覚醒-04
「これは異な……殿下はよもや、魔法省と王国の契約をご存知ではない?」
「無論、承知しておる」
「では、その申し出が無効であることは?」
「当然だ」
「それでも……この娘を引き取る。そう
「調子にのるな!!」
これはこれは、なかなかの覇気!!
静かな物言いでありながら、引くこともない。
さすがは王族、ということですか
最も……
「お前ごときの役人の言など、俺は気にも止めぬ」
相手の格が低すぎる。
「調子にのるなよ? パッテン。そもそもお前は王家の、この俺の部下の部下の部下だ。それが魔法省に取り立てられたからと言って、その巣の中で爪を出すか。スズメが孵ったところで、鷲には敵わぬ。身の程をわきまえよ!!」
ふむ、意外な展開ですね。
顔見知りの元部下を相手に、ここまでの覇気を
これは存外に、殿下も器が小さい。
「なんと申されようとも、私は今魔法省の者。いくら殿下のお言葉とは言え、簡単に聞き入れるわけには参りませんな」
「左様だな。であればこそ使い殿は、今直ぐ出直すべきだ。それとも、その身一つで今から、事を構える気かね?」
殿下は――――戦闘意欲が旺盛すぎますね。
権力を笠に着ると言うよりは、戦闘狂の類。この覇気はそういったものでしょう。
力のままに、暴れたい。鍛え抜かれた肉体がそう訴えている。
そういった手合と、お見受けしますが――――
「……た、確かに今は引くべきでしょうな、ラバスト領主。お言葉どおり私は一度、ま、魔法省に戻りましょう。ですがお忘れなきよう、魔法省の意に反したこと」
「ああ、確かに忘れずにいよう。貴殿の最後の言葉としてな」
はてさて、あのパッテンなる役人がどうなることやら――
「ありがとうございます!! ゴウネリアス殿下!!」
「本当になんとお礼を申せばよいか!!」
感謝の意を伝えたくなる気持ちは――わかりますが……
そう簡単に事が運ぶとは思えません。
こういった――その細い目に冷酷さを宿した、この手の人種は……
「勘違いするなよ」
ああ、やはり……
「俺はな、コルグス。お前たちを昔から潰したくてしょうがなかったのだ」
救世主を見上げる瞳が恐怖に変わるのも、仕方ありません。
両親を見る殿下の眼差しは、嫌悪する虫けらを見る目、その物ですもの……
「不相応にも、連絡会などと称す宿屋連合に入り、王国内はおろか帝国とも客の斡旋を持って財を成す貴様らのやり方、気に食わぬ。平民が財を持って良いことなど有りえぬ。特に、高貴なる我らにその財を差し出さぬような、愚か者はな!!」
――そうですか、それが真意ですか。
これは思わぬ小物に出会ったようです。
「近寄るな!!」
「殿下の御前なるぞ!!」
今――――私を支配する感情。
これは嫌悪――いや、怒り――ですね。
なるほど、私はやはり、この両親を愛しているようです。
今目の前で――高貴なるご身分の供回りが――父と母を殴り飛ばすところを見て……
怒りの震えなど、どうして抑えられますか!!!!
「目的は、何なのですか?」
「ほう、小娘。口がきけたようだな」
やっとこちらに目を向けてくれましたか、殿下。
「突然の質問、誠に申し訳ありません、ゴウネリアス・ラバスト・エルド・ネ=ファルドランド殿下。無礼ついでに可能であれば、ここに来た本当の目的をご教示願えないでしょうか?」
「聞こえなかったのか? お前たちを潰しにきたんだよ」
これは……血の匂いですね。
近づいた顔と身体から臭うのは、血の生臭さと、それを隠すための香水。
なんとも不快感を煽る匂いです。
「お前たち平民など、我らにとっては家畜でしか無い。家畜は家畜らしく、その肉を差し出しておれば良いのだ。それなのにお前たちは、僅かな肉しか差し出そうとせず、ただ肥え太るだけ。それを許せると思うか?」
血に飢えた瞳……とやらですか。これはまた不快です。
「魔法省から娘の身柄を求められた身分不相応な宿屋の主が、身分の保証された役人を殺した。王族にしてこの地の領主たる俺は、魔法省との誓のもとに、その宿屋風情を叩き切った。これで俺は、魔法省に借りが作れる。そして王家での俺の名も上がるというもの!!」
脳筋というやつは全く――――度し難い!!
この程度の知恵周りで、地方領主というものが務まるのだろうか?
不安を覚えるばかりか、呆れますね……
「いえ、殿下。私が聴きたいのは殿下の本当のお考えです」
「お前は馬鹿か? 同じことを何度も」
馬鹿はあなたです、殿下。これ以上の失望は、私としても不本意です。
仕方がありませんね、それでは――――
「殿下は」
授けてやろう、本当の――――知恵というものを!!
「幼年学校での一件など、すでにご存知かと思われます」
表情の大きな変化――ふむ、予想通りのようですね……
いくら知恵の足りない第3王子とは言え、契約の元にそのあり方が守られている魔法省を、考えなしに相手取るとは思えません。
「なればこそ、私の力を――人類の至宝と言われたアルミーナ指導官すら瞬時に燃やし尽くした私の力を、お求めなので有りましょう」
腑に落ちぬが、聞かざるを得ない。
そうです、悔しさに染まるその顔をすればよいのですよ、殿下。
アルミーナは至高と称された存在。
その力を失ったということは、全体の力はいざ知らず、それでも王国内での魔法省のパワーバランスは、幾らか崩れたはず。
「不肖ながら私ごときの力を御身の武器に加え、お立場を強固なものとし、次期王権を握ろう、そうお考えであらせられる」
野心が燃え上がる瞳――そうです、そうでなければなりませんよ、第3王子!!
あなたのように最高権力から遠い存在は、そうでなければいけないのです!!
「な……なかなか心得ておるではないか、娘」
「いえ、些末な知恵しか持たぬ小娘です。無礼な発言をお許し下さい」
膝を折るくらいはしましょうかね。
それで今後の安泰につながるのであれば、安いものです。
ですが――――
「しかし私も幼い身。できれば憂いを消すために、1つお願いがあります」
「ほう、申してみよ」
「それは……私の両親の身と、この宿の安全です」
「ふむ」
「殿下の覇道を持ってすれば、我らが卑しき宿屋風情の僅かな財など、何時でも、すぐにでも召し上げられましょう。なればこそ、ここは寛大なお心を拝謁できればと、願い出るばかりです」
おやおや……小娘のこの程度の迫力に
これでは――――力を使うまでもない。
「なるほど……」
あ、
「よかろう、我がゴウネリアスの名にかけて、その約束は果たそう。しかし、娘よ。わかっておるな?」
「はい、もちろん。私程度の微力でよろしければ、御身のお役に」
「では、そうするとしよう。コルグスよ、娘に救われたな」
平伏するしか……ありませんね。
ごめんなさい――――お父さん、お母さん。
「ところで娘よ、名は?」
「はい、リュミエーナ・コルグスと申します。リュミとお呼びいただければ」
「そうか。してリュミよ、パッテンはどうするか?」
ああ……あの小役人か。
「恐れながら、殿下の覇道からすれば、アレも道脇の小石です。気にした所で何が変わりましょう?」
「そうだな、放おって置くか」
はてさて、これで本当によかったものか……
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