第18話「スケルトンのくせに意外とやるじゃないの」
四天王シェヘラザード。
稀代の魔法使い、万雷の魔女など複数の通り名を持つ彼女の戦い方は、その呼び名の通り魔法である。
シェヘラザードが“
魔力で作られた五枚の花弁を持った花のルーレットだ。物騒な名前とは裏腹に、ルーレットは絢爛に光り輝いている。
ナナシは魔法発動の準備をしながら早口で、スケットンにシェヘラザードが使った魔法について説明する。
「
「へっそれだけ時間があれば十分だ! てめぇは後ろで援護しろ!」
言うが早いか、スケットンは魔剣【竜殺し】を携え、シェヘラザードに向かって走る。
ナナシはぎょっとしてスケットンを呼び止める。
「あ、ちょっと! 作戦は!」
「いらん!」
即答であった。長々と話す時間でもあれば『俺様は最強だからな!』などと付け足していた事だろう。
ナナシはこめかみを抑えると、肩に乗ったブチスラに「隠れていてね」と言い、魔法の詠唱を開始する。
「考えなしに突っ込んでくるなんて馬鹿ね!」
シェヘラザードがニヤリと笑うと“
ルーレットの花弁から飛び出したのは、大量の魔法の矢だ。
空高く弧を描いて上ったかと思えば、次の瞬間にはスケットン目がけて雨のように降り注ぐ。
だがスケットンは怯まない。恐怖もない。その顔に浮かぶのは不敵な笑みだ。
スケットンはニィと笑うと【竜殺し】でそれを薙ぎ払う。
剣心を淡く輝かせる魔力が衝撃波となり、一定範囲の魔法の矢を一気に相殺した。
「大した事ぁねーな!」
魔法の矢の雨は、スケットンにかすり傷つけずにその効果を終える。
地面に空いた穴を見てシェヘラザードが「あら、すごい」と感心したように言うと、彼女の背後のルーレットの花弁の一枚がガラスのように砕け散った。
「スケルトンのくせに意外とやるじゃないの」
「スケルトンだろうが何だろうが、このスケットン様にかかればこんなもんよ!」
「相変わらず尊大ですこと! フフン、でもまだまだこれからよ!」
シェヘラザードがびしっとスケットンを指差すと、“
ルーレットの花弁から影のような手が伸び、大地を駆ける。
その手が触れた場所からは黒い炎が噴き出て、大地を焼いていく。
シェヘラザードまでの道を阻むように伸びる手は、スケットンへもも襲い掛かる。
そこでナナシの魔法が完成した。
「
植物を模したその紋様から現れるのは光の蔦だ。
オルビド平原に根を張るように広がる光の蔦は、繊細に、そして力強く、闇の業火を貫いて行く。
やがてスケットンを追い越した光の蔦は、シェヘラザードの背後のルーレットにぶつかり、花弁の一つを打ち砕く。
「あら、魔法使いが勇者って珍しいわね!」
「いやぁこちらも魔法使いと戦うのは久しぶりです!」
シェヘラザードの言葉にナナシは素直に照れた。
魔法使い同士の戦いとは、魔法を打ち合い、相手を打ち負かすものではない。
お互いの魔法をいかしにして打ち消すかで勝負が決まるのだ。
ナナシがルーレットの一片を潰すと同時に、もう一片で発動中の魔法もその効果を終え、砕け散る。残りは二つだ。
「おらおらどうした! 残り二つだぞ、四天王さんよ!」
悪役のような事を言いながらスケットンは走る。
走っている途中で、地面に剣が刺さっているのが見えた。かつての戦いで使われたものなのだろう。
錆びて刃こぼれしたそれを、スケットンは走りながら左手で抜いた。
柄に巻かれたボロボロの布には血のような染みがあった。スケットンは小さく「借りるぜ」と言うと、ダンッと右足を地面に叩きつける。
「――――オラァッ!」
そして走る勢いも合わせ、抜いた剣を投擲よろしくシェヘラザードに向かって投げつけた!
錆びたからとて剣は剣。
その剣は未だ発動中であるナナシの“
そして速度を威力としてまとい、錆びた切っ先をシェヘラザードへ向けて風を切って飛ぶ。
「げっ」
シェヘラザードの顔が嫌そうに歪む。
魔法発動中のシェヘラザードは次の魔法を放てない。魔法は、同時に二つの魔法を発動する事ができないのだ。
シェヘラザードは舌打ちし、スケットンの投擲した剣を回避する。剣はそのまま“
残る魔法効果は一回だ。
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