第24話「開かないなら壊せば良いだろ」


 屋敷に辿り着いたスケットン達は、まずは玄関に備え付けられたドアベルを鳴らしてみる事にした。

 紐を引くとガラン、ガランとドアベルが鳴る。だが内側からの応答はなかった。

 もしかしたら雨音にかき消されて聞こえないだけかもしれないので、三人は辛抱強く待ったが、それでも扉は開く気配がない。

 待てど暮らせど反応がないので、


「すみません、どなたかいらっしゃいますかー?」


 などと、再度ドアベルを鳴らし、ナナシが呼びかけてみたが、これまた何の返事もなかった。

 三人は顔を見合わせた後、揃って屋敷を見上げる。


「誰も住んでいねーのか?」

「この様子だけ見ると無人っぽいですが……でも、屋敷の奥から微弱ですが魔力の反応を感じるんですよね」

「魔力ですか? 魔法使いの住居なのでしょうか?」

「魔法使いねぇ……まぁ生きた人間だったらいいがよ」


 言いながらスケットンは試しに扉を押してみた。

 すると、ギィ、と音を立てて、驚くほどにするっと扉は開く。


「施錠もなし、と」


 扉を完全に開くと、その風圧でふわり、とエントランスホールに積もった埃が舞い上がった。

 積もった埃の具合からも、長い時間、人の手が入っていないように見えた。

 スケットンはざっと辺りを見回した後、躊躇いもなく中へと足を踏み入れる。


「まー玄関でどうこうしていてもしょうがねぇよな。ちょいと借りようぜ」

「ま、待ちたまえ! 中に何がいるか分からないんだぞ! もっと慎重に……」

「何かいて敵だったらぶった斬ればいいだろ」

「君は何故そうも短慮なんだ!」

「あーうるせぇうるせぇ」


 制止しようと伸ばしたルーベンスの手を面倒そうに振り払って、スケットンはずんずん進む。

 ナナシもそれに続くのを見て、ルーベンスも諦めたように屋敷の中へと入った。


「見てくれもそうだが、中から見るとまたすげぇな。結構な金持ちの家じゃね」

「ですねぇ……うわ、すごい。あそこに飾ってある像、目がインテリジェンス・ジェムですよ。初めて見ました」


 ナナシが興奮したように手を鳴らす。

 インテリジェンス・ジェムとは、魔力を込める事で指定範囲の様子を一定時間記録する事が出来る宝石だ。

 主に防犯目的や、物証が必要な取り調べ、果ては諜報活動で使われるものだが、かなり希少で高価なため、滅多に市場では見かける事はない。見かけたとしても大体直ぐに国で買い取られてしまう代物だ。


「……これは、不味い場所なのではないか?」


 ルーベンスがひくっと頬をひきつらせて言う。

 彼の感覚は正しい。無人の屋敷で、エントランスホールにあんなに堂々と飾られたインテリジェンス・ジャムが盗まれもせずに残っている事自体が不自然なのだ。

 この屋敷には何かある。

 その結論は三人とも同じであったが、そこに抱いた感想はそれぞれ全く別の物だった。


「屋敷の外でも屋根の下ならば十分雨は凌げるだろう。とにかくすぐに出た方が良い」

「別に構いやしねぇだろ。それより、エントランスホールだけでこれだけの調度品があるとなると、他の部屋どうなってるのか気になるな。ちょいと見てくるか」

「あ、じゃあその間にインテリジェンス・ジェムに魔力を通していて良いですか? ぜひとも一度使ってみたく」


 一人深刻そうなルーベンスを他所に、スケットンとナナシは能天気にかつ楽しげに言う。

 実際に「何が出て来ても大丈夫」という自信からのものだろうが、ルーベンスには理解不能だった。

 ルーベンスは頭を抱え、


「この状況でどうして意見がバラバラになるんだ……!」


 と唸る。この場合、ルーベンスの感覚の方が正しい。単純にスケットン達がずれているだけだ。

 ナナシの肩に乗ったブチスラだけは、そんなルーベンスに向かって「分かるよ、その気持ち」などと言っているように揺れた。


同志ブチスラ……!」


 何と奇跡的にそれがルーベンスに伝わったようだ。

 ルーベンスは目を輝かせブチスラをはっしと抱きしめた。


「うわあ……」


 それを見たスケットンが引き気味に呟いた直後、 


「くしゅん」

 

 と、ナナシがくしゃみをした。

 その瞬間、エントランスホールにある燭台に、フッと火が灯る。

 そしてバタンと音を立てて、三人の背後の扉が閉まった。


「……何だ!?」


 ルーベンスがぎょっとして振り返る。

 スケットンは仮面下の空洞の目を丸くしてナナシを見た。


「お前、くしゃみで魔法使えんのか」

「自分でもびっくりの特技ですね。――――ではなく、私ではないですよ」

「ふーん。おい、誰かいるのかー?」


 スケットンが屋敷の奥に向かって声を掛けるが、先ほどと同様に何の返答もない。

 屋敷に起こった諸々の様子からして、誰か、もしくは何かがいるのは確かだろうが。


「まぁ見やすくなって良いんじゃね」

「馬鹿をいうな! 明らかに奇妙だろうが、とにかく外へ……」


 ルーベンスが怒鳴って扉の方へ引き返す。

 そうして入って来た時のように扉を押すが、


「開かない……!?」


 扉は幾ら力を入れて押しても、打ちつけられたかのように開かない。

 スケットンも一緒に押してみたが、二人掛かりでも扉はびくともしなかった。


「くそ、だからさっさと外に出ようと言ったのに……!」

「そう狼狽えんなよ、ガキかてめぇは。開かないなら壊せば良いだろ」

「あー確かに。壊せば開いたも同然ですよねぇ」

「揃って見も蓋もないな!」


 スケットンの提案にナナシが頷くと、ルーベンスが天を仰いで嘆いた。

 その間にスケットンは【竜殺し】で扉を斬りつける。

 だが扉はバチン、と剣を弾き、無傷だ。

 ふむ、と剣を鞘に戻して呟くスケットンに続いて、ナナシも扉を魔法で攻撃してみるが、同様に魔法をバチンと弾き、これまた無傷。

 どうやら普通の扉ではないらしい。


「この反応は魔力盾マジックシールドですね」

「となると、やはりこの屋敷に誰かがいて、魔法を使ったという事でしょうか?」

「人が住んでる痕跡がねぇのに、一体誰が使うってんだよ?」

「それは……」


 その時、話し合う三人の後方、建物の奥からふと、呻く声が聞こえた。

 三人が同時に振り向くと、その先にあるドアが開き、腐敗臭と同時に何か、、が蠢いているのが見える。

 それを見ながらナナシが、

 

「――――アンデッドとか?」


 と、言葉を続けた。


「ほんっと、おあつらえ向きだなーこの屋敷」


 スケットンはそう言うと、再び【竜殺し】の柄に手を伸ばした。

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