47 女満別空港から東部方面本部庁舎まで(1)
海老原正志の護送は空路か陸路か議論されたが、結局空路と決まった。新千歳空港から女満別空港までの空路を中央方面本部が所管し、女満別空港から北見市の庁舎までを、東部方面本部が所管することになった。
海老原を乗せた便は、午後七時三十分に女満別空港に到着する。
私は刑事課で防弾チョッキを装着し、愛用の護身用杖を背中に吊るし、狩原薫と共に庁舎を出た。
女満別空港に直行する国道39号線(北見国道)は、何度も走ったことのある幹線道路である。
二人は自前の大型バイクに乗り、女満別空港に向かった。
市街地を抜け、林の中の道路へ入っていく。片側二車線から一車線になる。荒野や紅葉樹林、針葉樹林の中を走る。擦れ違う車の数も極端に減っていく。
やがてバイクは田園地帯に入る。右折して女満別空港施設の前に出る。護送車両が三台、警備用武装車両が二台、白バイのバイクが二台停まっている。その周辺を武装した警察官たちが群がっている。
私と狩原は、右側の入り口から一階の到着ロビーに入った。時刻は七時五分だった。
竹下莉南が駆け寄ってきた。
「新千歳を、予定通り、六時四十分に離陸しました」
飛行時間は五十分、定刻どおりに到着するだろう。
「空港内の点検は、すべて終了しています」
トイレ、ベビールーム、コインロッカーなどの前には、警察官が警備している。
私は空路の選択に一抹の不安を持っていた。飛行機ごと爆破される心配である。あの怪人は何をしでかすか分からない。目的のためには、なんでも躊躇せず実行するからだ。
警察内部からの情報漏れの可能性について、私は前の襲撃事件の際、草薙参事官に密かに耳打ちしていた。今回の厳重な態勢は私の意見を取り入れた結果だった。慎重には慎重を期さなければならない。
私は三階の送迎デッキに上がった。
飛行機が無事到着するのを、自分の眼で確かめたかったからだ。
狩原も上がってきて、私の横に立った。
「中央方面本部からは、五人の警察官が海老原を護送してくるそうです」
「うん……」
「私服が三人、制服も三人。マヨが進言したとおり、海老原には制服を着せているそうです。このことは、私たちと、警察の上層部しか知りません」
「うん……」
制服の海老原が狙われたら、内通者は上層部にいる可能性も出てくる。
私は自分の眼で見たすべての警察官の顔を記憶している。不審者がいれば、すぐ判別できる自信がある。
定刻どおり、飛行機は西の空から現れた。
私はその機影を目を凝らして見つめる。ミサイルで狙われたらお終いである。
しかし、怪人が海老原護送の情報を得たとしても、本格的な武力攻撃態勢をとることは時間的に無理があるのではないか、と私は考えていた。
もし襲撃するとしたら、女満別空港から東部方面本部の庁舎までの、北見国道沿いのいずれかの場所である、と。
飛行機は着陸し、まず乗客がタラップを下りて来る。そして、すべての乗客が到着ロ―ビーに消えた。
二十分が経った。
制服の警察官二人がタラップを降りてくる。
次に私服の男たちが三人、塊となって下りて来る。すぐその後を制服の警察官一人が続く。
私と狩原は一階の到着ロビーに駈け下りた。
最終便の乗客の手続きが終了し、到着ロビーは封鎖されていた。
中央方面本部の五人の警察官と海老原が、手荷物受取所に現れた。彼らはまっすぐ右側の到着口2からロビーに出てくる。
すぐ東部方面の私服の警察官三名、私服三名と合流し、一団となった。中央方面本部の五人、東部方面本部の六人、それから海老原の総勢十二名は、出口を出、次々と三台の警察車両に乗っていく。
先頭車両の運転席と助手席には制服の警察官、後部座席に私服の警察官。二両目の車両には運転席に制服警察官、助手席には私服の警察官、後部座席には真ん中に私服の警察官を挟んで両脇に制服の警察官。後部車両の運転席と助手席には制服警察官、後部座席には私服の警察官二人。
白バイ二両が先導し、その後ろに警備用武装車両が続く。その後ろに三台の輸送車両、最後尾にもう一台警備用武装車両が続く。
私は狩原と共に、隊列から離れて追尾することにした。
竹下が私の横にバイクを横付けした。そして耳元に囁く。
「海老原は輸送先頭車両の助手席です」
先導の白バイがスタートした。
竹下は先に行き、最後尾の警備用武装車両の後ろに付けた。
「海老原は、輸送先頭車両の、助手席」
私は狩原にそう伝えると、ヘルメットのシールドを下ろした。
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