第2話 主人公は人の話を聞かないもの
座学の次は実技のお時間です。文武両道の精神って素晴らしいですね(ホジホジ)。
今日の実技の授業は剣術か。二人一組になって支給された木刀で打ち合う……二人一組?
嫌な予感を感じつつ周りをキョロキョロ……あっこれダメなやつだ。俺の周りに一人身の奴がいない。
一縷の望みをかけてレックスを見ても、大勢に囲まれててんやわんやのご様子。人気者は辛いのぉ。
いやいや、辛いのぉ、じゃねぇよ!辛いのは俺だっつーのに!!まじでこれはあかん!俺がぼっちだということがばれてしまう!
おっ!あそこにぼっち仲間発見!さりげなく近づき、隙を見て声をかける!
……あれ?俺の身体に磁石かなんかついてるのかな?俺が近づくと、相手がその反動で離れていってしまうんだが?
あー!もういい!俺は一人で素振りしてる!!これも呪いのせいだ!!
あのバカの近くにいると女子は当然の事、あいつのおこぼれに預かろうとしていると思われているせいで、男子からも嫌われてるんだよ!
えっ?お前のコミュ力に問題が?ちょっと何言っているかわかりませんね。
「あの……?」
ん?今、木刀をすごい速さで振ると、ビヨンビヨーンてしなって見える遊びをしているから、邪魔しないで欲しいんだけど……ってあれ?
「コレットさん?どうかしたの?」
「あ、相手がいないので私とやりませんか?」
やって来たのは小柄なマリア・コレットさん。つい最近、俺が玉砕したフローラさんと双璧をなす美少女。正統派な美人であるフローラさんに対して、青髪ボブカットの小動物チックなマリアさんは、庇護欲が掻き立てられる可愛い系女子。そしてロリ巨乳。
おそらく一人寂しく木刀を振っている俺を見かねて声をかけてくれたんだな。マリアさんまじ天使。
「俺も一人で困ってたんだ。お相手してもらってもいい?」
「は、はい!」
嬉しそうにはにかむマリアさん。あーまじで荒んだ心が癒されていくのを感じる。
女子相手に本気でやるわけにもいかない俺は、授業が終わるまでマリアさんとのチャンバラごっこを心行くまで楽しんだのだった。
*
はい、二年生になった初日の授業が無事全部終了。
ってありえねぇ!!初日からこんなハードなスケジュールを組むか普通!?朝九時から始まった授業が終わったのは夜の六時ですよ!?
まぁ、座学はほとんど睡眠学習に費やしたからそこまで疲れてないけどね。
夕食を食べ終え、部屋に戻ってきた俺は魔道具を起動させて明かりをともす。
マジックアカデミアでは一人一部屋あてがわれ、完全にプライバシーは保護される。しかもベッドに机に冷蔵魔道具、おまけに魔道具シャワーが全部屋に完備。村の暮らしよりも数段上だぞ、これ。ブルジョアめ。
とりあえずなんだかんだで汗かいたからシャワーを浴びて、今日の授業の復習を、って教科書とか机の中に置いてきたからできないわ。イヤー残念ダナー。シャワー最高ダナー。
ふぅ……さっぱりしたし、やることないから今日はもう寝ます!きゃっほう!!ベッドふかふかだぜ!おやすみなさーい。
…………ん?
なんかドンドンって叩く音が聞こえるんですが?しかもドアからじゃなくて窓から聞こえるんですが?猛烈に嫌な予感がしてきたんですが?
目を向けたら最後だな。なにがあろうと俺はシカトを決めこむぜ。諦めろ、俺はもう夢の世界に旅立とうとしているのだから。
…………音がしなくなった。
なにこれ怖いんですけど?えっホラー?いっそのこと叩かれ続けた方がシカトしやすいわ!……って、もしかしてあいつの仕業じゃない?
恐る恐る窓の方に目を向ける。その目に映ったのは満面の笑みを浮かべ、窓をたたき割ろうとしているバカの姿。月明かりに照らされたその金髪は、どこか幻想的な雰囲気を醸し出しており、それはまるで一枚の絵画のように………。
って何しとんじゃワレ!!
俺は慌てて起き上がると、勢いよく窓を開けた。
「おいバカ!!」
「おっ、なんだ起きてんじゃねーか。狸寝入りはよくないぞ、クロムウェル」
レックスは振り上げていた拳を下げると、何事もなかったかのように部屋へと入ってくる。そして部屋の明かりをつけると冷蔵魔道具から俺の秘蔵の蜂蜜酒を取り出し、椅子に座りながらグビグビ飲み始めた。
「勝手に飲むんじゃねぇよ!」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃねーし」
「減ってんだろうが!」
あっみなさん、この世界は十五歳で成人します。俺達は十七歳なんでお酒を飲んでも何ら問題ありません。未成年の飲酒、ダメ絶対。
俺が声を荒げても全然響いてねぇなこいつ。つーかこいつと言い争っても無駄に体力減らすだけだわ。俺はため息を吐きながらベッドに腰掛ける。
「また冒険者ギルドの依頼をこなして買えばいいだろうが」
「お前が飲まなきゃ、そんな面倒くさいことしなくてよかったんだよ。さっさと出てけ」
「おいおい、えらくご機嫌斜めだな。これでも飲んで機嫌直せって」
俺が思いっきり睨みつけると、レックスは肩を竦めながら瓶を投げ渡した。なんか俺がレックスに恵んでもらったみたいで納得いかない。つーか、これ俺のだから!この程度で機嫌が直るわけねぇだろ!……あっ、おいしい。
「クロムウェルもさっさと冒険者ランクを上げれば、報酬ガッポガッポだぞ?」
「……そんなん上げるくらいなら寮でダラダラしてるわ」
冒険者ギルド……説明いる?なんとなくわかると思うんだけど。
まぁ簡単に言うと仕事を斡旋してくれる場所。この世界には魔物がうじゃうじゃいて、結構困る人がいるから、その人達の依頼を聞いて、それをこなすと報酬がもらえるってわけ。
冒険者ランクってのは冒険者としての腕前だな。FからSランクまであって、Sに近づくほど歴戦の猛者だったり、化け物じみた強さを持っていたりってことになるな。一種のステータスみたいな感じ。
結構いい小遣い稼ぎになるから、マジックアカデミアの生徒は冒険者になっている奴が多い。基本的に成人したら冒険者登録ができるからな。
ちなみに目の前に座っているこいつはBランクの冒険者。この歳でBランクとか、既に生きる伝説となりかけてるよ。
って、俺が冒険者ギルドの説明している間に、隠していたスルメとかジャーキーとか出して酒盛りしようとしてるんだけど、こいつ。
「お前、何しに来たんだよ!?」
「ん?あぁ、ここに来た目的忘れてた!」
レックスがスルメをはみはみしながらポンと手を打つ。今すぐにそのスルメを吐き出せ。そして部屋から出ていけ。
ってか、なんか顔がイキイキし始めてない?この顔の時はやばい気がするんだが。いつものあれに付き合わされる気配がビンビンする。
「やべっ……体調悪くなってきたから俺は横になるわ」
「クロムウェル!鍛錬しに行くぞ!」
はい、完全無視。先手打ったのに完璧スルー。後の先をとるってこういうことなのかなぁ……ってやかましいわ。
「おい!勝手に決めんなよ!俺は行かねぇぞ!」
みんなはこの台詞を俺がどこで言っていると思う?部屋の中?残念、正解は空中でした。
このバカは爽やかイケメンスマイルで「鍛錬しに行くぞ!」って言った瞬間、俺の首根っこ掴んで窓から飛び出したんだなー。だから俺の魂の叫びは虚しく夜空に木霊しましたとさ。くそが。
もう一回シャワーの浴び直しだよっ!!
*
そんなこんなで三ヵ月が過ぎました。
えっ?話飛びすぎって?残念、このお話は学園ものではありません。
勇者の妹ときゃっきゃうふふしたり、クールで美人な先輩に力を認められて興味を持たれたり、同じ学校に通い始めた王女様を悪漢から救い出して好意を持たれたりなんて、そんな小説みたいな展開はあるわけねぇだろうが!
あっ、我らがレックス君は今言ったイベントを三ヵ月のうちに全て回収済みです。まさに敏腕主人公。
まぁ、全部カットってのも味気ないから、俺がこの三ヵ月にあった出来事をまとめよう。
レックスが告白を受ける→断る→レックスが愛の言葉を贈られる→断る→レックスに鍛錬に付き合わされる→断る→許されぬ→レックスが校舎裏に呼び出される→断る→レックスが(ry
うん、やっぱカットして正解だわ。
つーかレックスよ、お前硬派すぎる。少しはハーレムモノの主人公を見習え。しかも、一人もないがしろにせずに誠心誠意断る姿勢を見せることで、振った相手からますます好意を寄せられている模様。最強かよ。
ちなみに俺の三ヵ月はというと……。
ぼっちな学園生活→ぼっちな(ry
いやーシンプルっていいですねぇー。学校で話しかけてくるのはレックスと、ずっと一人でいる俺を見かねた
まぁいいわ。そんな代り映えのない学園生活なら全部すっ飛ばしてもいいような気もするが、にもかかわらず、なぜ三ヵ月後の話をするのか。それは二年生である俺達はある行事を行うためである。
それは林間学校。
字面だけなら楽しげな雰囲気を感じるが、ここは勇者を育成する学校。みんなで仲良く山登りして、夜は先生の目を盗んで恋バナしたりするドキドキお泊り会なんて代物ではもちろんない。
マジックアカデミアの所有する山に建てられた洋館に一週間缶詰にされ、魔物を相手にした実戦形式の訓練を積むという、ロマンスのかけらも感じさせないような、何とも血なまぐさい行事であった。
それでも男女が一つ屋根の下で一緒に過ごすんだ、フラグの一つくらい俺にも立つだろ。
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