イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで
松尾 からすけ
1.俺が魔王軍に下るまで
第1話 告白は慎重に
「ごめんなさい、他に好きな人がいるの。……だから、シューマン君の気持ちには応えられないわ」
あちゃー……やっぱ駄目だったか。
この呪われた人生を少しでも変えようと、クラスのマドンナであるフローラ・ブルゴーニュに勢いで告白してみたんだが、結果は玉砕。残念そうにまつ毛を落とす彼女の顔を見ているだけで、なんか罪悪感が半端ない。
「あー……いいんだ。気にしないで欲しい」
「本当にごめんなさい……」
申し訳なさそうに深々と頭を下げるフローラさん。その目には薄っすらと涙がたまっている。
……いや、あれだよ?可愛いとは思ってたよ?若葉のような緑の髪に大きな瞳、スラっと線の細いモデルのような体型。クラスでも一、二を争う美少女だよ。
でも、そんなに本気で謝られると、あっ、この子ちょっといいかも?ぐらいで告白した俺マジ屑じゃん。日の当たらない学園生活からおさらばしたいがために、軽い気持ちで好きって言ってみた俺マジゴミじゃん。本当にごめんなさい。
なんとも言えない微妙な空気が俺達を包んでいる。と、とりあえず会話を続けないと。
「……もしよければなんだけど、ブルゴーニュさんの好きな人って誰か聞いてもいい?」
うん、これで後腐れはないってもんだ。教えてもらえても、もらえなくても「そっか、うまくいくといいね」って爽やかに笑いかけて、この場を去れば全部丸く収まるはず。天才のそれとしか言いようの無い完璧な作戦。
いやーあれだ。告白自体は上手くいかなかったけど、大事なのはあいつとは関わりないことをやることだからな。うん。そして、俺は見事それを成し遂げた。なんとなく達成感を覚えるぞ。
勘のいいあいつから隠れて告白するのは骨が折れたが、それだけの価値はあった!見たか、この野郎!!呪われた人生からは今日でおさらばだ!!
フローラさんが少しだけ頬を赤く染めあげ、僅かに口角を上げながら、流し目で俺を見た。
「……あたしはレックス君のことが好きなの」
悲報、呪われた人生はまだ続くようです。
「あー……そうなんだ……う、うまくいくといいね!それじゃ!」
やべっ。若干声が上ずった。っていうか、颯爽と退場しようとしたのに、右手と右足が一緒に出ちまってる。どんだけ動揺してんだ俺。
俺はフローラさんを残し、校舎の裏から早足で立ち去ると、壁にもたれかかった。そして、誰もいないのを確認して、大きく深呼吸しながら空を仰ぐ。
今日もいい天気だなちくしょー。やってらんねぇぜ。やっつけで告白したっていうのによ。結局あいつにつながんのかよ。これじゃ恋敵に憎まれ口の一つも叩けやしないじゃねぇか。
なんたって、あいつは俺の親友だからな。
*
俺の名前はクロムウェル・シューマン。
中肉中背、見た目も普通で出自も普通な黒髪ボーイ。どこにでもいるようなモブキャラとは俺の事さ。うるせぇよ。
ハックルベルという小さな村で生まれ育った俺は、幼い頃に両親を亡くしてな。まぁ、だからといって、別に不幸な人生を歩んできたわけじゃないけど。
ハックルベルは村人全員家族みたいな村でさ。身寄りのない俺を村ぐるみで養ってくれたんだ。みんな自分達の家族を食わせていくだけで精一杯だっていうのにだ。本当、幸せもんだったよ、俺は。
え?両親がいないことが呪われた人生だって?そういうことじゃねぇんだよな。
確かに寂しい思いをしたこともあったが、村人みんなが家族なんだ。いつも誰かが俺の側にいてくれたのさ。せっかく生きているのに、親と子がほとんど顔をあわせない王都の貴族なんかに比べたら、よっぽど愛情を受けて育ったよ。だから、そのことを呪いだなんて思ったことは一度もない。
そんな俺は今、マジックアカデミアって呼ばれる学校に下宿している。
なんかこの世界には人間以外に魔族とかいう強大な力を持っている奴らがいるらしい、知らんけど。
んで、その魔族っていうのが人間の領土を狙って侵略しようとしているらしい、知らんけど。
それで、そいつらに対抗するために、ここは才ある若者を集めて勇者として育て上げる学校らしい、知らんけど。
俺は歴史の授業中、ほとんど寝ているらしい、これは知っている。
まぁ、そんな将来有望なエリートたちが集まるこんな学校になんで俺なんかがいるのかというと、授業中だというのに隣でいびきをかいているバカのせい。
こいつの名前はレックス・アルベール。
高身長、足長、イケメン。髪型は輝くような金色。性格は明朗快活で、誰とでもすぐに仲良くなる。おまけに剣の腕前と魔法の素質はこの学校でもピカイチときてる。化物かよ。
こいつもハックルベル出身で、物心つく前から一緒にいるんだな。
類まれなる才能が村を超えて、この王都にあるマジックアカデミアにまで聞こえたらしく、わざわざスカウトが俺達の村まできたんだよ。
もう、そん時の村はお祭り騒ぎだったね。英雄がこの村から生まれるぞー!って村長も大騒ぎ!当然二つ返事で入学するって言うと思ったら、この馬鹿はとんでもないこと言いだしやがった。
───こいつと一緒ならいいぜ?
もうね、村人ぽかーん、スカウトぽかーん、俺ぽかーんですよ。いや、俺はなんとなく嫌な予感はしていたんだけどな。
そりゃ四六時中一緒にいれば顔見ただけで何を言うのかわかりますよ。いやむしろ顔見なくてもわかりますよ。
スカウトもこんな金の卵を泣く泣く手放すわけにもいかず、渋い顔をしながら俺の入学を承諾。当然、俺の意思など無視。それで、こいつと一緒にマジックアカデミアで授業を受けてるってわけですわ。
そんなわけでこいつは俺の親友。そして俺の呪いの元凶。
いや、考えてもみてくださいよ?こんな完璧超人が側にいて、自分にスポットライトが当たると思います?
俺が懐中電灯で必死に自分の顔を照らし出しても、こいつは目の絡むような閃光でそんなもんかき消しちまう。誰も俺の事なんか見ていない、集まる視線は俺の隣にいる太陽。生まれた時から主人公体質であるこいつの近くにいれば、そうなることは必然。
俺はどう転んでも日陰者。こいつの物語を盛り上げるための
まぁ、でも……それも悪くないかな?
*
「今日は複合魔法陣について学習する……ん?」
机に突っ伏しているレックスが教師の目に留まる。おいおい、まさか……。
「レックス・アルベール!」
名前を呼ばれてもレックスは身動き一つしない。そりゃそうだ、こいつの趣味はお昼寝なのだ。一回寝たら腹が減るまでは目を覚まさない。
教師がつかつかと歩いていき、レックスの金髪を教科書で殴りつけた。
「ほへっ!?て、敵襲か!?」
寝ぼけながらに立ち上がったレックスを見てクラスに笑いが起こる。バカにしたようなものなんかじゃない、なんとなく暖かみのある笑い。はー、これだから人気者ってやつは……何をやっても許される。
「レックス・アルベール。二年に進級した最初の授業で居眠りとは……魔法陣について説明しろ」
え?まじ?この教師、新人か?レックスに問題を振るとか浅はかすぎんだろ。
レックスはポリポリと頭をかきながら教師の顔を眺める。そして、少しだけ肩を竦めながら立ち上がり、クラス全員に向き直った。
「魔法陣とは魔法の元になるもので、その描いた模様によって魔法の種類が変化する。描き上げた魔法陣に魔力を通すことによって、魔法の発動は可能。基本となる四属性の火、水、風、地については簡易的な模様になるが、上位の属性になればなるほど、その模様は複雑になる。あー、あと魔法陣の大きさによって同じ魔法でも威力を変えることができる」
「なっ……!?」
まるで教科書を読んでいるようにスラスラと答えるレックスをみて、教師は驚愕の表情を浮かべる。
「それから、今先生が説明しようとしていた複合魔法陣は、同一種類の魔法陣を重ね合わせたモノだろ?魔法陣が一つで
「ちょ、ちょっと待て……!」
今日の授業範囲であろう場所を説明し始めたレックスを慌てて止めようとするが、レックスは聞こえないふりで説明を続けた。クラスメートたちは俯き、必死に笑いをこらえている。
「複合魔法陣とは別に複数魔法陣ってのも説明しとくか。複数魔法陣は種類の違う魔法陣を同時に発動する技術だ。単体で発動させるのは
「……よくできた。座りたまえ」
あっけらかんと言い放ったレックスに、教師は顔を真っ赤にしながらも冷静に席に着くよう指示する。レックスは「はーい」と気のない返事をすると、チラリと俺に視線を向けニヤッと笑みを浮かべた。
そうなんです。こいつ頭もいいんです。人間とは思えないスペックなんです。
俺が憐れむような視線を向けると、教師は教壇に立った途端、さっきの屈辱を奇麗さっぱり忘れてしまったかのように授業を進める。プロか。
「アルベールの説明したとおりだ。一般人は魔法陣を三つ描くのが限度。しっかりと教育をうければ八、九の魔法陣を描くことが可能になる。ただし、たくさん魔法陣が描けるからといって、誰でも
この教師……レックスが説明したから端折りやがった。中々にしたたかだな。
「伝説の勇者アルトリウスは二十以上もの魔法陣を描くことができ、息をするように
伝説の勇者かぁ……たしか大昔に魔王を倒して世界を救った英雄だっけか?見たことないけど、なぜかレックスの姿と被るな。
まぁそんなどうでもいいことはおいといて、レックスのおかげでこの授業はもう眠っても何にも言われないだろ。次の実技の授業に備えて俺は体力の回復に勤しむぜ。レックス様様だな。
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