覚醒-08

 激昂――

 なぜだ?! なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ?! 




 疑心――

 刺客は確かにほふった!! この街に辿り着く前に!!

 王子はここに向かっても居ない!!

 では一体なぜ?!




 慟哭――

 なんと……

 なんと愚かなのだ!! このは!!




 後悔――

 なぜ思い至らなかったのだ……

 なぜこれで良いと思ったのだ……

 なぜこうなるかもと、疑わなかったのか……




 落涙――

 の、このの大切なものが、こんな……

 こんな姿に……



『落ち着いて下さい』

 心の中に、声が響く。

 暗闇に、優しい波紋がたゆたう。


(……なんと……なんと申せばよいのか……)

 もう一つ、こちらは青い■■波紋。


『仕方……ありません。私もああしていたと、思うのです……』

(申し訳ありません……すべて、ご覧になっていたのですね)

『はい。あなたと入れ替わった、使から』

(そう言えば……私の時もそうでした)

『ええあなたは、あの時から私と共にいましたね』


(はい……私は、魔法省での適性検査の時に、あなたに宿りました)

『最初は理解できませんでした。私の中にあなたが、であるあなたの心が、宿ったのですから』

(私はあの時……まだ意識がありませんでした。何も考えることが出来ず、それでも目に映り、耳に聞こえることは、全て受け取っていました)

『力の行使から後の私も……そうでした』


(そして、ベッドの上で目覚めたときから、私の意識はハッキリとしました)

『その事も、わかります』

(そして、あなたがご両親に浮かべる愛情も、ハッキリと伝わりました)

『あなたもそう感じてくれたことが、とても嬉しかった』

(二人のお顔を見た時、私はとても暖かい気持ちになりました。そして心配する顔を見て、とても申し訳なく思いました)

『……』

(だから、愚行に走りました……いや、こんな事は言い訳にもなりません)


 真摯な謝罪と自嘲が入り混じったその想いに、赤い波紋は産まれない。


『御自分を責めないで下さい』

(いえ……私は慢心していたのです。あの様な強大な力に、私は魅せられたのです)

『それは……私も同じです』

(私は小賢しい知恵を働かせ、より大きな、小役人に比べればはるかに大きな権力に取り入れば、ご両親の身を守れる……と)

『あのときは、が一番だったと思います』


 青い波紋が、弱く揺らめく。


(しかし、王子は牙をむいた。見抜けなかった愚かさに、怒りを覚えます……)

『あなたが悪いわけでは……ありません』

(そして私は、甘美なあの魅力に慢心した。あの力を持って、この狂人と、そして刺客を打ち倒そうと。その後は、この力を持って両親と共に、この地を離れようと)

『……』

(ですが、それはかないませんでした……)


 暗闇が重く――――――――静まる。


(おじさ……ま?)

『お嫌ですか?』

(いえ、そのようなことは……しかし、なぜ?)

『リュミエーナという名前は、今はもう私達二人お互いの名前です。だから、どうお呼びすれば良いかと、考えまして』

(確かに、私はを忘れています)

『ごめんなさい!!』

(お気にめさらず)


 青い波紋が、優しく広がる。


『……あなたは、とても優しくて、上品で、私を受け入れてくれる、そんな感じがします』

(そうで……しょうか?)

『私には思えるのです』

(それで、おじさまと?)

『やっぱり……嫌ですか?』


 弱く赤い波紋を受け入れるように、青い波紋が大きく広がる。


(いえ、とても暖かさを感じます。おじさま……あなたがそう呼んでくれるなら)

『良かった……!!』

(それではこちらも、フロイラインお嬢様とお呼びしてよろしいですか?)

『フロイ……ライン?』

(私が覚えている、遠い地方の呼び方です。今では古い言い回しのようですが)

『綺麗な……響きですね』

(はい、私もそう思います)

『では、私はフロイラインで。お願いします、おじさま』

(ええ、フロイライン……)


 2つの波紋は、優しく混じり合う。

 それは、暖かな微笑みの様に、どこまでも、大きく――――


(さて、どうしましょうか?)

『少し……疲れました』

(そうですね、私も休みたいところです)

『替わりましょうか?』

(いえ、まだ大丈夫です。フロイラインの方がお疲れ……でしょうから)

『……』


 呆然と、朽ちた瓦礫を見つめる。


『ねえ、おじさま。私……』

(……同じです、フロイライン。私もです)

 リュミの瞳が力強くなる。

(だからこその、お気持ちですか)

『はい……それは何も生み出さない、ともすれば、新たな憎しみを生み出すかも知れません』

(……それでも、と仰るのですね?)

『……ええ……!!』

 力強い肯定の意思が――――伝わる。

(……良いのですか? あなたの暖かな想いと同じ様に、私の冷たい心があなたに移ってしまった――これはそういうことかもしれません)


は思いません』

 ポツリと産まれる、赤い波紋。


『私もそうだったと思うのです。だからこそ私に、あなたが宿ったのだと。だって……』

 広がる波紋が、妖しく光る……


『だって私達は似ている――のだから』

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