第3話 Painful past 〜奴隷〜

病院に入院してから俺は暇を覚えた。看病と見られる人は相変わらず物陰に隠れてる。だんだんと回復するけど、あの子だけは回復なんてしなかった。


「ねぇ、名前は?」


彼がは物陰に隠れていた人に声をかける。声をかけられた人は吃驚して、さらに物陰に隠れてしまった。彼が何かした?と動揺してしまっているように見える。


「私の姓名は日本蜥蜴とかげって言うの。親しい人から蜥蜴ちゃんって呼ばれてるの」

「俺は水谷。水谷みずたに潤也じゅんやって言う」


物陰に隠れた人は顔を見て話すと変な風になるが、物陰に隠れていると何故か喋れるようになる。彼も自己紹介をした。


「物陰に隠れないでよく身体を見せて。蜥蜴、あっ、いや蜥蜴ちゃん」


水谷は蜥蜴ちゃんの生体を知りたくて、隠せない様子であるが、蜥蜴ちゃんは一向にも出てこない。何分も何十分も何時間も待っても、出てこない。すると。


「私は人間恐怖症なの。顔を見られるのが嫌で……。でも、人の顔をよく見たいの」

「だったら姿を見せて」


水谷は興味を示してとても落ち着かない様子で、話している。それを聞いた蜥蜴ちゃんは怖いながらも物陰から出てきた。

水谷が見た光景はベアワンピースで尻尾が生えていて、脚や腕が半分蜥蜴で、目は青色の美少女の姿を目にした。更には、眼帯や包帯が巻かれていたが、その姿に見惚れてしまっている様子だ。


「もういいでしょ?

満足したよね?」

「まだだ。こっちに来て」


手招きをする水谷である。だけど、蜥蜴ちゃんは両手を重ね、近づこうとはしなかった。手や身体が震えている。震えからして、怯えていると見られる。

水谷は動けるまで回復していた。それがわかっていた彼は、ベッドから起き上がってこんなことを言った。


「蜥蜴ちゃんが来ないなら俺から行く」

「えっ?」


蜥蜴ちゃんは片足を下げて、後退りのようにして行くが、水谷はお構い無しに立ってゆっくりと彼女に近づくが、近づく度、下がっていく。


「私をまた甚振るの?

また傷付けるの?

思い出させないで……」

「そんなわけないだろ?

勘違いしないでくれ」


水谷は足を止めることなく、近づいていく。蜥蜴ちゃんも後退りをしている様子。人間という概念に怯えきっているようにも見える。そして、彼はスキを見て蜥蜴ちゃんに抱きついた。抱きつかれた彼女は唖然としている。


「そんなことをしない。大丈夫だから落ち着いて」

(何?

この感じ……。とても暖かくて懐かしい感じがする)


蜥蜴ちゃんの表情は今までなかったかのような落ち着きを取り戻した。彼は離さず抱きしめっぱなし。


「ねぇ、さっき甚振ったりとか傷付けるとか言ってたけど何かあったのか?

嫌な事があったのか?

それに何処かで会ったような気が……」

「……えっ!?」


水谷は過去のことが気になるようで、話を聞くようだ。だけど、蜥蜴ちゃんは無言のまま何も言わない。彼は一度彼女から離れて、ベッドで寝ている女の子に向かって歩く。そして、ベッドに座り込んで女の子の頭を撫でる。


「うぅ……」

「傷は悪化するのか。進行が早い」


ベッドの子は呼吸が荒く、汗を流している。傷が一向に治らず、包帯が血の色に染まるのを見て、我慢ができない彼がいた。

ただただ、悪化する様子を見ることしかできない様子。


「ごめん……俺のため…………」

「……どうしたの?」


水谷の目には涙が浮かんでいたが、蜥蜴ちゃんが異変を感じた。彼女が読み取った感情は、悔しさと怒り、悲しみなどの感情を読み取った。が、彼の隣にスッと現れて座り込む。


「すまん、なんでもない……」

「なんでもないなんてないわ」


蜥蜴ちゃんは悟って、涙を拭き取ったが彼はとても嫌な顔をした。だけど、拭き取ることは止めずに拭き続ける。


「実は私、奴隷にされてたの。約六百年前に」

「……っ!?」


蜥蜴ちゃんは眼帯と包帯を外した。水谷の表情がとても驚いている。彼が目にしたのは目には大きな傷と腕には奴隷にされていた焼印や切り傷などあり、体や脚にも同じような傷があった。彼女は動揺も何も見せなかった。とても重そうに開いて、話した。そして、辛そうな表情を見せながら過去に起きたことを話し始めた。耳を済ましてよく聞こうとする彼がいる。


「私が奴隷になったのは生まれてから一ヶ月経った頃……」


彼女の過去の話が始まる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


雨の中、裸足で森の中を一人の幼い少女が走る。後ろを振り向いたら大人が追いかけてきて、逃げるために走る。息を切らしながら止まることなく走り続けて、距離を離そうと頑張っている。


「待ちやがれ!!

この小娘が!!」

「い、嫌……奴隷なんて……なりたくない……」


大人たちは剣や斧などを持って少女を追いかける。これでもかというぐらいに、少女は奴隷にされないために走り続けるが、もう体力の限界まで来ている様子が見られる。


「逃げると痛い目に遭うぜ?

大人しく止まりな」

「絶対に…………奴隷なんて……ならないッ!!」


少女は体力がもう何のにも関わらず、捕まらないために必死で逃げる。が、走るスピードが遅くなっていき、もうバテてしまった。


「やっと大人しくなったか」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「今だ!!

捕らえろ!!」


疲れ切ってしまってもう走ることができない様子で、それを狙った大人たちは捕らえるために彼女に近づいてくる。捕えられる距離まで来て、捕まりそうになる。


「それ!!

えっ!?」


捕らえようとした時、大人たちは何が起きたかわかっていない。彼女自身、逃げ場があったため上手くすり抜けることができた。そして、また走り始める。

疲れ切ってるのに、止まることなく振り切ろうとする。


「クソ!!

お前ら、何をしている!!」

「すみません」

「いいから追いかけろ!!」

「はい!!」


逃げる少女をまた捕らえようと追いかける大人たちは、ある方法を思いついた。話しながら走ってお互いに頷いて実行するようだ。


「ぅわぁ!!」


雨水で濡れた地面に足を奪われてしまい、身体全体で転んだ。それを狙ってたかのように、大人たちは少女を囲み始めた。


「いったぁ……」


少女が起き上がって、自分の身体を見て少しだけ傷付いた。少女の服は泥塗れで膝や腕には擦り傷があった。だけど囲まれていたことをすっかり忘れて、逃げようと試みた。


(今すり抜ければまだ……)

「おっと、俺たちから逃げらんねぇぜぇ!!」

「大人しくするんだな嬢ちゃん」


だけど、行動がバレてしまってあっさりと捕まってしまった。だがしかし、少女は諦めなかった。奴隷にされたくないという思いが強くて、必死に踠くが、大人たちは容赦はしなかった。


「少しは大人しくしとかないとこの腕なんてへし折ることできるぜ」

「あ゙あ゙!!」


大人は少女の腕をハンマーロックした。少女は痛みで叫んで、骨は音をたてている。とても痛そうにしていて、さらに踠く。


「こいつ、まだ抵抗しやがるか」

「やっちまいな」

「了解。少しは寝んねしときな」

「うっ……」


必死で暴れる少女が、ウザくてもう一人の大人は拳で腹を殴った。殴られた少女は気絶をして、担がれて連れ去られる。


「う…………ん……」


しばらく経ってから少女は、意識を取り戻したが起きる力はない様子。


「うっ…………ここは……何処……。何、これ……」


少女は辺りを見回して、異変に気づいた。牢獄の中にある手錠がかけてあって、腕を動かしてもビクともしなかった。鎖が音を立てるだけだった。更にどこかで声がした。


「よう、起きたか」

「これを外して出してくださいッ!!」

「まだ来たばかりじゃないか」


声がした方を見ると、ガタイのいい男がいた。少女は牢獄に入れられているのにも関わらず恐れるものはないと思っているかのように言った。


「早速だが、働いてもらおう。こい!!」

「こんなことをさせるなら私はしませんッ!!」


男は牢獄を開けて、少女を何処かへ行かせようとした。しかし、少女はきっぱりと断って、抵抗を試みたが、風を切る音が鳴り響きいた。次の瞬間、平手打ちのような音が鳴った。


「そうかい!!」

「ああ!!

痛い……」


腕に紐のようなものが当たって、少女は痛みに叫んで脱力する。男が持っていたものを見ると、なんと鞭を持っていた。彼女はその痛みを知って、怯え始める。


「次、言うこと聞かなかったらもう一発かましてやるよッ!!」

「嫌ぁぁ!!」


男はまた、鞭で同じ腕を打つ。高く鳴り響く音が響き渡る。痛みで泣き叫ぶ少女は、腕を押さえて蹲る。


「痛いよなぁ。嫌だったら言うことを聞けばやらねぇ。わかったならついてこい」

「痛い…………誰か助けてください……」


男は鎖で繋がれた手錠を外し、働き場所へと向かう。少女も腕を押さえて、泣きながらついていく。しばらく歩いているとやがて広い場所に出てきた。そこで目にしたものは、たくさんの労働者と指揮者と見られる人達が大勢いた。


「お前はこの土の山を運べ。いいな?

変な真似はするなよ。俺はもう用はないからさ」

「わかりました」


少女は嫌々山盛りになった土を転がし始めるが、重くてなかなかビクともしない。片腕がヒリヒリと痛むのを我慢して必死で動かそうとするが、やはり動かない。


「お、重い……動いて…………」


苦戦してる中、押そうとしてもビクともしなかったのが軽くなって動き始めた。少女は不思議に思い、辺りを見回すと後ろで誰かが押していた。よく見ると少年だとわかって、違和感を感じている様子。


「重そうにしてたから放っておけなくて」

「あ、ありがとう…………ございます……」


少年が、親切に押してくれて嬉しそうに言う少女であった。


「名前は?」

「プレスティオドーン・ジャポニクス……」

「俺はレックス」


運びながら少年と少女は話し始める。まずはお互いに名前を名乗る。


「プレスティオドーン・ジャポニクスか。長いから、レスティ二じゃない。レスティ二ーでもない。レティ……。レティ!!

レティで呼んでもいい?」

「レティ……。気に入りました!!

大事にします。ありがとうございます!!」


レックスという名乗る少年は少女の名前が長いから短くして考えた。考えてくれた名前を喜びながら気に入り、名前を大切にするようだ。


「俺の故郷はイギリスなんだ。レティの故郷は何処?」

「わかりません。ごめんなさい……」

「謝ることはないよ」

「……はい……」


レティは生まれ故郷がわからないために謝った。でも、レックスの方はわからなくても全然気にしていないみたい。


「ところで、レティ」

「はい」

「こんなの放棄しない?

俺は何年もこんなことをしてるから」

「な、何年も……。」

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氷のような美少女との出逢い 前編 ルティーヤ @DarMat

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