第264話 力の差を見せつけるのが逆効果な時もある


 なんかすげー魔法が飛んできたけど、なんだったんだあれ?


 必死に戦ってたらいきなり人間達の方からバカでかい魔力を感じたから、このクソ兵器と戦いながらなんとなく横目で見てたんだけどさ。嫌な予感がして魔法陣を構築しといてよかったわ。あんなの喰らったら一たまりもなかったぞ?とりあえず第二射はなさそうだけど、連発されたらやばいな。本当にピエールが魔法障壁を張っていてくれてよかった。


 それにしても硬すぎんだろ、こいつら。かなり本気で撃った俺の風属性魔法を喰らっても、遊覧飛行してるだけだぞ。地面に落ちたやつはすぐに向かってくるしよ。相棒だから奴らの体を斬っても問題ないけど、普通の剣なら一発でお釈迦だ。そういや、オリハルコン並みの強度だってフライヤが言ってたっけ。


 俺は魔法陣を消すと、肉弾戦に切り替える。魔法はあくまで吹き飛ばすくらいにしか効果がねぇ。多分こいつらを破壊するには”七つの大罪セブンブリッジ”レベルの魔法じゃねぇと意味ねぇわ。


「……つっても、じり貧には変わりないんだけどな」


 俺は振り下ろされる斧を避けながらため息を吐いた。こいつらの攻撃を躱すのは訳ない。一体一体の動きは魔物よりも単純だ。力さえ奪われなかったら、ライガが苦戦するような相手じゃないだろ。


 厄介なのは感情がないことだ。動きに一切の迷いがない。アロンダイトで斬りかかっても、一切ひるむことなく立ち向かってくる。牽制とかはまるで意味がない。


 ダメージが通っているのかもよくわからねぇしな。傷を負わせているっていうよりは装甲を剥がしてるって感じに近いし、剥がれたところで動きが鈍るわけでもない。


「打つ手がねぇぞ、これ……本当、面倒くせぇもん生み出しやがって」


 飽きもせず俺に攻撃を仕掛けてくるデーモンキラー達を見ながら愚痴る俺だったか、不意に得体のしれない力を感じ、瞬時にそちらへと目を向けた。そこには美しい剣を振り天に掲げた緑髪の美少女の姿が。


 …………まじかよ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 掛け声とともに振り下ろされた剣を、俺はアロンダイトではじき返す。フローラさんは地面を滑りながら体勢を立て直すと、剣を構え、俺を睨みつけてきた。


「……久しぶりね、指揮官さん」


 爆発しそうな感情を無理やり抑え込んだような声。俺は周りのデーモンキラーをなぎ倒す。


「それとも本名で呼んだ方がいいかしら?シューマン君」


 ……ばれとるやん。そらこいつらと普通に戦ってるしな。俺が魔族じゃないことは明らかだって話か。

 後ろにいたデーモンキラーのお腹の辺りが開き、筒のようなものが現れる。そこから発射された魔力砲を俺は魔法障壁で防いだ。


「私は勇者になったのよ?兄を殺したあなたを倒すためにね」


 俺は殺してないっつーの。いっそのこと暴露してやろうか?百パーセント聞く耳持ちませんね、はい。

 火属性魔法の最上級魔法クアドラプルをデーモンキラーに撃ってみたが、まるで効果なし。むしろあいつらの手についてる武器が燃え上って、厄介さが増した。でも、炎の武器ってなんかかっこいい。


「なんとか言いなさいよっ!!」


 フローラさんが怒声を上げた。いや、無理だろ!!状況見てみろ!!セリフの途中途中にわざとらしい戦闘描写があっただろうが!!人気アイドルに群がるファン張りにこいつら向かってくんだぞ!?こんな鉄くせぇファンなんかいらねぇっつーの!暢気に話なんかしてたら死んじまうわっ!!


「わかったわ……どうしても口を利く気はないようね。だったら身体に聞いてみるまでよっ!!」


 フローラさんは白く輝きながら俺に突っ込んできた。その動きは学園にいた頃とは比べ物にならない。そして、この光……聖属性魔法だ。アベルが使ってたから見覚えがある。


 まぁ、だからと言って、強敵ってわけじゃねぇけど。


 アベルに比べて聖属性魔法もお粗末だし、そもそも剣に迫力がない。レックスの最上級魔法クアドラプル身体強化バーストよりも強いくらいか?死ぬ気で向かってくる分、レックスの方がまだやりづれぇわ。


 俺はデーモンキラーをぶった切るついでにフローラさんの攻撃を躱し、その鎧の首元を掴むと、思いっきりぶん投げた。お願いだからこれで退散してください。


「くっ!!”聖なる剣ホーリーソード”!!」


 フローラさんの剣から白い光が伸びる。それを地面に突き刺すことで、勢いを殺した。はい、出ました。魔法陣を使わない反則魔法。まじで勇者って卑怯すぎる。


 フローラさんは白い光がしなる反動を利用して再び俺へと向かってくる。正直な話、あんたの相手をしている暇はないんですが?


 「“全てを打ち消す重力グラヴィティバニッシュ”」


 ここら一帯に強力な重力場を発生させた。デーモンキラーに巻き込まれる形で、フローラさんも地面に叩きつけられる。即座にその上に転移すると、俺はその喉元にアロンダイトを押し付けた。フローラさんが驚愕の表情で俺を見てきたけど、無視。


「……これでわかった?あんたじゃ俺には勝てないから、さっさと自分の陣地に帰ってくれない?」


 極力冷たい声で言い放つ。若干心が痛むが、このままだとデーモンキラーと間違えて攻撃しかねない。そうなる前に退場してもらわねぇとまじで困るって。


 俺は中々起き上がらないフローラさんを目端にやりながら、デーモンキラーの相手をする。何体か動かなくなったのはいるけど、こんなの焼け石に水だろ。全部倒すのに何日かかるんだって話だよ。


「…………あなたがこんなに強いだなんて知らなかったわ」


 フローラさんがよろめきながら立ち上がる。……どうやら引き下がってくれるつもりはないようだ。


「“正義の心、全力全開ブレイブハート・フルテンション”」


 尋常ではない量の魔力がフローラさんの身体から噴き出した。ちょっと待て。そんな無理して身体が持つわけねぇだろ。


「私の全てをかけてあなたを倒す……行くわよ!クロムウェル・シューマンッ!!!!」


 デーモンキラーを吹き飛ばしながらこちらへと向かってくるフローラさんを見て、俺は心の底からため息を吐いた。



「勇者がまるで子ども扱いとは……」


 成すすべもなく軽くあしらわれるフローラを見て、オリバーは低いうなり声をあげた。これほどの力を持っておきながら、人間界にいた時に何の噂も立たなかったことが不思議で仕方がない。


 オリバーは何気なく後ろに目を向ける。そこでは完全に戦意がなくなったレイラがへたり込んだまま、ぼーっと戦いを見つめていた。


 恐らくアニス、ガルガント、フライヤの力を合わせたところで、あの男に勝つことは厳しいだろう。


 現状、デーモンキラーとあの男の勝敗は全く予想ができない。だが、王たるもの常に最悪を視野に入れ、下の者に指示を出さなければならない。


 静かに考えを巡らせるオリバー。そのせいか、すぐ後ろでアイソンがほくそ笑みながら呟いた言葉が耳に入らなかった。


「くっくっく……死ね、指揮官。…………リミッター解除……バーサクモード、オン」

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