第55話 ラッキースケベが実際にあってもテンパるだけ

 目を覚ますと、すぐに自分がいるのがいつも自分の部屋でないことに気がつきました。私は痛む頭を押さえながら、ゆっくりと身体を起こします。


「ここは……クロ様の部屋ですね……ということは…………」


 そして、すべてを思い出し撃沈。私はリンゴよりも顔を赤くしながら、布団に顔をうずめました。


「はぁ……」


 盛大にため息を吐くも時すでに遅し。やってしまった事実は変えようがありません。


 私はお酒を飲むと、少しおおらかになってしまうというか……どうしても本能のままに行動したり、言葉にしてしまったりするみたいです。それで記憶がなくなっているならいいのですが、はっきり詳細まで覚えているから尚、性質たちが悪いです。

 私はむくりと顔を上げ、昨日やらかしたことを一つ一つ整理していきます。


「昨日は……クロ様に言われてお酒を飲んで……そして終始クロ様の腕にしがみついていました」


 最初の段階でかなり恥ずかしいことをやっていますね……。というか昨日の私はどれだけクロ様に密着していたというのですか?


「そしてクロ様に色々言った気がしますね……『クロ様の秘書は私だけ』とか、『クロ様は私だけのもの』とか……」


 思い出すだけで顔から火が出そうです。私は何ということを言っているのでしょう。昨日の私は頭がおかしかったとしか思えません。


「そしてクロ様に背負われてこの小屋に帰ってきて……ベッドに連れて来てくれたクロ様に私は……」


 顔を引き寄せ、口づけをしました。


「~~~~~っ!!!」


 顔のあたりで小爆発が起こりました。おそらく私の顔はお酒を飲んだ昨日よりも真っ赤になっていることでしょう。耐えきれなくなった私は再び布団に顔をうずめます。


 あぁ……クロ様に合わせる顔がない。どんな顔をして会えばいいのかわからない。いっそこのままこの場から消え去ってしまいたい。

 失意に暮れる私をクロ様の優しい香りが包みこんでくれます。私はクロ様の布団をギュッと抱きしめました。この匂いを嗅いでいるだけで私は安心感を得ることができます。


「……それに比べて私はお酒臭いですね」


 私はベッドから起き上がると、恐る恐るクロ様の部屋から顔を出しました。きょろきょろと辺りを見回すと、すぐに目当ての人を見つけることができました。


 音を立てずにリビングのソファに近づき、顔を覗き込みます。寝苦しいのか、クロ様は顔を顰めながら眠っていました。私なんかにベッドを譲るからです……本当に優しいお方。



 あぁ、もうわかっていますよ。誰かに言われるまでもない。



 私は目の前にいるこの冴えない人に、どうしようもないくらい惹かれています。



 慈しむように彼を眺めます。縮こまって眠る姿も、寝癖で髪が跳ねてしまっているところも、何もかもがすべて愛おしい。


 私はゆっくりとクロ様から視線を外しました。そして、微かに笑いながら、私をこんな気持ちにさせたクロ様の事を呪います。


「……勝手に使うのは忍びないですが、お風呂を貸していただきましょう」


 流石にお酒の匂いをさせながら秘書としてついていくわけにはいきません。私は空間魔法から着替えとタオルを取り出すと、浴室へと向かいました。



 …………ん?今誰かいたような気が…………。

 俺はソファから顔を上げあたりを窺う。うーん……誰もいないな。つーか、身体の節々がいてぇ。やっぱソファで寝るのはよくねぇな。そもそもなんでソファで寝ているんだっけ?


 …………あ。


 俺は自分の部屋の扉に目を向ける。そうだった。酔っ払ったセリスを連れてきて、仕方なく俺はここで寝ることにしたんだった。そして、俺は昨日あの部屋でセリスに……いや、これ以上は止めよう。

 うー……寝ている間にけっこう汗かいてんな。昨日は風呂に入らずそのまま寝ちまったし、身体がベタベタで気持ち悪すぎる。とにかくシャワーを浴びよう。

 俺はソファから起き上がると、一直線に浴室へと向かう。そしてなんの躊躇もなしにその扉を開けた。


 一瞬視界が湯気によって奪われる。そして、次に俺の目に飛び込んできたのは、産まれたままの姿で自分の髪を拭いていたセリスであった。お互い目が合うとその場で凍り付く。

 シミ一つない白魚のような肌に無駄な肉が一切ない肢体。そして、上半身には男を獣にする破壊力抜群の二つの凶器が……。


「っ!?!?!?!?!?」


 我を取り戻したセリスが顔を真っ赤にしながら、慌てて自分の身体をタオルで隠す。俺の頭は完全にパニック状態。なにをどうしたらいいのか悩んだ結果、俺はおもむろに頭を下げた。


「お、おはようございます」


「お、おはようございます」


 なにこれぇぇぇ!?なんで普通に挨拶しちゃってんの俺!?なんで普通に挨拶返しちゃってんのお前!?

 やべぇよやべぇよ!こんなん殺されたって文句は言えねぇ!勢いで頭を下げちゃったけど、上げられねぇだろこれぇぇぇ!!

 と、とにかく先手必勝!平謝りで少しでもダメージを軽減するしかない。


「あの……」


「すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」


 俺は頭を下げた状態からそのまま床に頭を押し付ける。これぞ完璧なDOGEZAの姿勢。自分の非礼を詫びる最強のスタイル。


「いや、こんなこと言ってもいいわけだって言われるけど、本当わざとじゃないんだ!俺の家だったから完全に油断していて……」


「ク、クロ様!!頭を上げてください!!」


 セリスが焦ったような声を上げる。……あれ?怒ってない?

 俺はおずおずと立ち上がるとセリスに向き直った。


「も、元はといえば私が勝手に浴室をお借りしたのが悪いんです……申し訳ありませんでした」


 セリスが胸元を覆ったタオルを押さえつけながら謝る。あーうん、とりあえず服着ようか?


「それに昨日もクロ様に多大な迷惑を……秘書としてお恥ずかしい限りです」


 昨日っていうのは酒場の事か?それとも俺の部屋での事?……どっちにしろ気まずいわ!


「いやー……昨日は俺もたらふく飲んでたからさー全然覚えてないんだよなぁー」


 棒読み!棒読みすぎるよクロムウェル!!それでも覚えてないことにしねぇと、今後のこいつとの関係に支障をきたしまくるだろ!

 セリスは少し驚いた顔をすると、曖昧な笑みを浮かべた。


「そ、そうなんですか?じ、実は私もよく覚えていないんです」


「そ、そうなんだー?な、なーんだ俺達似た者同士だねー!」


 だねー!じゃねぇよ!誰だお前!?テンパりすぎてキャラブレまくりじゃねぇかよ!!セリスも俺にあわせて笑ってくれてるけど、普通だったら白い目向けられてるからね?……まぁこいつも大分テンパってるってことだな。


「と、とりあえず着替えたら?か、風邪ひいてもあれだし……」


「そ、そうですね!じゃあ失礼して着替えを……」


 バーン!


 小屋の扉が勢いよく開けられた。俺とセリスが同時に目を向けると、そこには太陽のように明るい笑顔を携えた城の女中のマキの姿が。


「おはようございまーす!!今日は珍しくセリス様が城に来られなかったんで、みんなのアイドル、マキちゃんが指揮官様に朝食を……」


 マキの目が俺達を捉える。一人はいつもの黒いコートを着ているが、もう一人は裸にタオル一枚といった大胆不敵な恰好。

 マキは超高速で目を左右に泳がせると、何も言わずにそのまま小屋の扉を閉めた。


「あー……ちょっとやることができたからセリスはさっさと着替えて来い」


「……そうさせていただきますね」


 セリスは静かに脱衣所へと戻っていく。俺はその扉をしっかりと閉めると、小屋の外でパ二くっているであろうマキの所へと急いだ。

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