第3話 立てたら回収するまでがフラグ
林間学校最終日。ゆっくりと日が昇り、朝の日差しが差し込んできたころ、盛大にフラグが立ちました。死亡フラグが。
いやちげぇだろ!?そこは恋愛フラグだろ!?演習にきた俺達に少しだけ強い魔物が現れて、そこでヒロインを助けて恋が始まるところだろ!?なんでシャレになってない魔物の大群に俺達の館が取り囲まれてるんだよ!!
とりあえず、今は教師の指示でチームごとに固まって待機してるんだよね。このチームってのは実戦演習をする際に四人一チームで行うために組まれたやつなんだけど、これもなかなかに劣悪でさぁ……。
自由に組んでいいってことでレックスに俺がそっこー拉致られて、その後来たのがマリアさんとフローラさんだぜ!?振られた相手と同じチームって気まずすぎるわ!
その上、マリアさんだけが癒しだと思っていたのに、クラスの美少女二人を独占した結果、クラスの野郎共の私怨が半端ない。
レックスに敵意は向けられないと、全てのヘイトが俺に集中しやがった!!今回ばかりはマリアさんを恨んだな……完全に逆恨みだけど。ってかマリアさんもレックス狙いだったのね。
あーぁ、隣でマリアさんが震えちゃってるよ。そりゃ怖いよねー。……っと待てよ?ここで俺が「コレットさん、不安になることはないよ。俺とレックスが守ってあげるから」とか言えば好感度うなぎのぼりじゃね?ここにきて恋愛フラグじゃね?これはやるっきゃない!
「コ」
「マリア!そんな不安そうな顔すんな!俺とクロムウェルが守ってやるからさ!!」
うぉーい!!それ俺の台詞!それ俺のフラグ!それ俺のドヤ顔!!お前はどんだけ好感度上げるつもりなんだよ!!フローラさんがメーター振り切って目が完全にハートになってんじゃねぇか!!
あっでもマリアさんにはあまりささってないみたいだ。不安そうに俺の方をチラチラ見ている。……頼り無くて本当に申し訳ない。
おっ、避難計画がまとまったようだ。教師たちが慌ただしくこちらに指示を出している。とりあえず全員固まって山道を進んでいくようだ。えっ?散々待たせて話し合った結果の作戦がそれ?
うーん……多少の不安は感じるものの、今は教師の指示に従うほかない。前のチームに続いて館を出るとするか。
ゾロゾロゾロゾロ……。なんか軍隊蟻みたいだ。周りの顔を見る限り、そんなことを考えているのは俺以外にはいないな、うん。
「ん?なんだ?」
突然、行進が止まり、レックスが首をかしげる。いやいや、もう館出たんだから足を止めるのってまずくね?
「なんかトラブル発生か?行ってみようぜ」
「あっ!レックス!待って!」
人ゴミをかき分けてどんどん進んでいくレックスを見て、フローラさんが慌てて追いかけていった。なーんか厄介ごとの匂いがプンプンするんですがそれは。
「シ、シューマン君……?」
マリアさんが潤んだ瞳でこちらを見上げる。そうだよね。俺と二人きりじゃ不安でしょうがないよね。
「俺達も行ってみようか」
「そ、そうだね」
はぐれないようにマリアさんの手を握る。ヒャッっと小さく叫び声を上げたような気がするが、緊急事態により我慢して欲しい。……どうせ手をつなぐならレックスがよかった、とか思われてそうで怖い。つーか思われてるだろ。心折れるわ。
なにやらざわめいている生徒達の中を必死に進んでいくと、やっとの思いで先頭に出た。俺はてっきり魔物に道を阻まれて立往生しているのかと思っていたが、そんなことはなかった。
「お前らが勇者となるべく鍛えられている者達だな。全員生きては帰さん」
逃げようとする俺達の行く手を遮っていたのは、只ならぬ雰囲気を纏った魔族の男であった。
*
あれが魔族か、初めて見た。えっ?初めて見たのになんで魔族ってわかったかって?だって背中から蝙蝠みたいな羽根生えてますもん。あれは安いコスプレじゃ再現できませんね。
突然の魔族の襲撃に、生徒はおろか教師陣も動揺している。そうだよなー何だかんだ館から離れたところまで来ちゃったから、今更引き返せないよな。
尤も、前に陣取るあいつがそんなこと許してくれそうにないけど。
「我が名はアトム。悪魔族のエリゴールである」
えっ?オルゴール?音楽が好きとは意外と陽気なやつなのかもしれない。身体から放たれる殺気は陽気とは程遠いが。
「我の目的は魔族の敵となり得る勇者の殲滅。ここで我に出会ったことを恨みながら死んでいけ」
アトムが自分の身体に魔法陣を組み込む。あーあれは
「……館を取り囲んだ魔物もお前の仕業か?」
おー流石はレックス。威圧感が倍増したアトムに対して一歩も引いてない様子。
「魔物を従えることなど我にはできない。だが、集めることくらいならどうとでもなる」
いやらしい笑みを浮かべながら、アトムは小さな小瓶を目の前で揺らした。それを見たレックスが舌打ちをする。
「なるほどな……魔物香を使ったのか」
「そういうことだ。だが勘違いしないことだな。お前らを殺すために魔物を呼び寄せたのではない」
アトムが両足に力を込めた。
「お前らは我の手で始末する。魔物どもはお前達をおびき出すためのただの餌よ!!」
言葉と同時に凄まじい速度で突っ込んできたアトムを、同じように魔法陣で
「先生達!!ちょっと暴れるから魔法障壁を張っておいてくれ!!」
「ア、アルベール!!」
「頼んだぜ!」
教師の静止も聞かずにレックスは大声をあげながら、更に自分の身体に魔法陣を組み込む。そして、力任せにアトムを森の奥へと投げ飛ばした。つーかあいつはどんだけ凶暴な笑みを浮かべてんだよ。どっちが悪役かわからねぇわ。
「レックス」
あのバカが、飛んでいったアトムを追おうとする前に、俺は腰に携えた木刀を投げて渡す。
レックスは少し驚きながらそれを受け取るとニヤリと笑みを浮かべ、そのままアトムに突撃していった。
「シュ、シューマン君……!!」
なんか身体の下から声が聞こえると思ったら、マリアさんに覆いかぶさってたこと忘れてたぜ。慌てて離れるとマリアさんの顔が真っ赤になっていた。やべっ、若干強く庇いすぎて酸欠状態かな?
と、そんなことよりあっちだな。
あのアトムとかいうやつ、
だが残念、目の前の男は人間であって人間ではない。
「うらぁぁぁ!!」
「っ!?ちぃっ!!」
レックスの右ストレートを両腕でガードするも、あまりの威力にアトムは木をなぎ倒しながら後ろに吹っ飛ばされる。あれは片腕いかれたな。その程度の強化であいつのパンチを正面から受け止めるとか、自殺行為だろ。
アトムはすぐさま起き上がると、追撃するレックスに片腕で応戦する。あの様子だと、あの魔族は回復魔法を使えないみたいだな。こりゃ早々に勝負が決まっちまうか?
「な、舐めるなよ!人間風情が!!」
おぉ!あれは
回復魔法すら使えなくてダメなやつだとは思ったけど、
急激に上がったアトムの速度に対応するべく、レックスも
「なっ……!?その若さで
いや、みんながみんな
「アルベール君……すごい……」
マリアさんがレックスの戦いに見惚れている。そうなんだよ、すごいんだよ俺の親友は。こうやってみんなを虜にしていくんだよ。あぁ、マリアさんもその一人だったか。
「肉弾戦じゃ不利だな、こりゃ」
レックスは相手の攻撃を木刀で捌きながら、冷静に判断する。確かに、片腕だというのにレックスは少しだけ押され気味だった。同じ
「よっ、と」
蹴りの反動を利用して距離を取ったレックスが魔法陣を組み上げる。左右に模様の違う
「
驚いているところすいませんねぇ……。そいつは15個以上魔法陣を作り出せるマジックマシーンです。9個なんて物の数じゃないです。
「いくぜ!"
レックスの魔法陣から水の奔流と竜巻が発生し、アトムに襲いかかる。てっきり魔法障壁でも張ると思っていたんだけど、まさかの素手防御。どんだけあいつは脳筋なんだ。
レックスの魔法が辺りの木を根こそぎなぎ倒す。森だったところが一瞬にして見通しのいい平地に様変わり。学校帰ったら人力芝刈り機としてあいつを売り出すか。
「くっ……そぉ……」
おいおいおい……生身でレックスの魔法を受けてまだ生きてんのかよ!あいつの魔法陣、一メートルくらいあったんだぞ?
でも、流石にもう限界みたいだな。立っているのがやっとって感じがする。
「終わりだな。せめて苦しまないようにいかせてやるよ」
レックスくーん、それ悪役の台詞だから!
レックスはゆっくりと手を前にかざすと、魔法陣を組成していく。先ほどよりも大きい魔法陣、しかも同じものを四つ重ねて。
それを見たアトムは流石に笑うしかないようだった。
「まさか
「まだ、火属性魔法のやつしかできないけどな」
「まったく……お前を殺せなかった事が本当に心残りでならない」
フッと笑みを浮かべてアトムはゆっくりと目を閉じる。ってなに負け認めちゃってんの?なに相手の力称えちゃってんの?敵まで気に入らせるとか、あいつのカリスマは天井知らずかよ。
なんにせよこれで死亡フラグは回避できたな。魔族が襲撃なんてびっくりイベントがあったんだ。これ以上は流石になにも起こらないだろう。
……ん?
自らフラグを立てながら、俺はゆっくりと空を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます