第196話 新顔
メリッサ城にある一室、王が住まう部屋の次に豪奢な統括大臣の部屋で、ロバート・ズリーニはイライラした面持ちで貧乏ゆすりをしていた。
「くそっ……魔王軍指揮官め……私に恥をかかせやがって!」
ロバートは苦虫を噛み潰したような顔で机を叩きつける。王都が
「自分達の企みが私に見破られそうになったから、慌ててやって来たに違いない!!ふんっ!力で何でも解決しようとする奴らはこれだから困る!!」
「コルト!!コルトはいないのか!?」
ロバートが大声をあげると、間を置かずして扉が開けられる。そこには、長年ロバートに仕えているコルトと、見知らぬ男が立っていた。
「お呼びでしょうか、ロバート様」
「ん?誰だそいつは?」
コルトの後ろでオドオドした様子で頭を下げる男に、ロバートが訝しげな表情を向ける。コルトはお辞儀を辞めると、後ろに控える男を前にやらした。
「この男はロバート様の新しいお付き人のルキと申します」
「なに?新しいお付き人?」
「はい。私の代わりにロバート様の身辺をお世話いたします」
「ル、ルキと申します!よろしくお願いいたします!!」
ロバートは眉を顰めながらルキに目を向ける。ぼさぼさの長い髪で隠れている顔は整っているようであったが、如何せん何かに怯えるように見せる挙動不審な仕草によって全てが台無しになっていた。明らかに根暗で冴えない男。できる男が大嫌いなロバートにとって、負のオーラしか感じないルキは付き人として悪くない人材ではあった。
「……別に新しい付き人なんていらないだろう。コルトがいれば事足りる」
「その事なのですが、私の身内に不幸があったみたいで、私の都合で大変恐縮なのですが、少しの間、城を離れることをお許しいただきたいのです」
コルトが申し訳なさそうに頭を下げる。そんなコルトを見ながらロバートはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「身内の不幸などどうでもいいだろうが。……まぁ、いい。愚図そうではあるが、代わりを用意したのであれば、許してやろう。さっさと行って戻って来い」
「ありがとうございます。一通りの仕事はルキに教えてありますので、存分にお使いください。それでは私はこれで」
コルトは一礼すると、そそくさと部屋を後にする。残された二人の間に微妙な沈黙が流れた。その沈黙に耐えられなかったルキが、髪の毛をいじりながら遠慮がちに口を開いた。
「あの……ロバート様?」
「なんだ?」
「僕はいったい何をすればいいんでしょうか?」
ルキのびくついた声にロバートは顔を顰める。
「コルトに聞いていないのか?」
「コルト様に聞いたのは食事の配膳や掃除の仕方だけでして……」
段々と小さくなる声に若干イライラしながら、ロバートは大きくため息を吐いた。見た目通り使えない男。自分の自尊心を傷つけないのは結構だが、これはこれで腹が立ってくる。
「頭が痛くなりそうだ。コルトが帰ってくるまでの間、お前に付き人の役目が務まるのか?」
「す、すいません……精一杯頑張ろうと」
「もういい。たくっ……愚図は騎士達だけで腹いっぱいだというのに」
ロバートはルキの言葉を遮り、顔を歪めながら呟くと、おもむろに立ち上がった。そのままクローゼットに近づくと、宝石がいたる所に装飾された上着を取り出し、身に纏う。
「お、お出かけですか?」
「アベルを殺した、という報告を待ってから出るつもりであったが、能無し共に付き合っている時間はない。兵器工場に行くぞ、魔道列車を手配しろ」
「へ、兵器工場ですか?」
部屋を出ていこうとするロバートの後をルキが慌てて追いかけた。ロバートはドシドシと城の中を闊歩しながら、投げやりな口調でルキに話しかける。
「それくらいは説明を受けているだろう」
「は、はい!確か魔族に対抗するべく、古代の力[キカイ]の研究をしている施設だ、とか」
「そうだ」
「で、ですが、古代の力は禁忌の力……キカイと魔法の交わりは大きな災いをもたらす、と言い伝えられていますが……?」
「ふん!貴様もあの男と一緒で臆病者なのだな!」
ロバートは忌々しそうに顔を歪めた。
「愚鈍な我らの王は恐れをなしているらしい!実にくだらないことだ!キカイの力を使えば、先の
「お、王にそのような口を……」
「別に問題なかろう。今この場にいるのは私とお前だけだ。……まぁ、お前が王に告げ口をするというのなら話は別だが?」
「そ、そのようなことはいたしません!」
ロバートが試すような視線を向けると、ルキはブンブンと首を左右に振る。それを見て、ロバートは悪辣な笑みを浮かべた。
「それでいい。賢明な判断だ」
「はい……」
ルキは困ったように顔を俯かせる。ロバートに仕えている以上、自分はロバートの言うことに逆らうことはできない。
「我々の兵器工場では、そのキカイに魔法陣の力を加えた新たな兵器を開発しているのだ。もう研究は最終段階に移行している。魔族を根絶やしにする日も近いというわけだ」
「そ、それはすごいですね!」
「貴様みたいな愚図に褒められても、嬉しくもなんともないわ」
子供のようにはしゃぐルキを見て、ロバートは呆れた表情を浮かべた。
「そんなことより、いつまで隣を歩いているつもりだ?」
「えっ?」
「魔道列車を手配しろと言っただろうが!さっさと行って、二人分のチケットを用意してこい!!」
「は、はいぃ!!」
ロバートに怒声を浴びせられ、ルキは半べそを掻きながら城の中を走っていく。そんな背中を見ながら、ロバートは盛大にため息を吐いた。
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