第3話 「遠慮」という言葉の本来の意味

 日本では、相手に気をつかってなにかをしないときに「遠慮する」という言葉をつかいます。


 もともと「遠慮」は、「遠くを慮(おもんばか)る(遠いところまで考慮して見通しておく)」という意味で、孔子がとなえた言葉といわれています。


『論語』衛霊公に、「人、遠き慮りなければ、必ず近き憂いあり」とあります。


「人は遠くまで考慮して見通しておかなければ、かならず近くで足もとをすくわれる」


 という意味です。目さきのことばかりでなく、遠くの未来のこともちゃんと考えておかないとろくなことにはならないという戒めでしょう。


ちなみに『春秋』の注釈書の一つである『左伝(春秋左氏伝)』では、「君子は遠慮あり、小人はちかきに従う」とあります。


「りっぱな人は遠くのことも考え、つまらない人間は目さきのことしか考えない」


という意味です。


 孔子は政治アドバイザー的な人物でもあるので、諸侯たちに向けていった言葉とも考えられます。


二千年以上前の言葉ですが、目さきのことを重視してしまう人間の営みはあまり変わらないようです。

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