第25話「お客様をお迎えするなんて久しぶりで嬉しくてぇ。つい張り切っちゃったんですよぉ」


 屋敷のエントランスホールでアンデッド達と遭遇したスケットン達。

 本日何度目かになるアンデッドとの戦闘だ。

 またかよ、などとぼやいて身構えたスケットンだった。


――――が。


 何故か彼らはとても歓迎されていた。


「あー、外は寒かったでしょー。どうぞどうぞ、ゆっくりくつろいでいって下さいねぇー」


 メイド服を来たスケルトンが、スケットン達に向かって気さくにそう言う。

 フランデレンと名乗った彼女に連れられて向かった先は、エントランスホールの様子とは違い、隅から隅まで掃除の行き届いたピカピカの広間だった。


「何ここ、すげぇ掃除が行き届いてんだけど。入り口と全然違うじゃん」

「そうですかぁ? そいつは嬉しいですねぇーへへへ」


 スケットンが素直に褒めると、フランデレンは嬉しそうに笑う。

 他にも執事服を着たゾンビやゴースト達もフランデレンと同じく、スケットン達ににこにこと笑顔を向けていた。


 スケットン達は、フランデレン達アンデッドと遭遇した当初は戦う気満々であった。

 だが、やたらとフレンドリーで親切な彼女達の様子に警戒を解いて今に至る。

 スケットンやナナシは割と直ぐに馴染んだが、教会騎士であるルーベンスはまだ居心地が悪そうだ。

 もちろんスケットンも、屋敷のアンデッド達があまりに親切過ぎる、、、、、ので、完全に信用はしていないのだが。

 そんな中、フランデレンはにこにこ笑って話を続けた。


「玄関の方は埃っぽくしておかないと、無人に見えないですからねぇ。まぁあたしらアンデッドですけどぉー」

「無人に見えないと何かあるんですか?」


 ナナシの質問にフランデレンは頬に手を当て、困ったように答える。


「ここを荒そうとしたり、住もうとする奴らがいるんですよぉー。いちいち相手するの面倒ですからぁ、廃墟っぽくカモフラージュした方が便利なんですぅ。ほら、これだけ大きい屋敷、掃除するの大変でしょおー? 汚れているって見せれば、物だけ奪って出て行こうって考え直してくれるんですぅー」

「それは考え直すと言っても良いのか……?」

「まぁ、主の持ち物を盗まれるのを黙ってみているのは使用人として駄目ですからぁー……痛い目を見て貰いますが」


 間延びした話し方のフランデレンだが、最後だけはやけにハッキリした声で言った。

 痛い目、というのがどんな事なのか、スケットンは敢えて聞くのは止めた。大体想像がつくし、聞きたい話でもないからだ。


「私達にはそういう心配ないのか? “魔力盾マジックシールド”を発動させた割には、普通に受け入れてくれているような……」

「ああ、あれは盗人さん対策で自動に発動するものなんですよぉ。……生かして逃がさない的な」

「生かして逃がさない」


 スケットンが半眼になる。

 どうやらフランデレンは物騒な事を言う時はハッキリとした口調になるようだ。

 その変わり様が怖かったのか、ブチスラはナナシのフードの中に隠れてしまっている。

 そんな事など気にせず、フランデレンは「うふふ」と笑った。


「そう思って準備していたらぁ、お客様がアレを持っているのが分かりましてぇ」

「アレとは?」

「主のお知り合いっていう印ですよぉ」

「そんなもん持ってたっけ?」


 三人がそれぞれ服を探ると、ふとナナシが懐から何かを取り出した。

 シェヘラザードから貰った護符だ。


「あ、もしかしてこれじゃないですか?」

「はいぃ、それですそれですぅ」


 フランデレンはナナシの手の護符を見て、にこーと笑った後、こくこく頷いた。

 意外と効果があるんだな、とスケットンは呟く。 

 だが、どうやらここの主は魔王の四天王であるシェヘラザードの知り合いのようだ。それはそれで厄介そうな話ではあるが。


「ああ、勇者様達のお知り合いでしたか」

「はい、友達ですよ!」

「友達じゃねぇよ」

「どっちなんだ」


 スケットンは肯定するナナシを即座に否定すると、ルーベンスが混乱したようにこめかみを押さえた。


「まぁそれはそれとして……だからと言って、こんなに歓迎して貰うのは逆に悪い気がするんだが……」

「いえいえ、お客様をお迎えするなんて久しぶりで嬉しくてぇ。つい張り切っちゃったんですよぉ。簡単なものになってしまいますが、お食事も用意しますので食べていって下さいねぇ」


 フランデレンがそう言うと、それに応えるようにナナシの腹の虫が鳴った。

 スケットンが無言でナナシを見下ろすと、ナナシが「関節が鳴った音です」と真顔で誤魔化す。

 その返答がツボにはまったようで、ルーベンスが「ぶはっ」と噴き出した。ついでに屋敷のアンデッド達も笑いを堪えて震えているのが見えた。


「皆様って面白い方々ですねぇ」

「一緒にされたくねぇ……って、ああそうだ。聞きたかったんだが、お前らの主って奴はここにいるのか?」

「主はもうずいぶん帰って来ていないですねぇ。そのせいか魔力が減って結界魔法が弱まって、屋敷が見えるようになってしまいましてぇ。本当は結界魔法さえ作動していれば、エントランスホールのようなカモフラージュは必要なかったんですけどぉ」

「へえ」


 フランデレンが困ったように言った。

 その話を聞いて、笑いが収まったらしいルーベンスがスケットンの肩を叩いた。


「……おい」

「何だよ」

「大丈夫なのか、こんな事をしていて。アンデッド達の主だぞ、どう考えても死霊術師ネクロマンサーじゃないか。歓迎するフリをして、私達をアンデッドにしようとしているのかもしれないぞ」

「俺は困らねぇけど」


 スケットンはすげなく言う。何たってすでにアンデッドなのだ。そういった類の恐怖に対しては今は何とも思わない。

 しかしルーベンスはその事を知らないし、生身の人間である以上、命の危険に対して不安に思うのは当然だ。

 スケットンの言葉にルーベンスが眉を顰める。


「困らないって……困らない事はないだろう?」

「だから俺は、、困らねぇって言ってんだ。だいたい、お前らだって似たような事やってんじゃねぇかよ」

「似たような事? 私達が何をしていると言うのだ?」


 ルーベンスはきょとんとした様子で首を傾げる。

 スケットンはルーベンスがすっ呆けたフリをしているのかとも思ったが、これまでの出来事を総合すると彼は思ったことが割と顔に出る人間だ。

  言っている意味が分からない、というような表情を浮かべる所を見ても、どうにも本当に心当たりがなさそうだった。


「ところでぇ、さきほどから気になっていたんですけどぉ。アンデッドなのにぃ死霊術師あるじの命令を聞かずに、どうして自由に動けるんですかぁ?」


 ふと、フランデレンがスケットンにそう尋ねた。

 ピシリ、とスケットンとナナシの表情が凍りつく。


「何を言っているんだ? アンデッドは君達の方だろう」


 その場で唯一、フランデレンの言葉を理解出来ないルーベンスが聞き返す。

 ルーベンスの目に映っていないのを良い事にスケットンとナナシは目で合図しあった。


「いえ、もちろんあたし達はアンデッドですどぉ、そちらの……」

「あ! そうだ!」


 ナナシが手を打ち鳴らし、フランデレンの言葉を遮る。

 集まる視線を受けてナナシがにっこりとほほ笑んだ。


「私、魔法使いなんですよ。なので、もし良かったら結界魔法の媒介に魔力を注ぎましょうか?」

「え、本当ですかぁ!?」

「はいはい、雨宿りのお礼です」

「うわぁありがとうございますぅ! おねがいしますぅ!」


 フランデレンはナナシの手を握り、嬉々として頷く。


「勇者様、何と慈悲深い……!」


 ルーベンスもナナシの言葉に感動の面持ちになっている。

 単に話を逸らしたかっただけなのだが、予想外に喜ばれてしまい、ナナシはスケットンを見上げて苦笑する。

 スケットンは『褒めて遣わす』と言わんばかりにサムズアップした。

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