第70話「いや、俺は聖剣が見たかっただけで、作った奴の方は割とどうでも良い」


 騒動のあと、スケットンたちはドラゴンゾンビのじっさまのいる場所へと移動した。

 理由はじっさまに呼ばれたからである。

 村での騒ぎに気が付いたじっさまが、たまたまそこにいたティエリに「呼んできて欲しい」と頼まれたのだそうだ。


「牢屋が二度も全壊するとは思いませんでしたわ」


 ティエリは呆れ顔でそう言った。

 一度目はスケットンたちによって吹き飛ばされ、二度目はエルフによって粉砕されたのだ。続けざまに破壊された牢屋を見れば、何か恨みでもあるのかと問いたくもなるだろう。

 まぁ、スケットンたちの場合は、状況から見て仕方がなかった事ではあるが。


「作りかけのものが壊されるのって、結構、悲しいですね……」


 ちらりと振り返りながら、心なしかしょんぼりした様子でナナシが呟く。

 ああいう作業をするのは初めてだと、誰よりも楽しんでいたナナシだ。それなりにショックだったようだ。

 まぁ、初めてではなくとも、せっかく作っていた物が見るも無残な状態になれば、気落ちはするものだ。ついでに言えば、作りなおしだという、別の意味での落ち込みもそこに付加されて、スケットンたちは何とも言えない気分になっていた。


「いや……その件については、本当に悪かった」


 そんな四人の様子を見て、褐色肌のエルフは素直に謝った。エルフは相変わらず目力が強かったが、表情には申し訳なさが滲んでいる。


「まったく、おぬしときたら。そういう所は変わっておらんのう」


 エルフに向かって、ドラゴンゾンビのじっさまも呆れたように、ため息混じりにそう言った。


「だ、だが、長い事待ったんだぞ? こう、ついカッとなるのも仕方がない事だろう?」

「その、ついカッとなるところが、おぬしの悪いところじゃなぁ……」


 じっさまの言葉にエルフは「うっ」と言葉に詰まった。どうやら知り合いのようだ。

 じっさまたちの話がひと段落するのを待って、スケットンは声を掛ける。


「で、そいつは誰なんだよ?」

「何じゃ、名乗りもしておらんかったのか? そやつの名前はダムデュラクじゃ」

「ダムデュラク? エルフの剣匠と同じ名前してんだな」

「同じ名前というか、本人じゃよ。この聖剣【繋ぎ止める者アヴァロン】を作った、エルフの剣匠がそこにおるダムデュラクじゃ」


 じっさまの言葉に、全員の視線がダムデュラクに集まった。驚いた、というよりは、意外だという感情の方が強い眼差しだ。


「スケットンさん、ダムデュラクさんですよ。お会い出来て良かったですね」


 ナナシが頷きながらそう言うと、スケットンは右手を軽く横に振る。


「いや、俺は聖剣が見たかっただけで、作った奴の方は割とどうでも良い」

「……本人を目の前にして随分な言い様だな」


 スケットンの物言いに、ダムデュラクは半眼になった。


「私に会いたかったのならば、遠慮せず来たら良かっただろう。追い返すが」

「追い返す前提じゃねぇかよ。大体、もうすでに一度行って追い返されたわ。覚えてねーのかよ」


 自分も覚えていなかったという事を棚に上げ、スケットンは言う。

 するとダムデュラクは腕を組み、首を傾げた。


「スケルトンが訪ねてきた覚えはないが……まぁスケルトンであれば、丁寧に頼まれれば見せたが? 私は寛容なのでな」

「スケルトンじゃねぇよ死ぬ前だよ」

「死ぬ前? ……まさか貴様、人間か! ハッ! 人間のクソ野郎なんぞに見せる武器はない!」

「どこが寛容だ、てめぇ」


 スケットンが人間だと聞いたとたんに、ダムデュラクは目を吊り上げる。

 人間嫌いとは聞いていたが、こうも明からさまな表情に浮かべる所を見ると本当にそうなのだな、とスケットンは思った。

 そんなダムデュラクに、ルーベンスとシェヘラザードは小声で、


「口の悪さがスケットンと変わらないんだが」

「種族に口の悪さは関係ないもの」


 なんて、こそこそと話していた。

 声が聞こえたようでジロリ、とダムデュラクが二人を睨む。エルフは地獄耳なのだ。

 睨まれたルーベンスとシェヘラザードは、サッと顔を逸らしていた。


「……で、その剣匠サマとやらが、何しに来たんだよ」


 それを横目に見ながら、スケットンは本題を切りだした。

 ナナシがスケットンの言葉を引き継いで、


「確か、クソ魔法使いがどうのと仰っていましたよね」


 などと言った。

 元々はダムデュラクが言った言葉ではあるが、ナナシの口から「クソ魔法使い」なんて言葉が出るのはなかなか新鮮で、スケットンは目を丸くする。ストレートに汚い言葉が出てきた事が意外だったのだ。

 ナナシの顔を見ればケロリとしている辺り、スケットンの影響をしっかりと受けているせいかもしれない。


「……ある魔法使いを探していてな。そいつの魔力に反応するように、アラート・ジェムを設置していたんだ」


 アラート・ジェムとは、 手のひらにのるくらいの大きさで、チカチカと星ような光の宿った半透明の宝石である。魔力を込めて設置すると、指定した対象が効果範囲内に入った事を術者に知らせる、という効果を持っている。

 アンデッドたちの屋敷にあったインテリジェンス・ジェムと同様に、防犯目的などで使われる事が多い。こちらはインテリジェンス・ジェムと比べればそこそこ見かける代物ではある。スケットンも見たことがあった。


「アラート・ジェムっつーと、防犯のアレか。そんなもんどこに設置していたんだよ」

「牢屋の真下だ」

「何故」

「あそこは罪人をぶち込む場所だろう?」


 ダムデュラクは真顔でそう言った。確かにそうではあるが、その魔法使いをぶち込められるかは別の問題である。


「牢屋の真下なんぞに、どうやって仕込んだんだ」

「床石を外して埋めただけだ。コツと道具さえあれば簡単だぞ」


 言うだけなら簡単だが実行するのは難しいし、それに許可は取っていたのだろうか。

 そんな事を思ってスケットンがじっさまやティエリの方へ顔を向ければ、二人は揃って微妙な表情をしていた。恐らく許可も何も無い、、のだろう。

 エルフって奴はこれだからいけすかねェ。そんな事を思いながらスケットンは腕を組む。


「……で? てめぇが探してんのは、どんな魔法使いなんだよ」

「性根の腐ったクソ魔法使いだ。……いや、どちらかと言うと死霊術師ネクロマンサーの面が濃いか。あいつ、勇者アーティを執拗に狙っていたからな」

「えっアーティを?」


 ダムデュラクが出した名前に、シェヘラザードが反応した。

 勇者と頭につけるくらいなのだから、同業者ゆうしゃなのだろうが、スケットンには聞き覚えが無い。

 いくら他人への興味が無いスケットンでも、自分の前の代の勇者の名前は知っている。まぁ、旅先で良く引き合いに出されたからではあるが。

 理由はさておき、スケットンが知っている勇者の名前に入っていない所から見ると、恐らくスケットンより後の勇者なのだろう。

 誰なのかと問うようにスケットンがナナシを見ると、意図が伝わったようで、


「勇者アーティはスケットンさんより後の勇者ですね。魔王を倒した方です」


 と、人差し指を立てて説明してくれた。

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