第164話 恋愛に関してズルズルと引きずるのは男の方
やべぇ、思ったよりも白熱しちまった。本職であるゴブリン達のことを舐めてたわ。
今日はアルカと二人でベジタブルタウンに行ってきた。目的は前に視察した時に種蒔きをした白菜を収穫するため。
俺達が転移してくると、ゴブリン達がそれをしているところでさ。混ぜてくれって言ったら、大喜びで了承してくれたんだ。
だけど、ただ収穫するだけじゃ面白くない。
ゴブリン達に魔法が普及したおかげで、かなりの広範囲が白菜畑になっていた。だから、誰が一番白菜を収穫できるか競争することにしたんだ。
正直、空間魔法が使える俺かアルカが圧勝だと思ってた。
だが、蓋を開けてみたらまさかの接戦。
俺とアルカは白菜を取り上げて、空間魔法にしまって、また違う白菜をってサイクルを繰り返しているのに対し、ゴブリン達は白菜を取り上げた後、回収場所まで持っていくっていう手間が入るはずだった。なのに、実際はそうじゃなかったんだよ。
白菜を取ったゴブリンは、その場で風属性魔法の
そんな魔法教えた覚えはないっつーのに。ゴブリン達も学習して日々進化してるって事か。
途中からアルカは
その間もゴブリン達とアルカはガンガン白菜を収穫していった。結果は確認するまでもない。
アルカとゴブリン達、白菜たくさん。俺、白菜そこそこ。圧倒的ボロ負け。魔王軍指揮官の面子丸潰れ。
まぁ、でも。ゴブリン達とワイワイガヤガヤ出来て楽しかったからオッケーだ。
泥だらけになって小屋に帰ると、セリスが一人で報告書をまとめていた。視察を終えたばかりだっつーのに相変わらず真面目なこって。
「帰ったぞー」
「ただいまー!ママ!はいっ!お土産!!」
アルカがゴブリン達からもらった大量の白菜を空間魔法から取り出す。そのあまりの量に目を丸くしたセリスは持ってきた羽ペンを机に置いた。
「こんなにたくさん……しばらくは白菜に困りませんね」
うん。そうなるよね。夕飯が想像できるよ。白菜ご飯に白菜の漬物、白菜の白菜巻きに白菜ドレッシングをかけた白菜サラダ。白菜が嫌いになること待った無し。
「とりあえず、二人ともお風呂に入ってきてください。家の中が泥で汚れてしまいます」
きっぱり言い切ると、セリスは白菜を台所へと運んでいく。中々ハードな農作業だったからな。泥の鎧を纏っていてもしょうがないんだなー。でも、家が汚れるのはいただけない。掃除をするセリスの機嫌が悪くなる。
素直に風呂場へと向かう俺とアルカに、セリスが後ろから声をかけてきた。
「……あぁ、そういえばフレデリカからお呼ばれされました。晩御飯をご馳走していただけるようです」
「フレデリカが?」
「ご馳走!?フレ
眉をひそめて振り返る俺の横で、アルカが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「……何か問題でも?」
「いや、別に……」
問題……問題かぁ……。特にないんだけど、なんとなく気まずいんだよなぁ……。結局、あんな別れ方してからまだ一度も顔を合わせていないようだし。
俺がバツの悪そうな顔をしていると、アルカが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたの、パパ?フレ
「そうか、それは楽しみだな」
俺が笑みを向けると納得したのか、アルカは嬉しそうに鼻唄を歌いながら風呂場へと歩いていく。
フレデリカ……前みたいな感じで接してくれるだろうか?それを考えるとめちゃくちゃ怖い。
とは言っても、いつかは会わなくちゃいけないんだよな。このままってわけにはいかないだろうし。タイミング的にもここらあたりで顔出しておくのがベストだろう。
フレデリカの方からその機会を作ってくれたんなら、その好意に甘えることにしよう。
*
夕方になったところで、俺達はフローラルツリーにやって来た。ここに来ることは珍しくないけど、アルカとセリスの三人で来たのは何気に初めてだった。
「こちらです」
セリスに連れられてフレデリカの家を目指す。俺は行ったことないけど、アルカはあるんだな。迷いのない足取りでセリスの後をついて行ってるし。
あー……なんか胃が痛くなって来た。まじで足が重い。誰か俺の足に重りをくくりつけただろ、まじで。
俺とは対照的に軽い足取りで前を行っていたアルカが笑顔で振り返って来た。
「ここだよー!」
……ここか。着いたのか。着いてしまったのか。
俺の目の前に現れたのは立派なツリーハウス。やはり幹部はいいとこ住んでるなぁ……俺もあの小屋から引っ越すかな。別にあそこに拘る必要はないし、なんならセリスの治めるチャーミルにでも三人で……。
俺が現実逃避をしていると、セリスがあっさりと扉を開いた。ちょ、ちょっとぉ!まだ心の準備がぁ!!
「あら、いらっしゃい。待ってたわよ」
扉の奥には相変わらずの美貌を放ち、ソファで寛いでいるフレデリカの姿があった。
「お邪魔します」
「こんばんはー!フレ
なんのためらいもなくセリスとアルカが家の中へと入っていく。一方俺は、関節が曲がらなくなってしまったかのように、ギクシャクしながら、扉をくぐった。そんな俺にフレデリカが鋭い視線を向けてくる。
「ちょっと、クロ!?全然会いに来てくれなかったじゃない!!寂しかったのよ?」
その声を聞いた瞬間、俺の身体が氷解していった。俺は全身の力が抜けるのを感じながら、フレデリカに笑みを向ける。
「わりぃ……色々忙しくてな」
「ライガの所に視察に行っていたんでしょ?アルカから話は聞いてるわ」
勝手知ったる様子で自分の隣に座っているアルカの頬を撫でながら、フレデリカは言った。当のアルカはソファのスプリングを楽しんでいる。
「その話は後でゆっくり聞かせてもらうわ!さぁ!とりあえず座ってちょうだい!」
俺が促されるままに席につくと、フレデリカはセリスに目を向けた。
「セリス。料理を運ぶのを手伝ってもらってもいいかしら?」
「えっ?あっ、はい。わかりました」
「アルカとクロは適当に寛いでおいて」
それだけ言うと、フレデリカはセリスを連れてリビングを後にする。残された俺はゆっくりと息を吐き出した。
ははっ……すげぇ倦怠感。思った以上に緊張していたんだな。フレデリカの前と変わらぬ口調に心の底から救われちまった。
「……パパ?」
俺を気遣ったアルカが俺の膝の上に乗ると、心配そうに俺を見つめてくる。本当にアルカは心の思慮深い子だ。
俺は安堵したように笑うと、アルカの髪を優しく撫でつける。
「アルカは優しいな……フレ
「そうだよ!フレ
そうか……俺とセリスがいない間はアルカの面倒を見てくれていたんだな。感謝してもしきれないっつーんだよ。
俺が心の中でお礼を告げていると、部屋の扉が開いた。
そこには大量の料理が乗せられているお盆を両手に持っているフレデリカと、同じようにお盆を持っているが、なぜか顔を真っ赤にさせているセリスだった。えっ?なんでそんな顔赤いの?
「お待たせ!気合い入れて作りすぎちゃったわ!」
「わー!美味しそう!!」
机に並べられる豪華な料理に目移りするアルカ。確かにアルカの言う通り美味しそうなんだけど、それ以上にセリスの事が気になるんだよね。
「どうした?熱でもあるのか?」
「な、なななな何でもありません!いいい、いいいつも通りですっ!」
いや、無理あるだろ。そんないつも通りじゃない反応されたら疑問に思うって。
「ささっ!食べましょ!」
そんなセリスに気づいておきながら、あえて何も言わずにいるフレデリカ。席についても依然として顔が赤いままのセリス。
一体何があったんだ?
俺は疑問符を浮かべたまま、とりあえず手近にある料理に手を伸ばした。
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