14.俺が交易結ぶまで
第166話 デートで家電量販店へと連れていく男はモテない
やっと、辿り着くことができた。
目の前に広がる鬱蒼と草木が生い茂る森を、マリア・コレットは無言で見つめる。
昼間だというのに薄暗い森の中は、なんとも言えない不気味な雰囲気が漂っており、マリアは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「……ここに来るまで一ヶ月以上もかかっちゃったな」
マリアは自嘲するように笑う。マジックアカデミアからこのフレノール樹海まで、かなりの距離があるとはいえど、到着するのに日数がかかり過ぎていた。
いくつか理由はあるのだが、一番の原因は自分が世間知らずのお嬢様であったことだった。
王都の中に実家があり、冒険者ギルドにも属していないマリアは、街から外にはほとんど出たことがない。まして、たった一人で出かけるなど、大商家の一人娘として大切に育てられたマリアには考えられないことであった。
魔導列車の乗り方や馬車の止め方、何もかもが初めての経験。その上、引っ込み思案の性格により、積極的に話しかけることもできない始末。
それでも、奇跡的にここまで来ることができたのは
あの魔王に、クロムウェルの最期を問いただしたい。
それこそが、今のマリアを突き動かす原動力。むしろ、それ以外には何もなかった。だからこそ、ここまで惑うことなく来ることができたのだ。
マリアはキョロキョロと周りに目を向ける。自分以外に人っ子一人見当たらない。
「こんな所に来る人なんていないよね。あんな事があった後だし……」
マリアはここに来るまでに立ち寄った街である噂を耳にした。それは、欲望の街・ディシールは実は魔族の街であり、勇猛果敢に攻め込んだ勇者が敗北したという事。そして、その勇者の命を奪ったのは魔王軍指揮官を名乗る新進気鋭の相手だったという話。
自分が人間の街だと思っていた場所が魔族の街だった事だけでも驚きだというのに、勇者が死んでしまったという事実がマリアにとって衝撃だった。
何を隠そう、その勇者とは自分の親友の実の兄なのだ。あまり得意な相手ではなかったが、それでも思うところはある。
「……魔族は平気で私達の大切な人を奪っていく」
マリアはグッと拳を握りしめた。血が滲むのも構わず、唇を噛み締めながら目の前に立ちはだかる森を睨みつける。
「本当はアラモ街道から行けたらいいんだけど、贅沢言ってられないよね」
マリアは大きく深呼吸すると、覚悟を決め、森の中へと入っていった。
*
俺はセリスと二人でチャーミルにあるアウトストリートに来ていた。
ゴアサバンナに関する報告も終え、急を要する仕事もないということで今日は完全なオフ。結構頑張ったんだから3,4日休んでも罰は当たらんだろ。
えっ?アルカはどうしたのかって?
うちの可愛い娘は一人でアイアンブラッドにいるよ。前にアルカがここに置いてある大剣に見惚れてたから、アルカにあった剣を作ってもらえるようボーウィッドに頼んだんだよ。
兄弟は快く引き受けてくれて、アルカも大喜びだったんだけど、「出来上がるまで待ってる!!」って言いだしてさ。仕方がないからアルカを置いてきたってわけだ。今頃、もう少しで玩具が手に入るっていうワクワク感を楽しんでいるだろうよ。……普通の玩具だったらどんなに良かったことか。
そんなわけで俺達はまったりデート中。セリスと二人でどっかに行くことはよくあるけど、デートしたことはあんまりないからな。手をつなぐことにも慣れてきたし、大人になった俺を舐めないでいただきたい。
「……その割にはデートの場として選んだのがここですか」
セリスが少しだけ呆れた目で俺を見てくる。馬鹿め。手をつなぐことに慣れたといっても、お洒落な所へデートに行くのはハードルが高いのだ。選択肢はここかアイアンブラッドの武器屋巡りの二択だっつーの。
まぁ、確かにこのアウトストリートはチャーミルの路地裏にあって、恋人同士で来るようなところではないと思うけど。でも、なんとなく落ち着くんだよなぁ……多分人間界の商品が並んでいるからだろう。俺が人間だった頃の記憶が蘇ってくるようで……って、今も立派な人間じゃ!!
いや、そんなことよりも気になることが。
「なんだか寂しいですね」
セリスも俺と同じことを思ったのか、残念そうに眉を落としながらアウトストリートに並んでいるお店に目を向ける。
そうなんだよね。前に来た時と比べて客もそうだけど、圧倒的に商品が少なくなってるんだよ。……以前、この場所で会ったマルクさんが言っていたことが原因だろうけど。
「交易に対して相当警戒しているんだろうな。元々、人間っていうのは警戒心の塊みたいなところがあるし」
「そうなんですか?……クロ様からは一切の警戒心を感じたことはありませんが」
「俺はあれだよ……心が広いんだ」
「物事を深く考えない
失敬だぞっ!!人をどっかのバカ虎みたいに言いやがって!!俺はしっかり考えてるっつーの!!たくっ…………ん?
特に何の目的もなくセリスを連れて歩いていた俺の足がピタッと止まる。そんな俺をセリスが不思議そうに見つめてきた。
「クロ様?どうされたのですか?」
「ん。あれ見てみ」
俺が指をさす方へセリスが目を向け、怪訝な表情を浮かべる。
「なんですか、あれは?正方形の台に緑のマットが敷いてありますが」
まさかセリスは知らないのか?こんなに面白いもんを?
俺はあえてセリスに詳しい説明をせずに店へと近づいた。
「おう、おっちゃん」
「ややっ!指揮官様とセリス様じゃねぇですかい!!デートですか?」
「まぁな。二人で買い物だ」
店主のおっちゃんが俺達の手を見ながら聞いてきたので、俺は平然と答える。流石にこの程度で恥ずかしがってテンパることはもうない。
「これの牌って売ってんの?」
「流石にお目が高いっ!!こいつは魔族領にあるやつより数段質がいい品でっせ!!いやー人間ってのは手先が器用なもんで!!当然、牌も用意してやす!!」
ふーん、魔族領より質がいいってことは一応こっちの世界にもあるんだな。セリスが知らなかったからてっきりないのかと思ったが……まぁ、セリスみたいに生真面目な奴は知らなくても仕方ないのか。
「よしっ!!一式くれっ!!」
「毎度っ!!お安くしておきますよ!!」
店主は俺からお金を受け取ると、ニコニコ顔で品物を渡してきた。俺はそれを即座に空間魔法へと収納する。セリスはまだ眉を顰めたままであった。
「一体何に使うものなんですか?」
「んー?あとで教えてやるよ」
上機嫌に口笛を吹きながら答えをはぐらかすと、セリスは大きくため息を吐いた。
さて!いいものも手に入れたし、今夜はこれで楽しめそうだ!帰ったら早速、あと三人面子を集めないといけないな!!
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