第19話「死んだ奴に即死の魔法が効くかよ!」
「何か魔法の効きが悪い!? んもう、封印石のばかばか!」
シェヘラザードは地団駄を踏み、封印石に向かって怒る。
魔法の効きが悪いのは、正確には封印石ではなくナナシの【レベルドレイン体質】によってシェヘラザードが弱体化しているからだが、彼女にはそれを知る由はない。
だがしかし、幾ら弱体化していると言っても、シェヘラザードはこれだけ強力な魔法を事も無げに放つことが出来るのだ。
風体がどうであれ、四天王を名乗るのは伊達ではない。
スケットンもそこは認めるところだった。
「弱体化してなかったら手こずりそうだな」
スケットンは呟きながら“
そして躊躇い一つなく【竜殺し】を振り下ろした。
だがその一撃をシェヘラザードは咄嗟に後ろに跳んで回避する。
【竜殺し】が深々と地面を抉ったそのタイミングで“
現れたのは闇。全てを覆い尽くすような深淵の闇の死神だ。
死神は身の丈を越える大鎌を手に、スケットン達に向かって真っすぐに飛ぶ。
この死神は“
ナナシは現れた死神を見てそれが何であるかを瞬時に判断し、唱えていた詠唱を破棄して別の魔法へと切り替える。
「やった出たァ! さあやっつけちゃって、死神ちゃん!」
シェヘラザードは歓喜の声を挙げた。
発動すれば術者の勝利を確定するかのような【即死】効果だ、喜ぶのも当然だろう。
だがしかし、そんな勝利の使者である死神は、何事もなかったかのようにスケットンをスルーしていく。
「え!? ウソォ!? 何で!?」
「死んだ奴に即死の魔法が効くかよ!」
「にゃああああ! ウソォ!」
即死とは、つまりは生者に対しての効果を得るものだ。
すでに一度死んでいるスケットンには【即死】の効果は発動しない。
スケットンをスルーした死神は、この場で術者以外の唯一の生者である、ナナシへ向かって真っ直ぐに飛んで行く。
目の前の危険を排除できると思っていたシェヘラザードからすれば予想外の事だったのだろう。
そしてスケットンと死神をあわあわと見比べ、
「あんた、ねぇ、ちょっと! あの子を助けに行きなさいよ! 死ぬわよ!」
と、ナナシの方を指差して言った。
スケットンはその言葉を鼻で笑う。
「俺らを殺そうとしてる奴が、俺らの心配してんじゃねーよ!」
実に最もな言い分である。
言いながら、スケットンは【竜殺し】の柄を振り上げ、シェヘラザードの脳天を思い切り殴り、地面に沈める。
そしてそのまま体の向きを変え、今度は【竜殺し】の切っ先を死神に向け、力一杯に投擲した。
淡い光を帯びた魔剣は、宙にその光の軌跡を描き、死神を貫く。
【竜殺し】に貫かれた死神の動きが一瞬止まり、身体を構成する闇が薄くなった。
だが。
だがそれも言葉通り一瞬だ。
動きこそ遅くなったが、それでも真っ直ぐにナナシを目がけて飛んでく。スケットンは舌打ちして走る。
けれどもナナシ動じない。淡々と、確実に詠唱を続けていく。
その頭上に、ぬ、と覆い被さるように死神が立った。そして手に持ったその大鎌を振り上げる。
だがナナシは動かない。焦りもない。その目は一点の曇りもなく、淀みもなく、真っ直ぐに死神を見上げて言葉を紡ぐ。
大鎌の切っ先がナナシの脳天に狙いを定めた。
――――その時、ナナシの魔法が完成する。
「“
紡がれた
深淵、全てを飲み込むかのような、背筋の凍る闇だ。
その闇の穴から、ぶわり、と黒い霧が吹き出し、死神の体にまとわりつく。手のように、鎖のように、それらは死神の体を穴の中へと引きずり込んで行く。
闇属性の上級魔法“
対象を一定時間闇の穴の中に押し込めて、その動きを奪う効果を持った魔法である。
“
彼女がここで“
ナナシは死神の腹から魔剣を引き抜くと、スケットンに向かって投げ返す。
魔剣は弧を描くように空高く飛ぶと、幾度か回転し、当たり前のようにスケットンの手に収まった。
スケットンは振り返ると【竜殺し】を最後のルーレットの花弁に振う。
花弁が砕けった事で効果を終えた死神は消え、“
スケットンは小さく息を吐くとナナシの方を向く。
ナナシは疲れた様にその場にへたり込み、へらりと笑ってスケットンに手を振っていた。
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