第2話 リプレイサー
私は、目隠しをされたうえに黒ずくめの男2人に挟まれ、さらに両手の親指同士を結束バンドで固定されたため、全く身動きが取れない状態で『クラウン』で移動されています。
私の怯える姿を見てなのか、
「加藤さん、すいません。理由は良く分からないのですが、大臣より加藤さんを軟禁状態で連れて来るよう指示されていますので、後で嫌がらせしないでくださいね。」
私は何のことか分からないため、無言を貫き通した。
体感として2時間、クラウンで移動された後、目的の場所に到着したのか2人の男に乱暴に降ろされる。
その後10分ほど歩き「ギー」という重い扉が開いた時に発生する独特の音を聞いた後、さらに数分ほど歩き、階段を登りきった先で先程よりは軽い音がする扉が開けられ、部屋の中のソファーに座らされた。
その直後、前方より…
「目隠しをとってあげたまえ」
という何者かの指示があり、やっと私に付けられていた目隠しが外された。
目隠しをされていたため、部屋の明るさになれるまでしばらくの間、目を細めていたが明るさに慣れてくると視線の先に、ラガーマンと思わせる体格をした60歳前後の男と、シルバーの眼鏡を人先指で押し上げる動作を頻繁に行う神経質そうな50歳前半の男が立っていることを確認した。
少しして、神経質そうな50歳前半の男性が
「ずいぶん貧素な服装ですね。加藤第一秘書。お忘れですか。政策担当秘書の内藤正樹です。」
続いて立派な体格の60歳前後の男性が豪快な笑顔で話し出す。
「嫌味な言い方は止めたまえ、内藤君。それと積もる話があるので、藤間君、君の部下を部屋から退室させたまえ。」
私を拉致した精悍な男は『藤間』という名前なのかと考えていると、その藤間が困惑した表情をしながら、
「大臣、内藤さん、この状況は一体?どうして私に加藤さんを軟禁するよう指示されたのですか。後で加藤さんから相当嫌がらせをされると思うと、私は大変気が重いのですが。」
と軽口を言って、場を
そんな藤間を無視し「私から説明しましょう。」と内藤政策担当秘書は早口で語りだす。
「今、ソファーに座っている加藤氏は我々が知っている加藤秘書とは異なる人物なのですよ。DNA的には同じなのかな?
はっきり言えることは、記憶も経験も全く異なる存在、我々は『君のように異世界から
と
「君らの存在は世界各地で既に確認されているが、その存在は各国極秘とされている。そんな存在が知れればパニック状態を引き起こし暴動が生じるかもしれないしね。我が日本国は、同盟国である米国国防省から『リプレイサー』の情報を7年前に提供され、密かに探してきたのだよ。それがよりにもよって加藤秘書とは」
今どき小学生でも信用しない話を平然とする内藤政策担当秘書を見つめながら、私は必死に頭の中でこれまでの情報を整理していた。
内藤と名乗る男は、ひとしきり話が終わると、今度は私に
「あなたがいた世界では、日米同盟は良好な状態なのか?日本はロシアと平和条約を締結したのか」
等々、複数の質問を行ってきた。
私は、嘘をつくべきではないと判断し丁寧に一つ一つの質問に答えていると、
内藤政策担当秘書が、今までの質問の結果を籠手田防衛大臣に報告し終わると、大臣はおもむろに…
「合格だ。加藤くん、我々とともに第三次世界大戦を防止していこう。無論、協力してくれるな。」
と
「藤間君、異世界の加藤君も了承してくれたようだ。拘束のためにつけていた結束バンドをとって上げたまえ。」
と藤間秘書に指示を出した。
藤間秘書は狐につままれたような顔をしながら私の耳元で小さく、
「あなたは私の知っている加藤秘書ではないんですか。後で強烈な嫌がらせを受ける心配をして損しましたよ」
と呟いた。
後で分かったことだが、私以外の『リプレイサー』は、各々が『私がいた世界』と異なる世界から顕現しており、中には魔法まで使用できた者もいたらしい。
その魔法を使用できた『リプレイサー』は、攻撃してきたF15戦闘機3機と10式戦車20台を消滅させ、元の世界に戻る魔力を得る為、5,000人の生命エネルギーを魔力に変換しようと街に巨大な魔法陣を展開した時に魔力がつき、この世界の自衛隊によって消滅させられたらしい。
それ以外の『リプレイサー』達は、この世界の情勢と
すると大臣が…
「では、1週間後から職務を行えるように教育しておいてくれ、加藤公設第一秘書頼んだぞ。それと藤間君、加藤秘書に合うスーツと靴を何セットか用意してくれたまえ。今の服はあまりにも貧素だ。それにしても今日は良い日だ。なぁ内藤君、君もそう思うだろう。」
という大臣の大きな声と豪快な笑い声が部屋に響き渡り、苦笑いをこらえる内藤政策担当秘書をよそに、私は今後生じるであろう困難を考え
異世界の公設秘書 ≪ デテレントの調律師 ≫ 北山 歩 @k_ayumu
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