縁 亜希穂(よすが あきほ)
01
帰りのバスの中で、私はまどろみと現実のちょうど中間辺りを行き来していて、うつらうつらとしていた。
学校から自宅近くのバス停までは四十分近くあるので、睡魔に身を委ねていても何ら問題なく、この日もそうしていた。
木製の硬い椅子とは違い、バスの座席は多少は硬さはあるもののふわふわとしていて座っていると、どうしても睡魔に襲われてしまうので仕方のない事なのだ。
上半身が前に前へとよく倒れそうになるのだけど、いつもは何事もなかったのに、この日に限って不意にがくんと身体が大きく揺れた。
身体が前に倒れすぎちゃったのかな、と思って元に戻ろうかと身体を起こそうとした時、一気に現実へと引き戻されるような悲鳴が四方八方から上がった。
夢かな?
そう思うも、何か様相が違う事を肌で感じ取り、私はパッと目を大きく見開いた。
その瞬間、視界が廻った。
正面を向いているはずなのに、私の視界に入っているバスの窓からは空が見える。
えっと……
反対側の窓を見ると、そちら側からはコンクリートの地面が見えていた。
夢なのかな?
もう一度そんな事をとりとめも無く考えた時、大きな衝撃がバスに加わったのか、ガンという振動と共に、私の身体がバスの座席から投げ出された。
満員とは言えないまでも、同級生やら上級生やら下級生やらでそれなりの人たちが乗っていたのだけれども、その人たちも同じように投げ出されて、もみくちゃにされていた。
そして、また視界が廻った。
バスの中から転がり落ちるように窓ガラスを破って、外へと投げ出された人たちの姿が見えた。
これは現実なのかな?
それとも、夢の続きなのかな?
そう思っていた私だけれども、気づいた時には窓ガラスに体当たりをして、そのまま外へと投げ出されていた。
地面に打ち付けられて、声を上げることができないくらいの苦痛が全身を駆け巡って、ようやく私は現実の中にいるのだと思い知った。
「あああああ……」
どこからか流れてきていた水を含んだまま声をだしているような奇妙な声が聞こえてきた。
身体を動かす事ができず、何の声だろうと思って、目だけを動かして探っていった。
すると、バスの運転手さんが私の視界を空へと飛んでいくようによぎっていった。
口からどす黒い液体を吐き出しながら。
やっぱり夢?
身体が重いし、夢だよね?
きっと夢だよね?
絶対に夢だよね?
だって、もう意識がもうろうとしているから、きっとまた夢の中へと入り込むんだ。
そして、目を覚ませば、私は……
まぶたも重くなってきた。
もう目を開けている事も辛くて、目を閉じていたい。
「約定に従い、私はあなたを滅するのみ」
視界がぼやけていく。
その中で、今朝、バス停のところで倒れていた巫女さんが私の目の前に立ったように見えた。
きっと夢なんだろうな。
巫女さんなんて、日本刀を手にしているし。
こんな光景、現実であり得るワケないし……。
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