第23話 緊張するときは観客を野菜に見立てろというが、野菜に向かって真剣に話すのも難しい

 午後五時。デュラハンの仕事はきちっとしており、時間も正確無比だった。俺は目の前にずらりと並んだ鎧の集団を見て思わずごくりとつばを飲み込む。

 壮観なんてもんじゃねぇぞ、これ。色んな形や色をしたフルプレートの鎧が何も言わずに俺のことをじっと見ているんだぞ!?まぁ元々鎧はしゃべらないもんなんだが。これを前にしてブルっちまわないやつが居たら俺はそいつを人間とは認めねぇ!!だからこの景色を見ても、おそらくヘラヘラ笑っているであろうレックスは人間じゃねぇ!!


 俺はチラリと横に立つボーウィッドに視線を送る。ボーウィッドも俺の視線に気がついてこちらに顔を向けるが、口を開く気配はなかった。

 あー……こりゃ俺が話さないとダメなパターンだな。本当はボーウィッドに「今日も仕事ご苦労。疲れているところ悪いが急遽集まってもらったのは皆に話を聞いてもらうためだ」的な前口上をしてもらった方が気が楽なんだが。

 まぁ贅沢を言っても始まらない。兄弟にはデュラハン達を集めてくれたこと、話す機会をくれたことだけでも感謝しなくちゃな。……つーか兄弟はどうやってみんなを集めたんだ?


 俺は咳ばらいをすると、一歩だけ前に出てデュラハン達を見据える。


「今日も一日ご苦労さん。疲れているところ集めちまって悪いけど、今日集まってもらったのは俺の話を聞いてもらうためだ」


 うん、思った通り反応なし。やべぇなこれ。思ってたよりずっとハードルたけぇわ。

 考えても見てくれよ。たくさん鎧が置かれている部屋に入れられて、一人でその鎧達に話しかけるんだぞ?しかも大声で。なんか人として大切なものを失ってる気持ちになるわ。


「俺のことを見たことがあるデュラハンもこの中にはいるだろう。仕事をしている最中に俺が無神経に話しかけたりしていたからな。まーその節はあれだ……うん……大変申し訳ないと思っています」


「なんでいきなり謝っているんですか!」


 俺の後ろに控えるセリスに小声で注意された。いや。だってあいつら何も言わずにじっと俺のこと見ているんだよ?なんか怒ってる気がするじゃん!無言のプレッシャー感じるじゃん!

 俺が目だけでそれを訴えかけると、セリスの目が更に厳しくなる。


「そんな目をしてもダメです。ほら、せっかく集まってくれたんだから、さっさとクロ様の改革を話してください!」


「わ、わかってるよ!」


 俺はセリスとのひそひそ話を断ち切り、もう一度デュラハン達に目を向けた。相変わらずの威圧感を前に、俺は最後の手段を行使する。


 その名も『野菜の野菜によるエブリバディ野菜のための野菜ベジタブル』。


 こいつらは野菜だ……育ちすぎた野菜なんだ……ほぉら、だんだんそう見えてきた。あの赤い奴はトマトだろぉ?緑の奴はピーマンで……あっ、ジャガイモもいるじゃねぇか。


 俺は頭の中でデュラハン達を野菜に置き換えながら話を進めていった。


 正直、何をしゃべったか思い出せない。多分改革の話をした……と思う。話している最中の俺は、前から四番目にいる金色の鎧を見て、何の野菜にするかで頭がいっぱいだった。金色の野菜なんてパッと思い浮かばねぇよ!くそが!!


 とにもかくにも、俺が考えていることは全部話したはず。後はデュラハン達の反応を待つばかり……ん?こいつら反応見せるのか?


 えっちょっと待って。すっかり忘れてたんだけどこいつらコミュ障だった。そんな奴らがこんな大勢の場で自ら口を開くなんてまねできるのか?学校の朝礼で校長先生の話が終わった後、校長に意見するようなもんだぞ?普通の奴でもやらねぇわ!


 やべぇよやべぇよ。終わらせ方全然考えてなかった。つーかこいつらの反応を見れないんじゃ俺が前に出てしゃべった意味ある?


 冷や汗で服をびしょびしょにさせながら、俺が必死にこの場をどうするか考えていたら、一番前にいた黒い鎧のデュラハンがスッと前に出た。


「……それは……魔王軍の……指揮官としての……命令か…………?」


 ん?何を言っているんだ?

 俺が不思議そうな表情を浮かべながら周りを見渡すと、他のデュラハン達も俺の答えが気になっているようであった。

 あーそういうことか。そういや俺って結構えらい地位にいる奴だったんだ。なるほどなるほど、上からの命令なら真面目なデュラハン達は黙って従うってことだな。うんうん。


 まぁ、そんなのくそ喰らえなんだがな。


 俺は黒いデュラハンに不敵な笑みを向ける。


「指揮官とか関係ねぇよ。そしてこれは命令じゃなくて提案だ。こうしたらデュラハン達の仕事っぷりはもっと良くなるんじゃないかって俺なりに考えた結果の、な」


「……提案……」


 あー、ボーウィッドと長くいるおかげで、なんとなくデュラハンの表情が分かってきたぞ。あれは完全に眉を寄せて首をかしげてやがんな。


「そうだ。今俺が話したことを命令されてやってみろ?今までとなぁんにも変わりやしねぇ。だってそれは命令に従っているだけで、お前ら自身が変わろうとしているわけじゃないんだからな」


 そうだ。命令じゃ意味がない。自分達でやってみるかやってみないか選ばないと何にも始まらないんだよ。


「俺は確かに魔王軍の指揮官だ。それがどれほどえらいのかは知らないが、もしその名に恐れて意見が出せないやつがいるんなら、今すぐそんなもん辞めたってかまわない」


 つーか辞められるもんなら今すぐ辞めたいんだけど。そうすればアルカと一日中二人で……養っていけなくなってセリスにアルカを取り上げられそうなんで却下。


「だから俺の提案をはねのけてくれても一向にかまわない。そうしたら俺はお前らにあった違う案をまた一から探すだけだ」


 目の前のデュラハン達がざわざわし始めた。と言っても別に相談し始めたわけじゃなくて、互いに互いの顔を見合わせているから、鎧同士がぶつかり合ってガチャガチャ言っているだけだ。正直うるせぇ。

 そんな中、黒いデュラハンだけはまっすぐに俺を見据えていた。


「お前は人間だ……デュラハンじゃない……それどころか…………仲間でもない……」


 その言葉を聞いたセリスがピクリと反応し、思わず前に出そうになるのを俺が手で制する。


「ばーか。なんでお前が熱くなってんだよ」


「ですが……!!」


 俺がそれ以上何も言わずにセリスの顔を見つめると、セリスは唇を噛み締めながらゆっくりと後ろに下がっていった。


「悪かったな。続けてくれ」


 俺は涼しい顔で黒いデュラハンに向き直る。少し戸惑っているようであったが、それでもこちらから目を離さずに話を続けた。


「仲間ではないお前が……なぜそこまで……俺達のことを考える…………?」


 ふむ、一理あるな。俺だって人間の世界にいた時に魔族の奴がしゃしゃり出てきたらなんか企んでんじゃねぇのか?って思うわな。だが、残念だったな黒いデュラハンよ!俺にはお前たちのことで真剣に悩む明確な理由があるんだぜ!


「決まってるだろ?ダチのためだ」


 おー狼狽えてる狼狽えてる。黒い奴だけじゃなくて、他の奴らも困惑しているみたいだな。

 俺がチラリと視線を向けると、兄弟は力強く頷き返してくれた。それだけで今の俺の身体に力が滾る。


「俺には兄弟とも呼べるくらい大事なデュラハンのダチがいるんだ。そいつのために何かしてやりたいって思ったから、無理を承知でこんな提案してるんだよ。意外とシンプルな理由だろ?」


 俺は黒いデュラハンに笑いかけた。自分のことながらものすげぇ単純な理由だな、おい。なんかドヤ顔で言ったのがちょっと恥ずかしくなってきたぞ。


「デュラハンの……ダチ……?」


 黒いデュラハンが呆気に取られている。そんなにデュラハンの友達がいるのが驚きか?だが残念、その正体は教えることはできませーん。


「……まぁ、魔族にとって敵である人間と仲良くしてるってのはいろいろと問題になりそうだから、兄弟の名前を言えないのが心苦しいが仕方が───」


「俺だ」


 ボーウィッドが堂々とした足取りで前に出てくる。

 ちょっと!?ボーウィッドさんなにしてんの!?どう考えてもそれはまずいでしょ!?お前はこの街の長なんだぞ!!?そんなやつが人間と仲良くしてちゃ面子丸つぶれだぞ!?


「……首長……」


 黒いデュラハンがボーウィッドに鋭い視線を向ける。やばいってこれ。ボーウィッドが立場を失ってこの街で生きていけなくなる。………そうしたらフェルに頭下げてアニーさんも一緒に、城の中庭に住まわせてもらおう。


「……クロ指揮官は……俺の大切な友人だ…………だから……俺からも頼む……」


 ボーウィッドが直立不動の姿勢からゆっくりと頭を下げた。


「……工場を……街を……より良いものにするため……力を貸してくれないか……?……これは……首長命令では……ない……」


 ボーウィッド……お前。


 俺はボーウィッドの隣に立つと、同じように頭を下げた。


「デュラハンにはもっと可能性がある!試すだけでもいい!合わなかったらすぐに止めてもいい!!少しの間だけ俺の……俺と兄弟のわがままに付き合ってくれないか?」


 静まり返る工場内。俺もボーウィッドもひたすら頭を下げ続けている。


「……俺は……構わない」


 その言葉に反応した俺が頭を上げると、黒いデュラハンは出口に向かって歩き出していた。それに呼応するかのように他のデュラハン達も俺に向かって頷き、工場を後にしていく。


「受け入れられた……のか?」


 俺は去っていくデュラハン達の背中を茫然と見つめていた。そんな俺の肩にボーウィッドが優しく手を置く。


「やったな……ギッシュが認めるとは……驚きだ」


「ギッシュ?」


「黒いデュラハン……ここの工場長だ……」


 あいつが工場長か……確かに貫禄あったな。ってか黒い鎧ってかっこいい。


「お疲れ様です」


 セリスが柔和な笑みを俺に向けた。俺は顔を引き攣らせながら思わず後ずさりをする。


「……なんですか、その反応は?」


「いや俺はセリスにそんな顔向けられたことないから……アルカにはよく向けているの見たことあるけど」


「はぁ……あなたは……。本当余計なことばかり言う口ですね……」


 セリスにジト目を向けられ、俺はニヤリと笑う。


 とりあえずスタートラインに立つことはできた。だけどこの改革がうまくいくかは明日の頑張り次第。デュラハンコミュ障脱却作戦、開始だ!!

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