佐久田 茂(さくた しげる)

01



「数年前、ここで肝試しをした奴らがいたって話なんだが、どうやってあそこまで行ったんだろうなぁ」


 と、大型の草刈り機を自在に操り大粒の汗をかきながら苦笑を浮かべて佐久田茂が言った。


「若者って話だから何も考えずに強行軍したんじゃないか?」


 八嶋茂が佐久田を見ずに草刈り機を動かし続けながら投げやりに言う。


「……だろうなぁ。若いっていいよなぁ」


「俺も若さが欲し……」


 鬱蒼と茂る草を草刈り機で順調に刈り取りながら、道を作っている佐久田茂と八嶋貢が大声でそんなやり取りをして笑いあった。


 ほうらい塚は、鬱蒼と生い茂る木々の中に埋もれてしまっていて、古墳である事が忘れ去られているようにひっそりと存在していた。


 古墳である名残りは、不自然な盛り上がりが木々の中にあるといった程度であった。


 近づくことさえ忌まれていたためか、整備などはなされておらず人が通れる道なども当然ない。


 獣道さえ存在せず、開拓するように草木を絶ちながらして進むしかなかった。


 その役目を負ったのが、元自衛官からなどからなる佐久田茂、八嶋貢など六名の先行部隊であった。


 サバイバル技術にたけているのを買われ雇われており、対怪異用の銃火器などを携帯させている。


 調査団が入れる道を切り開く事が主な役割で、怪異と遭遇した場合、撤退するように命じられている。


「ほうらい様とかいう化け物が出るみたいだが、どんな……」


 佐久田茂が草を刈る作業にうんざりしたのか、草刈り機を止めて八嶋茂を見やった瞬間、表情が固まった。


 口から発しようとした言葉が喉から出ずに、吐息が言葉の代わりに外へと出た。


「ちぃっ!!」


 八嶋茂の頭が消失していた。


 鋭利な刃物で一刀されたかのように切り口が鮮やかで、力任せに押しつぶされたり、無理に押し切ったりした様子はなく、木の年輪のように首の断面がはっきりと露出していた。


 不思議なことに血しぶきは上がっていなかった。


 奇怪な事を目の当たりにしながらも、佐久田茂は冷静さを失わなかった。


 草刈り機から手を放すなり、後ろに跳びのいて、支給されていた退魔用の特殊弾丸がセットされているハンドガンを抜き放った。


 ハンドガンを構え、銃口を横へとすうっと流して撃つべき相手がいるかどうかを見定めようとするも、首なしの八嶋が立ったままあるだけで他に動いているものなど何もない。


 動いている者はいないかと、微かな音さえ聞き逃さないとばかりに神経を研ぎ澄ました。


 しかし、気配がないどころか、音さえしない。


「……」


 緊張感のせいか、喉の奥がぎりぎりときしみ始める。


 その軋みを抑えようと唾を飲み込もうとするも、唾が出てこなかった。


「っ!!」


 刹那、直感として背後に何者が立ったと悟った。


「……あぁ……」


 風が薙いだ。


 瞬間、視界がぐらりと揺らいで角度が狂っていく。


 支えがなくなった頭がぐらぐらと揺れているのを佐久田茂は感じ取っていた。


 脳の活動がまだ完全に停止していなかったからなのか、佐久田茂がとある事をぼんやりとしつつ意識の中で思い出していた。


 ギロチンで首を断たれた人間の瞼が動いて、まだ意識があるとアピールしていたという、とある話を。



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