第2章 屍竜の守る村

第35話「回復薬系は寿命の前借り的な」


 遥か頭上に広がっているのは、雲一つない青空。

 爽やかな青に染まる空の下を、スケットン達は並んで歩いている。馬車が通れるようにと手入れされた道は、山道と比べるとずいぶんと歩きやすい。往来する馬車もなく、人の姿も見当たらない。

 そんな中、スケットン達は竜の守る村オルパスを目指していた。

 彼らの当初の目的は村ではなく、その付近にある世界樹だ。けれど、ここ数日のシェヘラザードとの戦いや、屋敷での戦いで、体力も道具もだいぶ消耗してしまったため、いったん村で準備を整えようという話になったのだ。


「相手の戦力はどんなもんでしょうねぇ。ルーベンスさんレベルがうようよですか?」

「へぇ、そいつは楽できそうだ」

「どういう意味だ」


 ルーベンスがスケットンをギロリと睨む。相変わらず仲の悪い二人である。


「まぁまぁ。でも、休憩自体はありがたいですね。魔力回復薬マジックポーションのがぶ飲みって、魔力回復するだけで疲れも何も取れませんし」

「ああ、確かアレか。回復薬ポーション系は寿命の前借り的な」

「的な。体力回復薬ライフポーションを飲みすぎて、命を落とした人がいるという記録を読んだ事がありますよ」

「そ、それは物騒だな……」


 ルーベンスがひくっと喉を鳴らす。回復薬ポーションは、旅をする者にとっては常備薬と言って良いほど、持ち歩かれているものだ。魔法を使うナナシに魔力回復薬マジックポーションが必要な様に、前衛で戦う者達にとって失った体力を直ぐに回復してくれる体力回復薬ライフポーションは、なくてはならないものだった。それを命の前借りなどと言われたのだ。さすがにぞっとはするだろう。


 回復薬ポーションが何であるのか。それは名前の通り、失った体力や魔力を回復してくれる即効性の水薬である。液体のため持ち運びは少々かさ張るが、体力や魔力を直ちに回復したい時に大変お役立ちの代物である。味に関して言えば、それほど美味しいものではないが、昔に比べると格段に良くなっていると歳の大きいの騎士や冒険者達は語っている。

 味は置いておいても、とても便利なものだ。だが便利と言う言葉は、ある種のリスクも孕んでいる。


 回復薬ポーションとは、先ほども言ったが、即効性の水薬だ。そしてそれを利用するという事は、本来であれば自然に回復するべきところを、薬の力で無理矢理回復しているに過ぎない。

 つまり、薬で誤魔化しているだけで、根本的な疲労は残るのだ。多用すれば、いくら体力や魔力が回復したとしても、体の方がついてはいかない。

 その結果で最悪なのが死である。


「人の手が入りゃあそんなもんだろ」

「人間というものは昔から何一つ変わりませんからね」

「お前はまた見てきたような事を」


 スケットンが半眼になって言うと、ナナシは目を瞬いたあと「そうですね」と苦笑した。


「つーか、俺、そういうの必要ねぇし。ついでに言うと休憩も必要ねぇし? 休憩がしたいならお前らだけで行けよ。何なら俺様だけ世界樹に向かうからよ」

「はぁ。まぁそれでも構いませんけれど、レベルドレイな私と離れたら、スケットンさん最弱ですよ」

「ばっかお前、離れねぇような範囲で村に入って休憩しろよ」

「村から世界樹までどれだけの距離だと」


 そこまで行ってナナシは顎に手を当てた。


「そう言えば、世界樹とはどれくらい離れているんでしょうね?」

「知らん。そんなもん、歩けば見えてくるだろ。世界樹はでけぇんだからよ」

「それもそうですね」

「いや、確かにそうだが……君達、色々アバウトすぎないか?」


 二人のやりとりにルーベンスは頭を抱えた。


「そうですか?」

「何とかなりゃあ別にいいだろ」

「それは、そうだが……」


 何とも言えない眼差しを向けるルーベンスに、スケットンは「ケッ」と悪態を吐き、ナナシはこてりと首を傾げた。何をしても「何とかなる」という確信をしているスケットンやナナシを見ていると、きっちりと調べた上で決めて進めたいルーベンスは不安になるのだろう。


「せめて私が共にいる間は報告、連絡、相談の一連の流れを持つ事を提案する」

「ほうほう、巷で話題のほうれんそーですか」

「巷で話題なの?」

「さあ」


 自分で言っておいて、ナナシがしれっとそう答える。スケットンは「こいつ、こういう所あるよな」と半眼になった。


「では練習をしよう。まずは報告!」


 だがしかし、ルーベンスはのりのりに話を進める。肉体言語派のノリである。


「歩くのに飽きた」

「それは報告ではない! というかだから最初に馬車で行こうと誘ったではないか! 次、連絡!」

「お腹が空きました」

「それも連絡ではない! 村まで我慢したまえ! 次、相談!」

「どうしたらルーベンスが黙るか」

「黙らない!」


 結局、報連相は要相談という事になった。話し合いにならなかったとも言う。

 そんな調子でオルパスへと歩いていると、ふと、スケットンが足を止めた。


「どうしました?」

「いや、あそこに何か倒れてんぞ」


 そう言ってスケットンは道の先を指差した。

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