4 現場検証 参考人供述調書



 太陽が眩しい。

 私はサングラスをかけた。

 パイプ椅子に腰かけ、現場検証作業を眺めている。

 

 鑑識員の写真撮影が終わった。

 鑑識員たちが道路上にチョークで印をつけ、メジャーで距離を測っている。

 昨夜の雨で、道路上の事故の痕跡は殆ど消えている。私は鑑識の知識が乏しいのではっきりしたことは分からないが、正確な検証は難しいのだろう。

 

 私は事故の経緯を丹念に説明した。何度か同じ事柄を訊かれたが、それはいつものことだ。私は不思議な能力を持っている。一度見たもの、一度聞いたものは、私の脳の中に、映像として記憶されているのだ。正確に復元できる。


 だから子供の頃から勉強がよくできた。小中高と、学年でトップを取ってきた。大学は東大法学部1類をトップ入学、そしてトップで卒業。その後国家公務員試験一種、そう今の国家総合職、にトップで合格。

 今まで完全無欠の成績を修めてきた。

 私は一言で言って異常なのだ。そうあらゆる面において。


 田崎多鶴子が、スポーツドリンクを紙コップに入れ、私の所に持ってきた。

「警視、検証が終わりましたら、さっさと、東京に戻りましょう。こんな所にいて、ろくなことはありません」

 彼女が耳元で囁く。


 私には気になっていることがある。

 救いだした二人の乳児のことだ。


「田崎さん、東京に戻って、課長にことの次第を報告してください」

「わたしがいなくて大丈夫ですか」

 私は笑みを浮かべる。

「狩原さんがいますから」

 田崎は狩原を捜した。狩原は林縁で鑑識員と話をしている。

 激しく機械音の唸り声が上がると、林の中から事故車が吊り上がってきた。その車がクレーンに吊り下げられて宙を舞い、路上に下りてくる。


「警視は、いつお帰りになります」

「明日中には」

「分かりました。経過報告、お願いしますよ」

 田崎とは親子ほど歳の差がある。いつも私のことを自分の娘のように扱う。


 鑑識員が私の前に立ち、頭を下げた。

「よろしいですか」

 私は彼に視線を合わせ、頷いた。

「参考人供述調書です。お読みいただき、間違いがなければ、サインをお願いします」

 彼は私にバインダーに挟まった書類を手渡した。

 わたしは目を通した。私が供述したことが、丹念に記載されている。即座にサインした。


 草薙参事官は田崎と話をしていたが、私と目が合うと歩いてきた。

「戸田警視、田沢警部補は、警察車両で空港にお送りします」

「ありがとうございます」

「お疲れのところ、申し訳りませんが、引き続き二人の乳児のことについて、もう一度お話をお訊きしたいのですが」

「分かりました」


 草薙は後ろを振り返り、手を上げた。

 三十代の私服の男が歩いてくる。草薙の隣に立った。一見してスポーツマンタイプ。短髪で、精悍な顔つきをしている。身長は私より少し高い。百七十五センチほどか。

「捜査課の今井警部補です。今回の事件は今井班が担当します」

 草薙が紹介すると、今井が頭を下げた。

「今井耕平です。よろしくお願いします」

「戸田です。よろしく」

 彼はなれなれしく右手を差し出してきた。握手を求めてきたのだ。私は今まで握手を求められたことがない。思わず苦笑した。

 彼は右手を差し出したまま、私から視線を外さない。

 私は苦笑したまま、握手に応じた。

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