二仁木 月読

01



 二仁木月読が宮司を務めていた神社はもうこの世には存在していない。


 その神社はもうダムの底に沈み、所轄の庁からはその神社に関する記述が抹消され、あらゆるものからその存在が抹消されてしまっている。


 意図してその神社の存在を公式の書類などから抹消していったのである。


 昔の地図を紐解けば、その神社の名を見つける事はできるかもしれない。


 もう存在そのものがなかった事にされてしまっている以上、昔あの場所に神社があったのだという認識程度しかされないであろう。


 だが、二仁木月読は知っている。


 ダムの底に沈んだ神社があるという事を。


 その神社に祭っていた祭神の一柱が刀へとその姿を変え、月読と行動を共にしている事を。


 とある祭神の一柱が連れ去られ、どこかに幽閉されているという事を。


 ダムのそこに沈んだ神社で、今も祭神の一柱が連れ去れた一柱の帰りを待ち続けている事を。


 ダム推進派の策謀でその神社があった気世里村が鉄砲水に襲われ、二仁木月読だけではなく、村民の大半が亡くなった事も。


 そんな三柱と約定をかわしたがために、不死人のように生かされている事を。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る