03
二仁木月読には全てが見えていると言っても過言ではなかった。
玉響のように白い光る玉をまとうようにして歩く鎧をまとい日本刀を佩いた青年の姿を。
ほうらい塚を守るようにして、警戒するようにして、見回りをするようにして、それが指名だと感じて、そこに居続けている姿を。
「……」
二仁木月読がほうらい塚の敷地内に入ってきたのを、鎧を着た青年はめざとく見つけ、これまでそうしてきたように刀に手をかけて近づいていった。
そして、鎧の青年は今までそうしてきたように、二仁木月読の首を断ち切るべく、刀を地面と平行に構えた。
二仁木月読はそんな青年の目をじっと見つめて、自分に向けて刀を振るおうとしているのさえ見つめていた。
鎧の青年が動いた。
首を狙って刀が横へと凪がれるのを月読は平然とした面持ちのまま目で追い、そして、寸前のところで刃を人差し指で受け止める。
すると、鎧を着た青年は何かを悟ったような気色へと変化し、すっと刀を引いた。
「銀。刀を」
月読は鎧を着た青年を見やりながら、呟くようにその者の名を呼ぶ。
いつからそこにいたのか。
二仁木月読の傍には、白い髪と白い耳と白い尻尾の狐と人とが融合したかのような少年が一本の日本刀を抱きながら控えていた。
「私は約定を全うする。理にのっとり、この塚を守り続けていた侍の英霊を斬るための刀を私は行使する。私の言葉に偽りはなく、私の言葉に真しかなく、私の心にも偽りはない。全ては彼の者との契りに従い、私の行為はその契りによるものである」
二仁木月読は銀と呼んだ少年を一顧だにしないまま、高らかに口にして、少年の手にしている刀の柄に掴んだ。
「私は抜き放つ。我が盟主を」
鞘から刀身が晒された時、これでもかとばかりに輝くも、即座に収束していった。
刀が全て引き抜かれると、刀が冷気をまとっていたかのように周囲の気温がすっと下がったかのようであった。
「死という形で、私の楔を解き放つというのかね?」
青年が刀を引き、月読に救いを求めるような視線を送った。
「約定に従い、私はあなたを滅するのみ」
月読は躊躇いもせずに、鎧を着た青年を真っ向から切り伏せた。
迷いのない、太刀筋であった。
「私は解放されるのだな。鳳来というあの化け物を監視する定めから、鳳来の食事となる生物を退ける役目からも……」
身体を両断されるも、青年は笑みを浮かべて、魂がようやく解放される喜びを甘受していた。
「あなたの鎖はもう断ち切られたのです。あのおぞましいムカデの物の怪を封印する役目を終えるのです」
「……私に代わり、鳳来を頼む……。美麗なる、そなたよ……」
楔から解き放たれて、安堵の色を見せる青年を月読は冷ややかに見つめていた。
「鳳来の討伐は私の約定に反します。おそらくは他の者が滅することでしょう」
「そうであったか。ならば、倒すであろう者に託すとしよう、私の役目を……」
御霊であった青年の身体が斬られたことによって、段々とその姿が薄れていき、そこに『いた』痕跡を残さずにすっと消滅していった。
「私の盟主からの言付けです。黄泉路でまた逢おう、と」
月読は手にしていた刀を銀と呼ばれた狐人が持つ鞘にすっと収めた。
「銀、行きましょう。鳳来と相まみえるのは私の約定に反します」
その言葉を待っていたとばかりに、銀は日本刀をぎゅっと抱きしめて、最初からそこになどいなかったかのようにすうっと姿を消した。
月読はきびすを返して、元来た道を辿るように歩き始めたのであった。
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