なるほど」


 うまいボルシチをつくりそうなおばちゃんの雰囲気を裏切る理にかなった答えが返ってきたので、思わず感心してしまった。ついつい何度もうなずいる間におばちゃんは続けた。


「でも当然、あなたたちにはここにいる間、英語、北京語は身に着けて頂きます。希望するなら、他の言語の勉強のバックアップしましょう。他の勉強に関しても同様です。私たちにはあなたたちの生命と安全を保証し、よりよい将来をいきるために力を惜しまないという義務と責任がありますからね」


 熱をおびたおばちゃんのおちょぼ口から放たれる私の故郷の母語は、一度も行ったことが無い学校の先生を彷彿とするものだった。

 正直言って、北京語、山東省方言、朝鮮語、ウクライナやベラルーシあたりの言葉が入り混じって何が何やら複雑怪奇極まりないことになっていた故郷の街の言葉よりよほど綺麗で流暢だった。外国人が翻訳システム介さずにこれだけ喋れるのは大したものだと感心せずにはいられない。


「おばちゃん、あんた凄いね。――さてはただの飯炊きおばちゃんじゃないね?」

「おばちゃんじゃありません、ワコさんと呼びなさい。今後、おばちゃんなんて呼んでも私は返事しませんからね」


 つん、と丸っこい顔を上向けておばちゃん、もといワコさんはそう命じた。どうやらこいつはボルシチや饅頭を作るのが上手そうなただのおばちゃんではない、おそらくこの怪しすぎる施設の上の方にいるヤツだと判断して私は素直に「Даはい」 と返した。

 するとワコさんはあっさり満足したらしく、私の背中に手を添えてタイガ含むガキたちの後へ続けと促した。朝食の準備ができているのだという。


「あら、その傘――」

 

 縁側を歩いているとワコさんは私が傘を持っていることに気が付いて、そっと眉に皴を寄せた。


「うちでは傘は玄関より上にあげてはいけないことになってるの。今日は仕方ないけれど、朝食が終わったら傘立てに片づけなさいね」

「それは無理。この傘はただの雨傘じゃない」

「ええ、センちゃんからの報告は受けています。だったらなおのこと傘立てに仕舞いなさい。さっきも言ったでしょう? 〝特に武器を使うような激しいケンカはお家の中じゃ絶対厳禁″って」


 やわらかいが、有無を言わさない口調だった。しかたがないのでДаはいと返さざるを得ない。とりあえず初めての外国の見知らぬ街、一番言葉を交わしたいやつとまともに会話が成り立たないこの場所で下手に動くと自分の首をしめてしまう。

 まずは状況を把握・整理し、この場に慣れることが先決。そうした暁に腕の関節締め上げてくれたあのクウガとかいう女に反撃してやる――! という思いを強めてからはたと気づいた。


 あいつ、もしや傘は傘立てに仕舞えって言おうとしたんじゃないかな。

 それからタイガはおれにそれを伝えようとしてたんじゃないかな。


 気づいたその瞬間だけは反省の気持ちが強まりはしたのだけど、やっぱりそれはその時だけ。

 傘を向けた私を挑発するようにタイガにだきついたクウガと、そもそもクウガが部屋に乱入した時に私のことをきれいさっぱり無視して、私にむけていたのとそっくり同じ笑みを浮かべていたことへのむかっ腹はどうしたって収まらなかった。


 なんだよアイツ、人のこと散々綺麗だとかお姫様みたいだとか、チー坊はもっと可愛い名前の方がいいからリリイって名前にしろよとか、その他いろいろ背筋がむずむずするような調子のいいことばっかりこきやがって――と、タイガに対して腹の中を煮え立たせながらも、それより何倍もむかついていたのは自分自身についてだった。


 公衆便所をねぐらにしながら誇り高い自営業者として生き抜いてきた小戚シャオチーさまが、たかだかあんなガキんちょに綺麗だ可愛いだと当たり前の事実を連呼されたたり気持ちがちょっとばかし不安定になっていた時一緒にいてくれた程度のことだけでこのザマとは、ああ不甲斐ない情けない。これじゃどこかの山出しのおぼこ娘のことを笑えないじゃないか、あのいかつい顔のくせに童話にやたらくわしかった兄さん好みのさ――と。

 

 だから先に出て行ったガキ連中が席についている食堂へつれていかれるまでの間、しばらくワコさんとかいうおばちゃんのご期待にそって適当に言葉のお勉強させてもらってから健康体のガキにクスリを服用ませる妙な都市伝説にまみれたこんな怪しい施設からはさっさととんずらこいてやる――という決意を高めていた。

 


 ――はい、というわけで目白児童保護育成会マニアの方々にはおなじみの方がご登場と相成った。

 被害者が語る、狂気のドクター・マザーなどおどろおどろしい仇名で呼ばれる目白児童保護育成会の会長であり医学博士の故・目白輪子わこ(旧姓・北ノ方輪子)の凄惨な児童虐待の現場をご堪能いただけだだろうか。

 あの人は確かに躾の際に手が出てしまう所もあったけれど、先の通り子供達が決まり事を破って家の中で騒ぎすぎた時などに限定されていた。子供達や職員の上に君臨しては各種パワーハラスメントをかまし続けたハートの女王のように語られがちなこの人の実態はこんなものである。残虐な暴君の身の毛もよだつようなお話を楽しみにされていた皆様方のご期待に応えられなくて申し訳ない。

 ともあれ、ボルシチやら馒头マントウ作るのが上手そうなおばちゃんに見えてかなり切れるし意識が高くてちょっと鼻息があらいというのが、目白輪子に対する私の第一印象である。この人とは三年近く生活を共にしたが、基本的にその印象はゆらがなかった。

 病院経営を引退したあとに好き好んで世界各地の孤児を引き取って面倒をみるというノブレス・オブリージュじみたことをしでかすような所にあらわれている、あの「世界のキタノカタ」って呼ばれる財閥総帥のお嬢さんだったっていう出自に依るものだろう天衣無縫ぶりには時々振り回されたけれど、巷間面白げに噂される鬼婆めいたイメージは今でも無い。いくぶん理想主義者じみた所はみられたが、年齢のわりに頭の中身はぴんと冴えていて理知的なおばちゃんだった。

 ――まあ本当のことを言うとおばちゃんというよりおばあちゃんという方が正しい年齢だったみたいだけど、それを言うときっとあの人はあの世で機嫌を損ねることだろう。天国か地獄、今どちらにいらっしゃるのかはわからないが――。


 

 中断はおしまい。物語はこの日の朝食の場面に移る。



 数寄屋造りの日本建築なのに、食堂は長テーブルと椅子を並べた半洋風だった。

 そこでワコさんにより、皆の前で私のことが日本語で紹介された。この度、私たちの家族の一人になりましたリリイさんです。皆さん仲良くするように……と。

 十数人分のガキの視線を意識しながら、私はそっぽを向いていた。綺麗に洗った素顔を晒すのにまだ慣れていなかったこともあるし、人の顔をぐいぐい見つめてくるガキの遠慮のない視線に内心たじろいでいたのもある。それになにより、こっちを見てニィッと笑いながら小さく手を振るタイガのとなりに当たり前のようにいるクウガがいるのが最高に面白くなかったことが大きい。


 何か挨拶なさいとワコさんに指示されたが、私はかたくなに無言を貫いた。せっつかれて小声て叱られても、たっぷり五分はそっぽをむいてだんまりを続けた。

 時間は朝食前である。配膳された米と汁と魚の切り身となんだか地味な色合いのおかずという献立の朝食を前に、元気な子供たちは腹をすかし切っている。そんな連中の前でだんまりし続ける人並外れて美しい子供。

 当然食堂の中は静まり返る。この家の雰囲気に溶け合った振り子時計の秒針、庭の木々の葉擦れ、小鳥のさえずり、庭の向こうの木立を突っ切った先にある砂浜からの潮騒まで聞こえる始末。

 私のだんまりを最初は興味津々で受け入れていた子供たちも、一分、二分と私が明後日の方向を見つつ何も口にしようとしないのを当然不審に思いだす。それ以前に辛抱するのが難しい年少者は体をもぞもぞさせたり、日本語で何かをつぶやきだす。そして誰かの腹の虫が鳴く音も。

 それでも私はだんまりを続けた。テーブルに並んだ子供たちの表情からもストレートにイライラを隠さないものへと変わりだす。無理もない。だが知ったことでは無い。

 いつまでたっても黙り続ける私へのあてつけのように、誰かがはあっとこれ見よがしなため息を吐いた。目の端でその発生源を伺うと、どうやらクウガだった。そうなるといよいよ意地になる。

 そろそろ挨拶なさい。みんなお腹をすかせてるのよ? と困ったワコさんからもせかされたが、それならばと私は一層意固地になる。心配げな顔つきのタイガが口に手をそえて何かを伝えようとしているのを見てしまうとなおのこと腹が足つ。

 

 梃子でも喋らない、という姿勢を維持し続けた私に折れて、ワコさんが挨拶を切り上げた。合唱してなにやらお祈りめいた一言を口にする。静けさから解放された子供たちはすっかり冷めきった目の前の食事に食らいついたのだった。

 こうして私は目白児童保護育成会の一員となったその日に早速、同じ家にくらすことになる仲間たちから「顔は綺麗だけど性格は極悪な奴」「こんなひねくれ者みたことがない」「絶対仲良くなんかするものか」といった最悪な第一印象を植え付けることに成功したのだった。

 別に狙ってやった振る舞いではなかったけれど、私もここの子ども達となれ合うつもりはさらさらなかったので困りはしなかった。


 困っていたのは隣のワコさんだっただろう。大いにため息を吐きながら私を空いた席に座らせる。そこでもくもくと私は食べ慣れない味がする汁を飲んでから炊かれた白米を食べた。

 私が箸をきちんと使いこなすことにワコさんは目をとめていたようだが(飯の食い方が汚いヤツの所に良い仕事は来ないという哲学を持っていた父ちゃんの躾けの賜物である)、そんなことはどうでもよかった。

 

 私の座った席からタイガのことをじいっと睨んでやったのだ。タイガは隣のクウガとなにやらニコニコしゃべりながら飯をくらっている。どっちも箸の持ち方がなっちゃないし、茶碗に口をつけて白米を箸で掻き込むし、口に物をいれたままなにやらおしゃべりをするしで行儀が悪い。私の隣のワコさんがすかさずそれを見とがめて注意すると、ハ~イと型通りの返事だけ寄越す。

 

 きったねえ食い方しやがって――という私の視線を感じたのか、タイガが不意にこっちへきょとんとさせた猫目をこっちへ向ける。

 そしてやっぱりニィッと笑って、箸を握ったままの右手を小さく振った。私はそこから顔をそむけて、切り身の魚の身を箸先でほぐした。

 

 何故なら私はまだ腹を立てていたからである。あの船の中じゃあんなことを言ってた癖にいい気なもんだな、と。

 ぷりぷりしながら、もうすでに遠い過去になってしまったような一昨日から昨日にかけてのことを振り返らずにはいられなかったのだ。

 

 

 ――目白の家で初めて朝食を食べた日から一昨日のことになる、あの晩のことだ。



 南から来た黒社会の若様たちが大変なことになっているという連絡がこの街のとある階層の住民から血の気を奪っていた筈のあの時間帯。

 瞬く間に駅や港に親分さんの下っ端たちが手配され、下水道その他で寝泊まりする身寄りのない浮浪児たちを叩き起こしたうえでの首実検が始まり、侵略者がツンドラに叩き落されたお陰で静かになった空と入れ替わるようにに地上が騒がしくなった頃、私とタイガとセンリの姿は既にそこには無かった。

 一般人の立ち入りが禁止されている軍の施設の内側にいたからである。


 国連や各国に所属するような士官クラスのプロではなく、他の仕事についたり家庭に収まったりして平穏な日常生活ってやつを送っていても一度でもワルキューレをやっていた人間は予備役ワルキューレって扱いになってしまう。

 そうなったが最後、次の日には大事な仕事が控えていても、身内の葬式が控えていても、なんなら今日明日中に腹の中にいる赤ん坊が出てくるって土壇場だったとしても、「お前の住んでる数キロ圏内に侵略者が出たから退治に迎え」って命令が飛んで来たらそれに従わなきゃならないっていう不自由を強いられてしまうのだ。

 その分、色んな特権も与えられてはいた。そうでなきゃあ誰がワルキューレなんて面倒なものをやりたがるものか。


 元ワルキューレのセンリはその特権を平然と駆使しまくった。

 勝手に私の名前をリリイに決めたすぐあと、軍用車であることを示すナンバーをつけたそれが道の傍らにとまった。ライトを点滅させた合図を寄越されると、センリは「お、来た来た」とまるで呼びつけたタクシーが停まったような反応をみせた。うっかりびびった私とは大違いだ。


 センリが車に向けて手をあげると、助手席のドアが開いて一人の女がおりてきた。

 驚いたのはそいつがセンリとそっくり同じ顔をしていることだった。とはいえ、同じくらいの年恰好をして同じように眼鏡をかけているが、雰囲気は全然違う。黒くて長い髪をばさばさなびかせ、毛羽立ったキャメルのトレンチを引っ掛けた咥え煙草のヨレた雰囲気のセンリと違い、その女は太平洋校のエンブレム入りのカーキのコートをきっちり着込み、髪もきっちり編み込んでまとめていた。

 私たち三人を見つけるや、眉間に皴をよせて眼鏡の位置を直した生真面目そうなカーキのコートのこの女をみて私の頭に浮かんだのは名作動漫に出てくるロッテンマイヤーさんって呼ばれるキャラクターだ。と、同時に、本屋のインさんが見せてくれた「委員長」って見た目だった現役時代のセンリをそのまま成長させたらこうなりそうだな、とも思う。


「――何年かぶりに連絡をよこしたと思ったら――、何やってるのよあんたは!」

  

 ロッテンマイヤーさんじみたその女は、ヒールの靴をカツカツならしてこっちに近づいてくる。怒ってるそいつと違ってセンリは飄々としながら、タバコをふかした。


「何やってんのって、あんたの教え子の活躍を身に来たんだけど。――それにしても、マリこそこっちに連絡もよこさないで何やってんのかと思ったら、まさか先生になって後進の育成に当たってるとはね。面白すぎてヘソが茶を沸かすんだけど」

「それはこっちの台詞よ、センリ――。あんたに関する悪い噂は全部否定してきたのに、本人がそれを全肯定するような証拠をつれて目の前に現れるなんて思いもしなかったわ。本当に嗤っちゃう」


 マリ、と呼ばれたロッテンマイヤーさん女はセンリの口からタバコをむしり取ると右手を振って亜空間に通じる穴を作り出すと、火が付いたままのそれを放り捨てる。そして、血まみれでドロドロの私とタイガを見るや、悲しいのか腹が立ってるのかよくわからない何とも微妙な表情をみせた。


 亜空間に通じる穴をいとも簡単にこの世に発生させた(ゴミ箱じゃないんだからさ、と呟いたセンリを、お黙りなさい! とマリは一喝していた)ことからマリと呼ばれたこの女もワルキューレなのは明白だ。しかも軍の制服じみた太平洋校エンブレム入りのコートを着ているあたり、こいつは中でもプロにあたるやつだなと私にもわかった。

 プロワルキューレのマリは、言いたいことは山のようにありそうな顔をしていたものの車の中にさっさと乗れと命じる。地上が騒がしくなっているのを把握していたのだろう。


 前にも語った通り、私には強くて可愛いワルキューレに夢中になるような幼少期は存在しなかった。だから、第一世代に属するクラカケセンリ・マリっていう双子ワルキューレに関する知識なんてあるわけが無かった。

 妙な兵器や作戦を考案して侵略者に立ち向かった天才少女のセンリと、新体操の強化選手で高い身体能力を活かした華麗な戦い方をしたマリの姉妹は、外見はそっくりなのに中身がまるで違うところがステキだと当時の女児から大人気だったと知ったのはもうしばらく後になる。


 同じように太平洋校のエンブレムの入ったコートを身に着けた運転手が運転する車の助手席から、三人並んで後部座席に座った私たちをがみがみくどくどと𠮟りつけた印象がやたら強い。


「大体、何よ? 急に通話してきたと思ったら、何にも言わずに迎えに来ての輸送船フネに乗せて欲しいだなんて。厚かましいとかそういうレベルの話じゃないわよっ?」

「ワルキューレは朋輩も愛せよ、ナンチャラ憲章とやらにそうあるんじゃなかった?」

「暴力を生業とする方がたの抗争に一枚も二枚も噛んでるワルキューレの逃亡を助けよなんて条文はないわね」

「ま、そういわないでよ。――無垢でいたいけな子供をおっかないおっちゃん達の手の届かない場所へ運んでやんなきゃ、ワルキューレの名が廃るじゃないか。だって全人類を愛さなきゃなんないんだろ、ワルキューレはさ?」


 ルームミラーごしに私とタイガを見るマリの眼鏡越しの目は、センリの言う「無垢でいたいけ」って所に疑問を隠そうとはしなかった。でも、タイガにニィッと笑いかけられて反論する気を失くしたようにため息をふーっと吐く。


「――あなたたちを船に乗せるのは児童保護の為よ? それ以上でもそれ以下でもありませんから」

「うんうん、それで十分。じゃあ悪いけど、横須賀あたりまで乗せてってくれる?」

「あのね、うちは乗り合いタクシーじゃないのよ? 元山ウォンサンまでで我慢なさい」

「ええ~……あんたそんな渋いヤツだった? 昔のあんたはもっと気前よくて融通きかせてくれたのにさぁ……。せめて柏崎まではのせてよね」


 お祭りの熱気がまだまだ消えない町の中を軍用車は走る。遮光ガラスの中で大人二人はざっくらばんな口調で交渉し、子供二人はというと街の様子を無心に眺める。私は観光客の波にまぎれて見知った顔のおっさんどもがそこかしこにちらちら潜んでいるのを時々確認して傘を抱きしめていたし、タイガはというと軍港が近づき大きな艦船を前にしてはやっぱり無邪気な歓声をあげた。 


 侵略者退治には臨機応変さを問われる場面が多く、必要とあらばワルキューレのノリや口約束を国連や各国の軍規より優先してもよいと認められている。そしてこれをある程度まで拡大解釈すること――たとえば行きずりのワルキューレが「ちょっとそこまで乗せていって」と頼むので輸送船に乗せてやる等――が、特権として認められていたのだ。もちろん、目に余らないレベルではあるけれど。目に余ったらそれなりに懲罰は受けるのだけど。


 ともあれ、久しぶりに再会した姉妹同士の緩いノリのお陰で、軍港の私たちは一般人(非合法な商売で食っているおっかない大人たちを含む)が立ち入れないエリアに堂々と足を踏み入れ、海に浮かぶ小さな山のように見える太平洋校の輸送船に乗り込んだのだった。そしてセンリの頼んだ通りの港で下ろされ旅客機などを乗り継ぎ、太平洋に面した目白児童保護育成会の施設にたどりついた。そういう経緯で私は旧日本へやってきたのだ。



 ――私、法律のことにはぜーんぜん詳しくないんでお訊ねしますけどぉ、これって法に抵触してることってありますぅ? 千里先生ったらワルキューレって立場を利用して孤児をを堂々攫って国外に連れ出してるんですものぉ。もう時効になるかしらぁ? あはは、やっぱりなりませんかぁ。ざーんねん。


 でもぉ、この一連の行動って、私っていうすぐさま保護の必要な子供を避難させるためにセンリ先生がやむなくお取りになった手段なわけじゃないですかぁ? ですからこれも「必要悪」ってことになりません~? この酔狂な文章におつきあいいただいているのかもしれない、数十件の未成年誘拐・略取、人身売買、第三国の子どもに医療上必要のない手術を施した容疑で収監された「堕ちた天才ワルキューレ」「現代のヨーゼフ・メンゲレ」こと目白千里(旧姓・鞍掛千里)に興味津々の皆様方におかれましてはぁ~? 

 少なくともぉ、センリ先生の手術を受けた無数の子どもたちのうち二人である私とたーちゃんは先生のことを全然恨んでいませんでしたよぉ~? 



 ――っと、話がまた逸れそうになる。



 ともあれ、センリがワルキューレに与えられた権利を拡大解釈しまくったお陰で安全かつまあまあ快適に国外へ脱出することが可能になったわけである。

 見るからに堅物そうなワルキューレのマリだったけど、私たち二人の格好をみて風呂を用意してくれたし、サイズのあってない安物であるとはいえ着替えも用意してくれた。人類を愛せよと仕込まれている分、みるからに怪しくても子供はほっとけない性分だったのだろう。


 狭くてちょっと臭うが、二段ベッドのある船室を貸してくれたマリへ風呂上りのタイガがぺこんと頭を下げた。


「ありがとう、先生さんの妹さん! お陰で助かりました。妹さんはオレとリリイの命の恩人です」

「違う、妹はセンリの方! あの子ったらこんな小さい子に嘘教えて……!」


 寝具と食事を用意しながら、マリは呟いた。どっちが姉ちゃんで妹だろうがどうでもいいだろ、という目で私がみていることに気まずそうに咳払いをしてから、タイガへ向けて苦笑する。

 ――あの子は基本的に他人に笑顔を出し惜しむということを一切しない愛想が抜群にいい子だったので、めったなことでは大人たちからは嫌われなかった。一緒に行動している時にあの性分には大いに窮地を救われたものだ――。


「ねえ、妹さん。今日デビューしたワルキューレの姐さんたちはこの船に今乗ってんすか? オレ挨拶にいっていいですかっ?」


 猫目をきらきら輝かせたタイガをみて、厳格な家庭教師みたいだったワルキューレも表情をちょっと緩めた。


「ええ。――ただあの子たちも初出撃で疲れてるから、そっとしておいてあげて頂戴」

「……ちぇー。つまんねえ」


 二段ベッドの下段に座って足をぷらぷらさせながら頬を膨らませるタイガをみるマリの顔つきが、さっきちらっと見せた微妙そうなものになるのを私はみていた。タイガの背後、二段ベッドの下段に転がってぺたんこの枕にかをうずめながら。

 初めて乗る船、生まれてからずっといたあの街の外へ出るという緊張、その他諸々の精神状態で、情けない話だが気分が悪くなっていたのだ。空調から漏れてくる埃の混ざった空気の臭いにもやられてしまう。


「じゃあさ、妹さんっ。あのワルキューレの二人に言っといてくんねえ? あんた達絶対すっごいワルキューレになれるよって。オレさ、リリイが来るの待ちながら地上からずーっと空見てたんだけどヤバかったもん。しゅばばばばー、どかーんってさぁ。オレ、うわーハンパねぇーマジスゲーってなってたし」

「そう? じゃああなたがあの子たちのファン一号ってことになるのかしら? ありがとう、伝えておくわね」


 マリの声が柔らかくなった。そりゃあ、しゅばばばーどかーんでハンパねーマジすげー、という語彙貧弱な子供に目をキラキラして感動を伝えられたら大人としては優しい気持ちにもなろう。

 おまけにその時のタイガはトドメのようにこう言ったもんだから、ある意味タチが悪い。


「あとさ、あの姐さん達にこう言っといてほしいんだ。オレもあと三年たったらワルキューレになって太平洋校に入るから。あんたらの後輩になるんだって。その時を待っててって。お願いだよ、妹さん」

「――、そうね。ええ」


 伏せた枕から顔をちょっと上げると、マリは眉を少し下げて無理したように微笑んでいた。


「ねえ、センリはあなたに酷いことをしてない?」

「? 酷いことって?」

「そうね、痛いこととか怖いこととか――」

「されてねえっすよ、全然。オレ先生さんと一緒にいて辛い目にあったってことはイッコもないです」


 うつ伏せに寝転がる私の位置からその時のタイガの表情は見えなかったけれど、きっとあの猫目をぱちくりさせていたことは想像に難くない、そんな声音だった。だからマリも追及する気を失せたらしい。見るからに気分の悪い私を見て、酔い止めをもってくるわね、と言ってから部屋を出て行った。


 センリはマリとつもる話があるとかで、この部屋にはいなかった。ちょっとのぼせたことだしと、せっかくの風呂上がりに酔狂にも潮風に吹かれるといって甲板に出ていた。

 だから私とタイガ、この船室に二人きりになった。


 マリが去るとタイガは振り向いて、ベッドにつっぷしたまま動けなくなった私を見やる。


「大丈夫か、リリイ?」


 大丈夫じゃなかった。

 停泊中とはいえ初めて乗る船に酔って胸がムカムカしていたし、大仕事を終えた後の反動に今更襲われて、熱い湯を浴びたばっかりだって言うのに体がカタカタ震えて仕方が無かったのだ。

 震えを押えるために傘をぎゅっと抱きしめて体を縮める。


「――早くこの船、ここから出て行かないかな――?」


 気持ち悪い、怖い、不安。そういった気持ちが素直に吐き出せないためにこんな言葉を吐いている。


「早くこから離れないと、黄家の皆さん方だってお気づきになるよ。小戚シャオチーはあの公園で遊んでた怪しい外国人のガキといっしょの筈だって」

「そうかぁ? 考えすぎじゃね?」

「そんできっとお前がセンリってワルキューレと一緒にいるってことも洗いあげて、ワルキューレってことはこの船に乗ってる可能性が高いって切れ者もいてさ、ちきしょう舐めたことしやがって――ってなってる筈だよ。だから早くここから出なきゃ……」

「なってねえよ。なってたとしても、たかだがヤクザがこの船ん中を手入れできるわけねえじゃん。アホだなぁ、リリイは」

「なんでできないって言いきれるんだよ? うちの街の親分さんレベルじゃそりゃ無理だけど、黄家だぞ。できないことはなんもない黒社会の皇帝って呼ばれてるんだぞ? 若様たちにムチャクチャにしたガキを大人しく出しやがれって乗り込むことなんて造作もないことじゃないか」


 しゅばばばーどかーんでハンパねーマジすげーと、擬音とハンパねえでありったけの感動を伝えようとする語彙が激貧なタイガにアホ呼ばわりされたのはたとえ船酔い中であっても不本意で、ムキになって言い募ってしまう。

 そういう時に限ってタイガは憎らしいほど冷静だった。


「ないない。無理無理。つうかいくら黄家ってもヤクザの脅しにへーこらしてたら警察も軍もワルキューレもなんのためにあるんだよっつう話になるじゃん」


 いつものバカみたいな雑な口調の貧弱な語彙で、それでもタイガはきっぱりと言い切る。タイガなりにしかも筋の通った理屈で。

 それを受け入れながら、悔しいけれど私は自分のしでかしたことに情けないほどびびって怖くて震えて、黄家の追手というオバケを自ら拵えてガタガタすくみ上っていたことを気づかないわけになる。

 母ちゃんと父ちゃんがああなって、公衆便所にくらすようになって、傘で荒事をこなすようになった生活を送っていたのに。人を手にかけたのも一回や二回じゃないっていうのに。


 情けなくてみっともない私と比べて、タイガは実にケロリとしたものだった。それがちょっと小憎らしくて、枕からすこし突っ伏した顔をあげて軽くタイガを睨んだ。


「――お前は船酔いとかしないの?」

「ああ、慣れてっし」


 こともなげにタイガは答えた。私はゆっくり目をとじた。

 嫌いだっていうわりに見事に使いこなした拳銃の腕前、私がいちども捕まえられなかった鬼ごっこ、若様連中の背後から忍び寄って足の腱を切り捌いた手つきや動脈切り裂くのに一切躊躇しなかった手つき顔つき、それらを全て総合してタイガがどういう育ち方をしていたのかは何となくわかってしまった。おそらく私よりきついものを見てきて育ったガキだ。

 親の仇をぶちのめして腰をぬかしてカタカタ震えるような可愛らしい段階を、とっくの昔に通り過ぎたってヤツなのだ。そもそも、黄家がなんであるか説明もしないのに通じているたり尋常なガキではない。


 がさり、と、タイガが動いた気配があった。私の隣に寝転がったのだ。


「狭いだろ、上のベッドで寝ろよ」

「先生さんが戻ってきた時に寝る場所がなくなるからさ、オレもこっちで寝る」


 二人で一緒のベッドに寝るなんて状況に慣れてないから離れろ、という意味で上のベッドに寝ろと言ったのに、タイガはそれを汲まない。しかも悔しいことに正当な理由で自分の意見を通す。

 仕方がないので、タイガが寝る為のスペースをあけた。それがもう少し広くなるようにタイガに背中を向けるように体を横向きにする。


 すると背中にぴったりとぬくいものがくっついてきたのだ。言うまでもなくそれはタイガで、人が船酔いその他で動けなくなっているのをいいことに背中越しに抱き着いてきたのだ。

 びっくりしたけれど、タイガを蹴落すために暴れるとゲロをぶちまけてしまいそうなので私は堪えた。

 思いっきり不機嫌にこういうのが精一杯だった。


「何すんだよ、離せ」

「いいのか? リリイ、寒そうだぞ? サブイボいっぱい立ってるぞ?」


 ホラ、とタイガは私の二の腕を擦った。確かに寒気で鳥肌が立ち上がりヤスリみたいになっていた。さかさかと腕を擦るタイガの手つきはなんとか寒さを取り除いてやろうという意図しか感じなかったので、私は全身から無駄な警戒心を解いた。

 すると、背中のじんわり温くもる感覚が、こう、ぐうっと心の中に入ってきたのだ。

 あ、温かい。気持ちいい。

 そんな気持ちと伴って冷えて固まったものがつかえたような胸にじゅうっと差し込まれたのだ。まるで湯をかけるように。


 船酔いの吐き気が無くなった訳ではないけれど、母ちゃんや父ちゃんやあの祭の日の一件や、ターニャ姐さんやその亭主のおじさんやその兄さん、地下工房のおっちゃんに本屋のインさんとユミコ婆、便所暮らしと冬場での動画や暮らし、荒事生活や動画屋のカウチでみたいくつもの動漫、あの街で小戚として一人で生きていくつもりだった未来予想図やなんかの一切合切が溶けて溢れて、みっともないことにそれが涙と鼻水という形になって現れてしまったのだ。


 ふええ……、と情けない声を出してべそべそ泣いてしまう私にタイガは一瞬びっくりしたのか胴体に回した二本の腕をびくっとさせたが、しばらくしてそのままそおっと頭を撫でだす。ゆっくりゆっくり、小さい子供でも撫でるみたいに。


「大丈夫大丈夫、黄家のやつらはここに来ねえって。来たってオレが追い返してやっからさ。安心しろって。な?」


 それを聞いて私はまた、しまりなくふええ……と声をだして泣いた。泣かずにはいられなかったのだ。

 怖いものがきたら追い返してやる、大丈夫だから安心しろとただそれだけを優しい声で言われるだけのことが、どうして私をこんな腑抜けにしてしまうのかと、自分でもわけがわからず、ただただ赤ん坊のように泣きたくて泣きたくてたまらなかったのだ。


「大丈夫大丈夫、リリイはもう大丈夫。これから先ずっとオレと一緒にいるんだからさ。怖いことなんかなんもねえよ。これからずっとリリイには楽しくて面白くて夢みたいないいことばっか起きんだよ」


 語彙の貧弱なタイガはただただわたしの頭を撫でて、大丈夫大丈夫を繰り返す。

 何が大丈夫だ、根拠のないことを言いやがって、素質もないのに本気でワルキューレになるつもりのバカのくせに……と憎まれ口を叩く余裕もなかった。どうしようもなく私の胸に大丈夫大丈夫が染み込んでいってしまうのだから。

 だからいつまでも泣き続けてしまうわけだけど、タイガは泣きやませるためにとにかく手を尽くして大丈夫大丈夫になけなしの説得力を与えようとする。


「大丈夫だって、な? だって、ほらオレ前にリリイに言ったろ? お前ならこんな綺麗で可愛くて見るだけで夢見心地になれる顔は他に無いだろって全世界のやつら相手にデカい口叩いても神様が特別に許してくれるって。それくらいお前は大丈夫なんだよ。な? リリイ」

「っ? ……、いっ、意味が……っわからない……っ」


 タイガの言い分がだんだんムチャクチャになってきたのでしゃくりをあげながらついツッコんでしまう。タイガ本人もわけがわからなくなったのだろう。


「とにかくまあ、大丈夫なんだって! だってオレがついてんだから。オレはお前みたいに綺麗で可愛いやつをみんなお姫様みたいに楽しくて愉快で幸せにする為にワルキューレになるんだから」

「……?」


 なんだかコイツよく分かんないことを言うなあ。それに本気でワルキューレになるつもりなんだ。そんなの絶対無理なのに。悪いやつらにカモられて、可哀想なくらいアホだなあ……。


 と、心の中ではそんな風に思ってしまうのに、私はとにかくタイガの大丈夫大丈夫が欲しくてその後もまたべそべそと泣いた。


 しばらくしてようやく、気持ちが落ち着く。

 やれやれ一生分のべそをかいちまったなと自嘲する余裕が生まれた頃、鼻をすすった。涙と鼻水でベトベトの顔を見せたくなかったけれど、タイガには礼のかわりになるような言葉を探して伝えた。ばかばかしいことにまだこの時は小戚を引きずっていて、タイガにありがとうとかごめんなさいとかそういう言葉を口にするのはこのアホに負けた気がするのでなんか嫌だという抵抗感があったのだ。要は尖がっていたのだ。


「タイガ、やっぱり薬には気をつけろよ」


 返事は無かった。

 というよりも、すう、すう、という安らかな寝息が返事だった。私を背中越しに抱いたままタイガは気持ちよく寝入っていたのだ。


 人の精一杯の言葉をなんだコイツ、とムッとはしたけれど、胴に回された腕を外すのは躊躇われて、寝心地がゴロゴロして今一つのまま私も眠ることにした。




 ──そんな風にタイガは私に散々、オレがいるから大丈夫だと言い聞かせたのだ。


 私はうっかりそれを信じて、その上でこの見知らぬ土地の怪しい施設にやってきたというのにコイツはなんだかわたしの使いこなせない言葉で私に対する嫌悪と警戒を隠さない女と隣り合って、一緒にケラケラ笑って飯など食ってるのだ。


 そりゃもう腹が立って当たり前だろう、誰だって。ふざけんなだし、おれのことなんてどうでもいいなら最初から可愛いとか綺麗とか安っぽく褒め散らかして、馴れ馴れしくすんなって話だ。



 ──この時の感情を言い表すにははやっぱり小戚としての言葉を使った方がしっくりくるようだ。



 そんなわけで朝食のあと、タイガは私を砂浜に案内すると誘いにきたけれど徹底して無視をした。後ろにクウガを引き連れているくせに良い気なものねって話だ。大体故郷の街ほどではないとはいえ十分くそ寒いのに冬の砂浜なんて歩いてどうするっていうんだ。


 今朝布団が敷かれていた和室に引きこもり、私は横になったまま一日を過ごした。誰が呼びに来ても返事はしなかったし、むりやり障子や襖を開けようとするやつがいたら、ぎゅっと睨んで威嚇した。

 夕食の後に主賓ぬきの歓迎会が開催され、ワコさんが用意したっていうケーキを食べることも拒否した。



 こうして目白リリイお披露目の一日は最低最悪な気持ちで過ごすことになったのだった。




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