14 金の首飾りと東部方面本部の捜査会議



 私は金の首飾りを付けて、かつての父の助手小田切拓真の前に立った。首飾りを付けたのは小学生時代以来二度目である。

 精神的にも、肉体的にも何の変化も起きなかった。彼は長い間瞬きもせず、私を見つめた。


「アルハモアナの肖像は、復顔したのですか」

 茫然と私を見つめている小田切に尋ねる。彼は私から視線を逸らして呟くように言った。

「スーパーインポーズ法です。レントゲンで頭部を撮影し、立体的に復元したのです」

「目の大きさ、その特徴も、復元できたのですか」

「私は詳しいことは分かりません。ただ、ミイラには皮膚も筋肉も付いていましたから、解剖学的に可能だったのではないでしょうか」


 私は首飾りを外した。ケースに入れ、ショルダーバックに収める。

「マヨさん、その首飾りはとても貴重な物で、値段がつけられないほど高価なものです。学術的にも、一級品です。多くの学者がその首飾りと鉄の斧を捜しています」

 彼は目を見開いて私に忠告する。私があまりにもぞんざいに扱っているので、心配になったのだろう。この首飾りを私が持っていることを知っているのは、二人の部下、それに小田切だけだ。


「小田切さん、これであの家は、私に譲っていただけますね」

 彼は無言で頷くと、私に錆びついた鍵を渡した。

「それで、あなたに頼みたいことがあるのですが」私は鍵をショルダーバックに入れながら言った。

「あの家の、改修をしたいのですが。その手続きをお願いできないかと思いまして」

「あの家に住まわれるつもりですか」

「はい」


 彼は天を仰ぐと私に視線を戻し笑みを浮かべた。

「ずいぶん、勇気があるのですね」

「あなたにも、住んでいただきたのですが……」

「それは、お断りいたします」


「お化けでも、出ますか」

 田崎が私の肩越しに尋ねた。

「出るかもしれません。私は、御免です」

「わたし、お化けとか、幽霊が大好きです」

 狩原が高い音質で歌うように言った。


 彼は私たち三人を交互に見つめて苦笑した。

「家の改修の件はお引き受けしましょう。後日、あの家で業者を交えて検討するということで、よろしいですか」

「はい」

「それでは、電話番号の交換をしましょう」

 私はスマホをポケットから出した。



 昼食後、私たち三人は道警東部方面本部の庁舎に入った。受付を通さずまっすぐ二階の刑事課に向かう。二階の会議室の隣が刑事課だったはずだ。二階に上がり刑事課内を見回すと、班長の今井耕平と視線が合った。彼は笑顔を浮かべると、頭をペコリと下げる。


 私たちはまっすぐ今井に向かって歩いた。

 彼は白髪交じりの初老の男と立ち話をしている。

「課長、こちらが警察庁特殊事件捜査課の戸田警視です」

 彼はそう私をその男に紹介した。

「初めまして、捜査課長の安田隆です」と笑みを浮かべて自己紹介する。

 安田捜査課長と会うのは初めてだった。


「戸田警視が来られたときには、私は乳児拉致事件に関する会議がありまして、札幌の道警本部に出向いておりました。この度は、私どもの案件に支援していただけるということで、感謝しております」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 そう言って、私は笑顔を作った。


「これから、四階の大会議室で捜査会議を行います。捜査員に警視を紹介しますので、会議に出席してください」

「分かりました」

「今井さん、駐車場に軽ワゴン車一台とバイク二台を無断で停めてきました。これがナンバーです」田崎が紙片を渡した。「よろしくお願いいたします」

「分かりました。手続きをしておきます」


 今井に案内されて、エレベータに乗り、四階で下りた。廊下を少し歩きドアの前で立ち止まる。一呼吸ついて、今井がドアを開け、安田課長が会議室に一歩足を踏み入れる。

「起立」室内から大声が聞こえた。一斉に立ち上がる音が響く。

 私も安田に続いて会議室に入る。なんと百名近い屈強の若者たちが起立していた。一様に眼光鋭い眼差しが私に降り注ぐ。


「礼」

 再び掛け声が上がる。捜査員たちは一斉に頭を下げる。

 ウム、なんともやりづらい。


「皆に紹介する。こちらは、今回の殺人事件、連続乳児拉致事件に関し、われらの捜査に協力いただく、警察庁特殊犯罪捜査課の戸田警視と捜査員の方々です。よろしく指示を仰ぐように」

「はい」

 大声が響く。

「警察庁の戸田です。よろしく、頼みます」

 私はわざと目を細めて言った。

「はい」

 また大声が響く。

「休め」

 号令がかかると、一斉に着席する。

 ……うん、やっぱり、やりづらい。

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