第24話 料理の「さしすせそ」は知っているだけじゃダメ、知らないようではもっとダメ
俺はセリスに明日必要なものを集めるよう依頼すると、一足先に小屋へと戻ってきた。まだギリギリ太陽が沈み切っていない時間だったため、アルカは中庭で一人魔法陣の練習をしているところだった。
「アルカ」
俺に声をかけられたアルカがピクッと反応し、振り向いて俺の姿をその目に捉えると、満面な笑みを浮かべながらこちらに駆け寄ってくる。
「パパー!!おかえりなさい!!」
飛びついてくるアルカを優しくキャッチ。嬉しそうに俺の身体にすり寄ってくるその姿は天使を超えた何か。この世界にアルカより可愛い生物はいないんじゃないかな?
「ママは一緒じゃないの?」
「セリスは買い物に行ってるよ。だからお父さんがアルカを独り占めだ」
俺がギュッと抱きしめると、アルカが幸せそうな表情を浮かべる。この表情は俺だけのもんだ!あの金髪泥棒猫には絶対にやらん!
「あっそうだ!」
アルカが俺の腕の中からぴょんっと飛び下りる。ああん……至福の時間が……。
「ルシフェル様にふくすうまほうじんっていうのを教えてもらったよ!見てて!!」
そう言ってアルカは意気揚々と魔法陣を組成していく。一つ目の魔法陣を数秒で作り出すともう一つの魔法陣を重ね合わせようとするが、うまくいかずに魔法陣は空中で霧散した。
「また失敗しちゃった……」
「アルカには少し早かったかな」
しょんぼりと肩を落とすアルカの頭の上に、俺は優しく手を置く。
「でも一つ目の魔法陣は見事だったぞ?大人も顔負けだ」
「そ、そうかな?えへへ……」
アルカが嬉しそうに頬を赤くする。なんかもう可愛いという言葉すらアルカには物足りないよ。アルカを表現する言葉が見つからない。
「アルカは魔法陣をどうやって作ってる?」
「えーっと、こうやって頭に思い描きながら……」
アルカが奇麗な魔法陣を組成した。うん、正しいやり方だ。でも、それじゃ速さに限界がある。
「頭で思い描いたモノををなぞって魔法陣を作り出すと、どうしても時間がかかるし、その上精度も落ちる」
「えっ?それならどうやって魔法陣を作り出すの?」
アルカが大きな目をこちらに向ける。よしよし、たまにはお父さんが見本を見せてあげよう。
「頭に思い描くのはいいんだ。でも曖昧にじゃない。細部までこだわって頭の中に魔法陣を作り出す。そしてそれをなぞりだすんじゃなく、そのまま空中に張り付けるんだ」
俺は火属性の
「すごいすごい!パパすごい!!」
「へっへー!そうだろ?アルカもやってみな?」
「よーし!」
アルカは固く目を瞑り、うーんと唸りながら頭の中に魔法陣を描き出す。そして俺と同じように手をかざし魔法陣を生み出した。だができたのはほとんど魔法陣とは呼べない代物。
「やっぱり駄目だった……」
「こればっかりは練習あるのみだ!パパだって何度も何度も練習してできるようになったんだぞ?アルカならきっとできるようになるさ!」
「うん!アルカ頑張る!」
アルカは笑いながら魔法陣を作る練習を再開した。
明日の準備を整え、食事を持ってやってきたセリスに声をかけられるまで俺達は魔法陣の練習をしていた。結局、一瞬で魔法陣を生み出すやり方は一度も成功しなかったが、それでも少しずつ形にはなってきており、アルカも喜んでいたのでよしとする。この調子ならすぐにでもできるようになりそうだな。俺もうかうかしてられん。
*
翌日早朝、俺は腕を組み、黒いコートをたなびかせながら決戦の地を睨みつけていた。
アルカのことはセリスに任せ、早々に家を出てきた俺はボーウィッドに許可をもらった工場の一角に簡易食事処を作るべく、構想を練っていた。
とはいっても大したものができるわけじゃないんだけどな。とりあえず昨日のうちにセリスから受け取り、空間魔法に収納していた道具を一通り出してみる。
あるのは木の長机が二つと椅子が二十脚。机をおいて左右均等になるようにいすを並べる。食べるところはこんなもんでいいか。
続いて料理する場所。ボーウィッドが突貫工事で魔道蛇口とシンクを用意してくれたので、そこに食器と魔道コンロを設置。うん、これで調理器具を並べて完成。
……えっ?こんな早く出来るの?どんな感じにするかめちゃくちゃ悩んでたんだけど。
いやいやいや、本番は料理だ。俺がここに来たときは誰一人としていなかったはずなのに、すでに工場が稼働している音がする。こんな簡単な食事処を作るのにどんだけ時間かかってんだよ!さっさと作り始めなければ第一陣が来てしまう!
とにかく食材の確認だ!えーっと……これは玉ねぎでこれはジャガイモ……んでこれは肉?なんの肉だこれ?あとは塩に赤い調味料、黒い液体の調味料に透明な調味料と薄い黄色い調味料……って調味料ってこんなにあんのかよ!?塩だけじゃないの!?つーかなんで干からびた昆布が入ってんだよ!?あれか?セリスの嫌がらせか?
まぁなんにせよ作ってみないことには始まらない。この玉ねぎを切って……うおっ!この包丁スゲーな!流石はボーウィッドからもらったデュラハン印の包丁なだけはあるぜ。全く抵抗なく野菜が切れる。
野菜は生でもいけるが、それじゃあ料理とは言わねぇぜ!とりあえず野菜炒めでも作ってみるか。フライパンに切った野菜を入れて、味付けはそこら辺にある調味料を片っ端から入れて、後は野菜に火を通すだけで簡単に……。
なんか黒い塊ができた。
うーん……これ食べれんのかな?まぁ、元は野菜なんだから食べれるだろ。とりあえず味見を……苦っ!!まずっ!!そして痛い!!
「……なにやっているんですか?」
あまりのまずさに床にのたうち回っている俺を呆れたように見つめるセリス。俺は慌てて立ち上がり、水を一気飲みする。
「……死ぬかと思った。ってセリスその恰好……」
セリスはいつものワイシャツとタイトスカートのビジネスルックの上に、フリフリがついたピンクのエプロンをつけていた。
まな板の上にある形も大きさもバラバラな野菜を見て、大きくため息を吐く。
「こんな事だろうと思いましたよ……料理は私達が担当しますから」
「私達って……あれ?アニーさん?」
セリスの後ろに見覚えのある黄色いデュラハンが立っていることに今更になって気がついた。
「……指揮官様は……私達のために……頑張ってくださっているので……私も……微力ながら……お手伝いします……」
アニーさん……ほんまええ奥さんや。アニーさんがいるなら百人力だぜ!!
「食材はあるので何でも作れます。なににしますか?」
「……そうですね……提供する時間を考えて……炒飯とスープにしましょうか……」
「わかりました」
二人が並んでシンクの前に立つ。少ない言葉で役割分担をし、料理作りを開始した。
完全にお役御免となった俺なんだけど、セリスの手際の良さに思わず見とれてしまった。あの手のタイプの女性は絶対に料理ができないと思っていたのに……。料理もできて、認めたくはないが、すこぶる美人のセリスに恋人ができない理由……やはり性格に難があるということでしょうな。
俺がうんうん、と一人で納得したように頷いていると頭にフライパンが飛んでくる。
「痛っ!!」
「すいません、手元が狂いました」
「手元が狂ったってお前……!!」
「次変なこと考えてたら野菜を切っている手が滑りますからね?」
こわっ!!エスパーかお前は!完全に俺の心を読んだだろ!!
ニコニコ笑みを向けているセリスであったが、目だけは全くという程笑っていなかった。命の危険を感じた俺は黙って二人の調理を眺めることにする。
あっという間に大量のチャーハンと野菜スープが出来上がっていき、あたりにいい匂いが漂い始めてきた。これならデュラハン達もゴキブリホイホイよろしく、思わずこの場に集まってきちまうだろ。
これで肝心な料理は出来上がり。後はデュラハン達を待つだけだ!!
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