第165話 大人の階段昇る俺はまだシンデレラボーイ
フレデリカとの食事会は楽しかった。
最初こそ馬鹿みたいに緊張したけど、後はいつもの調子で会話ができたよ。
大体は今回の視察の話かな?フレデリカは、シェスカがミスターホワイトに憧れていたって話に呆れ顔を浮かべて、ライガが俺の事を認めたって事に不満そうな表情をしていたけど、それ以外は楽しそうに話を聞いてくれた。
特にザンザ隊の奴らをボコボコにした時はすげー笑ってたな。「クロに喧嘩売るとか身の程知らず過ぎる」とか、言ってたっけ。
とにかく、なんの憂いもない食事会だった。……フレデリカが気を遣ってくれた賜物だとは思うけど。
まぁ、それで特に何事もなくお開きになったんだけど、帰る直前で思い出したようにフレデリカがアルカを呼び止めてさ。
―――そういえばアルカと同じ年頃の服を作らなくてはいけなくてね、モデルになって欲しいから今日はウチに泊まっていきなさいよ
一瞬きょとんとしていたアルカだったけど、断る理由もないから笑顔で承諾したんだ。フレデリカは嬉しそうに「招いた甲斐があったわ」って言ってたけど、後日なんかしらお礼をしないといけねぇな。……酒は無しの方向で。
そんなわけで、セリスと二人で小屋へと帰ってきた俺は、晩御飯も済ませたし、やる事もないから、さっさと風呂に入って、今はベッドの上でダラダラしているってわけだ。
いやー、それにしてもフレデリカのご飯は美味かったな。セリスとはまた違った味付けで新鮮だった。ちょっと食べすぎた気がしないでもない。
普通に会話できた事も良かった。前の関係には戻れないって覚悟してたけど、そこは本当にフレデリカの人となりに救われたよ。
またギーやボーウィッドも誘ってみんなでブラックバーに行きたいな。そん時はあのバカ虎も誘ってやるか。あいつらとどんな会話をするのか見てみたいし。
あっ、でもアルカはライガに不信感を持ってるんだったな。フォローしといたほうがいいかなー……めんどいからいっか。
ライガのとこも片がついたわけだし、チャーミルもほとんど元どおりになってたみたいだから、次はいよいよ巨人族のギガントが治めるジャイアンか。あそこは他の街と比べてまじで問題がなさそうなんだけど……その辺はセリスに相談してみっか。
つーか、セリスの奴遅くねぇ?俺が出た後、すぐに風呂に入ったっつーのに。女性は長風呂ってよく言うけど限度があるだろ。早くしないと昼間の農作業のツケが回ってきて夢の世界に……。
「お待たせしました」
寝室のドアが開くと同時にセリスの声が俺の耳に届いた。
ったく、遅ぇぞ。危うく先に寝ちまうところだったわ。つっても、昨日とか普通に寝て……。
何気なくセリスの方に目を向けた俺だったが、その身体は一瞬にして金縛りにあった。
俺の目に飛び込んできたのは、食事会の時よりも更に顔を赤くしているネグリジェを着たセリス。ただ、そのネグリジェはいつも着ている上品なものではなかった。
薄桃色をしたレースのネグリジェ。ヒラヒラとした装飾がたくさんついた可愛らしいデザインをしている。しかし、驚くべきはそこではない。
なんていうか…………えーっと…………あー…………スケスケなんです。
全然隠せていないんです。セリスの白魚のような肌も、柔らかい肢体も、大人っぽい黒い下着も、全部丸見えなんです。
「し、失礼しますっ!!」
セリスは逃げるように布団の中へと入ってくる。俺は固まったままピクリとも動く事ができない。
「ね、眠らないのですか?」
肩までしっかりと布団を被ったセリスが上目遣いで俺に聞いてきた。あんなにも睡魔に襲われていたというのに、今は頭が覚醒して仕方がない。
俺は頭の中が真っ白のまま、緩慢な動きで布団に入り、セリスに背を向ける。
え?ちょっと待って?どういう事?なんでセリスがあんなエロい服を着てるの?
…………えっ?セリスの方を向けって?無理無理無理ィ!!
無理に決まってんだろっ!!だって、ほぼほぼ裸なんだぞ!?そんなの凝視してたらセクハラ問題勃発だろっ!!恋人同士にセクハラってあるのか!?
どうすんだ、これ!どうしたらいいんだ、これ!何が正解なんだ、これぇぇぇぇぇ!!
俺が一人で大混乱をしていると、セリスが静かに俺の背中へと抱きついてきた。
…………まじですか。
恐る恐る背中に目を向ける。セリスは茹で蛸のように耳まで真っ赤にしながら顔を俯かせ、それでも腕だけはしっかりと俺の身体に回していた。
「セ、セリスさん……?」
「………………」
俺が声をかけても、セリスはなんの反応も示さない。とりあえず、そのわがままボディを無遠慮に押し付けるのを止めてくれませんか!?歯止めが効かなくなりそうなんですけどぉぉぉぉ!!
「…………ないですか?」
理性と欲望の終末戦争をしていた俺に、セリスがぼそりと尋ねてきた。
「私には魅力がないですか?」
魅力がない?こんなに俺がタジタジになってるのに?そんなわけあるかぁ!魅力しかねぇわ!!身体中から迸ってるわ!!
「私はっ……!!……あなたになら何をされても構いません……!!」
何をされても……?…………あかん……これ以上はまじであかん。頭の中がセリスで埋め尽くされていやがる。正気を保つんだ、俺!この魅惑的な欲求に対抗できることを考えるんだ、俺ぇぇぇぇ!!ギーとライガの裸が一対、ギーとライガの裸が二対……。
セリスが俺を抱きしめる腕に力を込める。そして、ゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見つめた。
「……私の心も身体も、あなただけのものですから」
涙で潤んだ瞳。僅かに震えている艶やかな唇。少しだけ火照った頬。
俺の理性は完全に崩壊しました。
*
…………ん?朝か。
ゆっくりと目を開けると、窓から差し込む光がある眩しくて、思わず目を瞑った。
なんだか、身体が怠い。ライガとの喧嘩に加えて、昨日の白菜収穫祭のせいだろうな。ちょっと無理しすぎたか。
それにしても、いい夢だったなぁ……。思い出すとちょっと恥ずかしいけど。
なんたって夢の中で俺はセリスと……。
いやいやいや、あんな夢見るなんて欲求不満が溜まってんのかな?こりゃ、適度に発散しないと爆発しかねないな。とりあえず、まだ眠いからもう一度……。
二度寝を決め込もうとする俺の耳に、クスクスと笑い声が聞こえる。何かと思って俺が目を向けると、うつ伏せになって腕を組み、その上に顔を乗せたセリスが慈しむように俺を見つめていた。布団がかけられているので肩までしか見えないが、恐らく衣服は身につけていない。
…………夢じゃなかった。
昨夜の事を思い出し、慌てて顔をそらす俺を見てセリスはまたクスリと笑った。
「おはようございます」
「……おはよう」
顔なんて見れるわけがない。こんなに照れ臭いなんて生まれて初めてだ。
俺は誤魔化すようにぶっきらぼうな口調でセリスに話しかける。
「……先に目が覚めたんなら起こしてくれれば良かったのに」
「すみません。あまりに気持ちよさそうに寝ていたので起こすのをためらいました。それに……」
セリスが柔和な笑みを俺に向けた。
「もう少し、クロ様の寝顔を見ていたかったので」
………………あぁ、俺はもうセリスの魅力から抜け出せないかもしれない。とっくの昔に虜になっていた気がしないでもないが。
とりあえず一つだけ確かな事がある。
クロムウェル・シューマン、大人の階段を上りました。
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