第53話 乾杯はビールっていう風潮は古いけど、なんだかんだビールを頼んでしまう

 いやーなんかラッキーだったわ。

 今日の船の揺れは今までの比じゃなかった。やっと船の揺れに慣れてき始めて船酔いを克服したと思ったらこれだよ。


 とにかくやってらんない程の船酔いに悩まされてた俺は、大人しくベッドで寝ていたんだけど、途中からその揺れがさらに激しくなってさ。投げ捨てられるようにベッドから落とされたんだよ。

 流石に何事かと思ってイライラしながら甲板出たら、なんかオーガ達は必死にオールを漕いでるし、でかい蛇みたいな奴いるし、その上セリスの腕からはたくさん血が出てるし。


 ほぼ八つ当たりみたいな感じで、そのでかい蛇を倒して、さっさと部屋に戻って引き籠ってたら、いつの間にか港に帰ってきててさ。そんでほっとしながら部屋を出たら、待っていたダニエルが突然俺を魔王軍指揮官として認めるとか言い出したんだ。正直何がよかったのかはさっぱりわかんねぇけどマジ良かった。

 はじめはこんな嵐みたいな天気で漁に行くのかよマジとち狂ってる、とか思ってたけどこれで船旅ともおさらばだからな!心の底から嬉しいぜ!


 なんか港に早く戻ってきたっつーことと、俺の指揮官就任祝いも兼ねて酒場で宴会するらしい。俺もセリスも誘われてさぁ……少し迷ったんだけど、こういうのに付き合うのも大切かなって思って承諾したんだよ。

 まぁでもアルカを一人にはできないってことで、もう一人参加させる許可をもらってな。アルカを迎えに行った俺は港にある一番大きな酒場に戻ってきたってわけ。


 つーことで、今俺はオーガ達に自分の愛娘を紹介しているところだ。


「この天s……この子は俺の娘だ。アルカ?」


「アルカです!よろしくお願いします!」


 礼儀正しく頭を下げるアルカをみんな目を丸くしながら見つめている。そうだよなーそんな顔になるくらいアルカは可愛いよなー。


「……指揮官さん、結婚していたのか?」


「あー……結婚はしていない。この子は養子だ。でも、娘同然に思っている」


 アルカの頭を撫でながら俺は自信満々に言った。実際本当の子供がいるわけじゃないからあれだけど、でもそれくらい大事にしているというのは事実だ。


「なんだそういうことか!アルカの嬢ちゃん、よろしくな!」


「うん!」


 笑顔で頷くアルカにオーガ達が暖かな視線を送る。アルカは酒場をキョロキョロ見渡すと、奥に三人座れる席を見つけセリスの手を引っ張った。


「ママ!あそこの席に行こうよ!」


 はい、いつものあれね。もうテンプレになってきてるな、アルカのママ発言。ってあれ?いつもは表情が凍り付くセリスが、なんか普通にアルカについていってんだけど?ってか船を降りてから借りてきた猫みたいに大人しくなってんだよな、あいつ。もしかして魔力の使い過ぎで体調が良くないのか?俺の回復魔法じゃそこまでは治癒できないからな。


 とりあえず何か言いたげなオーガ達を睨みで黙らせる。セリスがアルカのママその話題には触れるんじゃねぇぞ?


 俺はオーガ達の間を歩いていき、セリスの隣に腰を下ろした。


「あんなに無理して魔力を行使しやがって……体調が悪かったらすぐに言えよ?」


「えっ?は、はい……すみません……」


 セリスは顔を赤くしながら俯いた。あー……これはかなり重症ですわ。すべての棘と毒が抜け落ちてやがる。俺のガラスハートが傷つくことはないが、この状態のセリスはセリスで、なんか精神力がゴリゴリ削られるんだよな。


「おう!お三方!何飲むよ?」


 ダニエルがビールジョッキを片手に持ちながら俺達の所へやって来た。いやお酒持つの早くね?それって全員の注文聞いたら運ばれるんじゃねぇの?なんで酒持ちながら酒の注文聞いてんだよ。


「俺は蜂蜜酒をロックで」


「アルカはリンゴジュースがいい!」


「私は……お水をください」


 おいおい……酒場に来て水だと?そんなことがあっていいわけがない。確かにセリスはリヴァイアサンとの戦いで消耗しているかもしれねぇが、それならむしろお酒を飲んで身を清めるべきだ!


「セリス……今日くらいはお酒飲めよ」


「そうだぜセリス様!酒場は酒を飲むところだぜ?」


「えっ……ですが……」


 俺とダニエルに目を向けられ狼狽えるセリス。まったく……こいつの真面目っぷりときたら……しゃあない、助け舟を出してやるか。


「魔王軍指揮官として命ずる。セリスよ、今日は羽目を外して楽しめ」


「おっ!清々しいまでの職権乱用!いいねぇ!」


「クロ様……わかりました。それでは葡萄酒をください」


 セリスが諦めたように注文すると、ダニエルは嬉しそうに頷いた。やっぱり一人だけ飲まないとかちょっと気が引けるよな。うん、俺はいい命令を下した。

 ほどなくして俺達のもとに飲み物が運ばれる。それを手に取ると、正面に立つダニエルに目を向けた。


「野郎ども!今日は嵐の中良く生きて帰ってきた!それもこれも必死に俺達を守ってくれたセリス様と、化物じみた強さの指揮官さんがいたからだ!!二人ともありがとう!」


「「「「ありがとうございます!!」」」」


 おいおいなんかてれくせぇな。いいからさっさと始めろよ。久しぶりの酒を前にそろそろ我慢の限界なんだよ。

 そんな俺の思いとは裏腹にダニエルはジョッキを俺に向けてきた。


「俺はこの男を魔王軍の指揮官として認める!!異論がある奴はいるか!?」


「いるわけねぇぜ!!」


「うおー!!クロ指揮官万歳!!」


「セリス様!!結婚してくれ!!」


 おい三番目の奴、マジでよく考えた方がいい。こいつと一緒になったら身も心もボロボロになるぞ?


「よーし!!ならばいい!!今日は指揮官さんが仕留めたリヴァイアサンのおかげで財布が大分潤っている!!飯も酒もやり放題だ!みんな気にせず飲んで食って騒いでくれ!!俺達の生還とクロ指揮官の就任を祝って……乾杯っ!!!」


「「「「乾杯っ!!!」」」」


 こうしてオーガ達との宴が始まった。さーて、今日は飲みまくるぞ!!

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