第36話「血に飢えたバケモノ野郎が」
そこに倒れていたのは少年だった。歳は十二、三ほどだろうか。遠目で見てもはっきりと分かるくらい肌の白さが印象的だった。
死んでいるのか、スケットン達はまずそう思った。人の往来がないこんな場所で倒れているのだ、魔物かアンデッドか、その辺りに襲われたのだと思ったからだ。
だが一つ奇妙な事があった。少年の体から、湯気のような白い煙が立ち上っているのだ。
それが何か。そう考える前に、スケットン達の鼻は、人間の体が焼ける独特の異臭を察知した。
あの白い煙が何であるかは分からない。だが何であれ、少年がどういう状態なのかスケットン達は理解した。
少年の身体が焼けているのだ。
スケットンの空洞の目が周囲を警戒するように細まり、ナナシとルーベンスもピリッとした緊張感を纏った。
「助けてきます」
ナナシは鞄に手を当てると、直ぐにそう言った。
当たり前のように助けに行こうとするナナシを、スケットンは茶化す。
「生きてるかすら分かんねーのに、まぁお人好しだこと」
「貴様、本当に……」
ルーベンスは彼のそんな物言いに不快そうに顔をしかめ、睨む。だがスケットンはどこ吹く風である。
だがナナシは特に気にした風でもなく、
「お人好しは勇者の専売特許ですからね!」
と言って鞄から傷薬を取り出した。そしてそれを手に少年の元へと駆け出そうとした時、
「バケモノ、どこだ!」
と、怒声が辺りに響いた。若い男のものだ。
スケットンは魔剣【竜殺し】の柄に手を掛け、声の聞こえた方に顔を向ける。
道の脇の、茂みの向こう。ほどなくして、足音が大きくなってきたかと思えば、茂みから頭からすっぽりフードを被ったマントの男が飛び出してきた。
「ここにいやがったか!」
ルーベンスと同じくらいの体格だろうか。フードを深くかぶっているため、男の顔は見えなかった。だが殺気のようなものはしっかりと伝わってくる。
男は茂みから飛び出すと、少年に狙いを定めて向かって行く。昂ぶった感情が、ドスドスと靴音を重くする。
そんな彼の手には、
「血に飢えたバケモノ野郎が」
男は吐き捨てるようにそう言うと剣を振り上げる。その真下には倒れた少年。
スケットンは男が何をしようとしているのか理解すると、地面を蹴った。半ば無意識に近い。魔剣【竜殺し】を抜き、地を駆ける。彼の動くのとほぼ同時に、ナナシもまた魔法の詠唱を開始した。
「遅ぇんだよ!」
スケットンは男と少年の間に割り込んで、間一髪、男の剣を受け止める。
そこで初めて男はスケットン達の存在に気が付いた。
「な……!?」
男が目を剥き、何かを言おうと口を開く――――より早く、ナナシが魔法を完成する。力強く燃え盛る炎の矢、ナナシお得意の“
「“
淡々と紡がれた
男は咄嗟に剣を引き、
「ぐ……!」
それと同時に、スケットンが堪える様な声で腕を押さえた。手の隙間から、倒れた少年と同じような独特の白い煙が立ち上る。どうやら男の剣に滴っていた水が、スケットンにもかかったようだ。
ナナシは目を見開くとスケットンに駆け寄った。
「スケットンさん、大丈夫ですか!?」
「この程度、屁でもねぇよ。つーか、まともに痛覚があった事にびっくりだわ」
「物が物ですからね。恐らく、あれは聖水です。服の上から浸透したんでしょう」
「聖水だと?」
スケットンとナナシの行動の早さに、呆気にとられていたルーベンスがハッとして男を見た。
「ルーベンス!? どうして生きていやがる!」
その声と顔を見た男は、ぎょっとした様子で一歩後ずさった。
「どういう意味だ?」
「てめぇ、死んでるはずじゃ……くそ!」
男は舌打ちすると、跳び出してきた茂みの向こうへと逃げて行く。
「待ちやがれ!」
「待つのはスケットンさんですよ」
ナナシは追いかけようとするスケットンの肩を掴んで止めると「失礼します」と彼の服の袖をめくり上げた。
出て来たのは頑丈そうな骨の腕だ。だがその骨の一部が、まるで皮膚のように爛れていた。
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