29 鉄の斧と金の首飾り


 次のページには、以下のように記載されていた。


 

  鉄製の斧には、楔文字が刻まれている。

  その文字を解読する。


  アルハモアは、ヒッタイトのシャーマン。

 

  アルハモアナは死者を蘇らえる術を使い、黄泉の戦士をこの世に招き、ヒッタイ

  ト王国を我物にしようと企てた。


  ヒッタイト王国、大王ラバルナ一世によって処刑された。

 

  斧は天の金属によってつくられた。

  この斧は、黄泉の国と隔絶させる力を持つ。


  金の首飾りは、天から降りし物。シャーマンの力をそぐ力を持つ。


  時代は紀元前十六世紀後半と想定される。


 

 アルハモアナが鉄の斧を持ち、金の首飾りをつけていたが、その謎の一端が明らかになった。

 私には特殊な能力が身についている。だが、金の首飾りをつけると、その能力が失われるのだ。

 鉄の斧は、アルハモアナと黄泉の国との途を閉ざしたが、同時に黄泉の国からの力も及ばなくなったに違いない。


 すると、鉄の斧は、今誰が持っているのであろうか。死神は私に母の体からアルハモアナを追い出せと言った。アルハモアナが母の体から出てしまえば、死神は黄泉の国に連れていくことが出来るのであろう。もし、アルハモアナが鉄の斧を持っていたら、死神は彼女を黄泉の国に連れていくことはできないであろう。


 もしかしたら、鉄の斧は小田切拓真が持っているのかもしれない。彼はミイラの棺に隠れていたのだから。


「どうしたの、そんな難しい顔をして」

 狩原がテーブルにコーヒーカップを置いた。

 私はページを開いたまま、私は隣の椅子の前にノートを置いた。狩原はコーヒーを飲みながら椅子に座ると、ノートを覗き込んだ。


「マヨ、これから、どうするの」

 狩原は私のほうにノートをずらしながら言った。

「まだ、分からない」


 私はページを捲った。

 次のページから三枚、ヒッタイトの記事が続いた。

 そして、次のページ。


  何故、アルハモアナは、北海道の山奥で埋められていたのか。


 そう、大きく殴り書きされていた。

 父の苛立ちが感じられる。

 そして、その下に、その鍵は、おそらくアイアンロードにある、と続いていた。


 それ以降のページは白紙だった。


 私は小田切に電話した。

「もしもし。小田切です」

「わたし、戸田です。すぐ、洋館に来ていただけますか」

「今? 今は仕事中ですので……。午後に伺います」

「お願いします。ところで、小田切さん、アルハモアナの斧、持っているのは、あなたですね」

「持っていません。前にそう言ったでしょう」

「あなたは、棺に隠れていたんでしょう。棺の中には、鉄の斧があったはずです」


 返事はなかった。そして通信は途絶えた。


 スマートフォンの着信音が鳴った。田崎多鶴子からだった。

「マヨちゃん、元気にしている?」田崎のいつもの元気な声がした。

「黒田雄一、真知夫妻の聴取と、血液検査センターの調査、終わったよ。今日、これから帰るから、迎えに来て。羽田を五時四十分に発ち、女満別空港には、七時三十分に着くから。あ、話はそちらに帰ってからね」

 通信が途絶えた。相変わらずせっかちだ。

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