加賀 良光

01




 加賀良光に召集された荒巻三兄妹がヘリで八戒村に到着した時には、全てが終わっていた。


 鳳来の身体とムカデの身体が両断されていただけではなく、大僧正鳳来の身体は形を残る事も許さないとばかりに切り刻まれていた。


「……さて、どう始末をつけ、どう上に報告すればいいんですかね」


 荒巻三兄妹を出迎えた加賀良光は頭を抱えていた。


 大僧正鳳来が食い散らかしたせいで、調査団の面々は全員死亡。


 それだけならばまだ誤魔化しようがあったのだが、調査団だけでは物足りなかったようで、鳳来は八戒村まで襲った。


 八戒村では、二十一名の死者と四十名以上の重軽傷者が出てしまっていた。


 負傷者の多くは、鳳来の姿を見ており、箝口令はさすがに引けそうもなかった。


 隠蔽工作ができない状況になってしまっている以上、どうすれば玉虫色の解決方法になるかと考えを巡らせているのであった。


「月読の嬢ちゃんはもう二つほど山を越えたようですぜ」


 魔眼で二仁木月読の行方を探っていた鬼灯歩雷があれこれと考え事をしていた加賀良光の耳元でそう報告した。


「……約定とは何であるのか? 今回、二体も斬っている。約定など嘘偽りではないか?」


 鳳来の死骸をじっと見つめていた矢頭勇利がぼそりと呟いた。


「考えるだけ無駄無駄。約定なんてものはかわした人にはわかんないだから知りようがないよ」


 身体のラインがしっかりと浮き上がってしまう黒いレザースーツでその身を包んだ荒巻ミサがかったるそうに矢頭勇利の言葉を聞き漏らさずに突っ込みを入れた。


 荒巻三兄妹は特殊部隊レベルの装備をしており、軍が使用している重火器をどこからともなく調達しているだけではなく、戦闘ヘリまで所有していた。


 圧倒的な火力、しかも、対物の怪用の特殊仕様の弾丸などを多用し、塵芥レベルまで粉々にすることでも有名であった。


「二仁木が不死人である以上、約定は本物だ。それを知ろうとするのは詮ない事だ」


 巨漢の荒巻門戸があくびをかみ殺しながら、つまらなそうに言う。


「あいつが約定のために神だろうがなんだろうが斬っちまっているのは事実だしよぉ。そんなのどうでもいいんじゃねえ?」


 名前の通り猿面と言われることが多い荒巻飛猿が小指で右耳をほじりながら言う。


「そんな事よりも、俺達には後始末があるだろ? この鳳来とかいう奴のよ」


 荒巻飛猿はほじくり出した耳くそを珍しいお宝でも見るような目で愛でた後、ふっと息で吹き飛ばした。


 彼らは二仁木月読を詮索はしない。


 神との約定は当事者しか知り得ないのだから……。

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破戒巫女に至る瑕疵 佐久間零式改 @sakunyazero

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