5.
「その当時クラブ・ダドーネと言えば、善良な市民なら決して近寄らないギャングどもの巣窟でな。この世のゴミの吹きだまりと言って良かった。俺は毎日そこで球を突いたりカードを切ったり……毎日が酒、喧嘩、酒、喧嘩の繰り返しだったよ。だが不思議と楽しかった。若かったんだな、きっと」
命の終わりが太陽のようにすぐそこにあって、いつもヒリヒリと肌を焼く感覚。当時はそれが快感だった。いつ死んだっていいと思っていたし、この世に未練もなかったから。
けれど今だって状況は変わらないのに、快感が苦痛へ姿を変えたのはいつからだろう。死ぬのが怖いわけじゃない。思い残すことも何もない。なのに太陽は忽然と自分の前から消えてしまった。
残ったのは果てのない暗闇だけ。自分は今も立ち竦んでいる。右へ行けばいいのか左へ行けばいいのか、それすらも分からない――この懺悔室のように暗く息苦しい場所で。
「……ご家族は快く思わなかったのではないですか?」
「ああ、だろうな。現に妹は街で偶然俺を見かけると、しつこく呼び止めて〝家へ帰ってこい〟と促した。母も妹も、俺には感謝しているのだからと」
「けれどあなたは従わなかった?」
「そうだ。あの家にはもう俺の居場所なんてないと思っていた。思い込んでいた。けれどある日、そのことに業を煮やした妹が俺の居場所を突き止めて、クラブ・ダドーネへ乗り込んできた。俺はそれが腹立たしかったんだ。妹は俺の苦しみを何一つ分かろうとしていないとな。だから……」
「余計に意固地になった」
「まあ、そうだな。そんなところだ。そして妹をすげなく追い払い……泣きながらクラブを出ていった妹は、二度と姿を見せなかった」
「お兄さんを連れ戻すことを諦めてしまったのですか?」
「いいや、違うな。あいつは諦めてなんかなかっただろうさ。気の強い娘だったから。けれどもう会いたくても会えなかった」
「会えなかった?」
「ああ。妹はその日、クラブ・ダドーネからの帰り道――暴漢どもに襲われて、殺されたんだ。遺体は裸のまま、路地裏のゴミ溜めに捨ててあったよ」
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