第265話 名前を呼んだら反応してくれるのがお友達
やべぇよやべぇよ。まじでやべぇよ。
ぶちギレフローラさんがまじでやばい。目の血走り方が怖すぎる。
もうね、斬ってるっていうか剣で殴ってるって感じ。しかもありえない力で。アロンダイトで受けるたびに、一撃が重すぎて地面にヒビが走るからね。
まいったなぁ……なにがまいったって、こんな状態を続けてたらフローラさんの身体がぶっ壊れちまうってことだ。
「無理しすぎだっつーの!!死んじまうぞっ!?」
「この期におよんで私の心配!?自分の身を心配した方がいいんじゃないかしらっ!!」
フローラさんが剣を薙ぎ払うと、そのままデーモンキラーが数体吹き飛んでいった。それは大変助かるんだけど、ここからどうすればいいのかまるで思いつかん。
「お願いだからもう帰ってくれよ!」
「あなたを倒すまで帰らないわ!」
懇願作戦失敗。万策尽きました。
まずいぞ……このままフローラさんが魔力を行使し続けたら、最悪魔力暴走が起こっちまう。それだけは何とか防がねぇと。
かと言ってどうする?気絶させられれば魔力を止められるけど、今のフローラさんははっきり言って強い。生命力を燃やして強力な聖属性魔法を使ってんだ、強いに決まってる。早急に勝負を決めるだなんて無理な話だ。
さっきから無詠唱で魔法陣を連発してんだけど、全部、あの白いのに弾かれちまってんだよね。聖属性とかいう意味わからん属性のせいで優勢魔法で攻撃とかないし、すぐに組成できる魔法じゃ目くらまし程度の効果しかねぇよ。本腰入れた魔法じゃないと、あの鎧は貫けねぇ。
……一つだけ方法がある。それは
だけど、それをしちまったらデーモンキラーを倒す力が残るか自信がねぇ。俺が倒れてこのクソ兵器共が砦に行っちまったら魔族は終わりだ。
……あぁ、くそっ!でも、やるしかねぇだろ!!
俺は五重の魔法陣を頭の中で構築しながら、
「げほっ!!」
突然、フローラさんの膝がガクっと折れ、その場で吐血した。そのまま蹲る様に倒れ込み、地面に手をつく。
これは……魔力切れか?
しめた。暴走が起きる前に魔力が切れたんならもう大丈夫だ。すさまじい倦怠感に襲われているだろうけど、それは自業自得ってことで。
俺はすぐさま頭を切り替え、デーモンキラー達に身体を向ける。フローラさんは放っておいても、デーモンキラーに襲われないから問題ないだろ。
そう思っていた俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「えっ……?」
顔を上げたフローラさんが思わず間の抜けた声を漏らす。なぜなら、味方であるはずのデーモンキラーが振りかぶったメイスを、フローラさん目掛けて叩き下ろそうとしていたからだ。
ガキンッ!!!
間一髪、転移魔法でフローラさんの前に移動した俺が、そのメイスを受け止める。ただそれだけなのに、俺を中心に大きなクレーターが地面に広がった。
「こ、いつら……!!」
「シュ、シューマン君!?」
フローラさんが困惑したような声を上げるが、それに応える余裕はない。どうなってんだ?デーモンキラーの力が半端なく上がってやがる。それこそ、フル強化のライガに匹敵するぐらいに。
メイスを降ろしたデーモンキラーはすぐさま携えている斧を横なぎにしてきた。なんとかアロンダイトで防いだから直撃は免れたけど、そのまま猛スピードで横へと吹き飛ばされる。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
飛んでる暇も与えてくれませんかそうですか。その叫び声を聞いた瞬間、目を向けずにフローラさんの所に転移すると、その瞬間背中に激痛が走った。……あー、こりゃバッサリいったわ。
俺は倒れそうになるのを何とか踏ん張り、左腕でフローラさんを抱き上げると、さっき頭で作り上げていた魔法陣を身体に刻み込んだ。
「ご、五重っ!?」
驚くフローラさんを無視して、俺は
だが、デーモンキラーが強化されたのはパワーだけではなかった。片腕に荷物を持った俺の攻撃、奴らは軽々と躱していく。それだけに留まらず、フローラさんを抱えている左側ばかり集中攻撃してきた。防ぎようがないから自分の身体を盾にするしかねぇ。くそっ……フローラさんを庇いながらだと、転移魔法も使えねぇよ。
「お、降ろして!私をっ!早くっ!!」
みるみる傷が増えていく俺を見て、フローラさんは涙目になりながら訴えかけてきた。なんだよ、俺を倒すために来たって言ってたよな。だったら俺が攻撃受けても別にいいだろうが。
「このままじゃシューマン君が死んじゃうっ!!」
デーモンキラーの槍が太腿にささり、俺は思わず歯を食いしばる。死ぬ?結構じゃねぇか。兄貴の
「なんでよっ!なんで私を助けようとするのよ……!!」
あーもう鬱陶しい……ボロボロ泣きやがって。泣くぐらいなら戦場なんかに来るなっていうんだよ。
「私達は敵同士なのよ……!?なのに……なんで……!!」
「うるせぇ!!」
俺が大声を上げると、フローラさんが腕の中でビクッと身体を震わせた。
「あんたが死ぬとレックスのバカ野郎にどやされるだろうがっ!!いいから今は生き残ることだけ考えやがれっ!!」
俺の言葉を聞いたフローラさんは涙を流しながら口を真一文字に結び、顔を下に向ける。やっと静かになったか。これで打開策を考えられる。
落ち着いて考えるんだ、クロムウェル。お前は頭脳明晰で容姿端麗、そして眉目秀麗だ。……眉目秀麗と容姿端麗って違いあんのけ?
とりあえず、いくつか案を上げてみる。
デーモンキラーを全滅させる……出来るんだったら最初からやってるわ。却下。
フローラさんだけこの場から逃がす……その方法を教えてくれよ。却下。
とりあえずデーモンキラーさん達に頼み込んで少しの間だけ待ってもらう……最近厨二病語はわかってきたけど、兵器語はさっぱりわかりません。却下。
人に頼る……そういや奴隷のロリババアがいたな。採用。
「フライヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
喉がはち切れんばかりに叫び声をあげ、フローラさんを力の限り、上空へと投げ捨てた。フローラさんの驚いた顔が一瞬見えた気がするけど、気にしている余裕はない。
「……でかい声で名前なんて呼ぶんじゃないわい!!誤解されるじゃろうが!!」
「フ、フライヤさんっ!?」
上から聞こえる怒声に、俺は思わず笑みを浮かべる。
「そう言うなって。友達なんだろ?」
「……昨日言ったことを激しく後悔しておるところじゃ」
フライヤとフローラさんの気配が消えたところで、即座に転移魔法を発動し、デーモンキラー達から距離を取った。
ふぅ……結局奥の手を使っちまったな。どっちにしろ、なんか知らんがいきなり強化したこいつらを相手にするには
一度大きく伸びをすると、赤く光る眼をこちらに向けるデーモンキラー達に向き直る。
……さて、ここからが本番か。ゆっくりと息を吐き出し、自分の魔力を確認する。
俺は不敵な笑みを浮かべるとデーモンキラー達に向けて手をクイクイと動かした。
「来いよ、木偶人形共。相手してやる」
そう言うと、俺はアロンダイトを担ぎ、クソ兵器の群れへと飛び込んでいった。
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