第18話「スケルトンのくせに意外とやるじゃないの」

 

 四天王シェヘラザード。

 稀代の魔法使い、万雷の魔女など複数の通り名を持つ彼女の戦い方は、その呼び名の通り魔法である。

 シェヘラザードが“闇遊戯デスルーレット”、と高らかに呪文スペルを唱えると、彼女の背後に豪奢なルーレットが出現した。

 魔力で作られた五枚の花弁を持った花のルーレットだ。物騒な名前とは裏腹に、ルーレットは絢爛に光り輝いている。

 ナナシは魔法発動の準備をしながら早口で、スケットンにシェヘラザードが使った魔法について説明する。


闇遊戯デスルーレットの特徴は、合計五回の魔法効果。効果が消えるごとに、五秒間隔で次の効果が発動します!」

「へっそれだけ時間があれば十分だ! てめぇは後ろで援護しろ!」


 言うが早いか、スケットンは魔剣【竜殺し】を携え、シェヘラザードに向かって走る。

 ナナシはぎょっとしてスケットンを呼び止める。 


「あ、ちょっと! 作戦は!」

「いらん!」


 即答であった。長々と話す時間でもあれば『俺様は最強だからな!』などと付け足していた事だろう。

 ナナシはこめかみを抑えると、肩に乗ったブチスラに「隠れていてね」と言い、魔法の詠唱を開始する。


「考えなしに突っ込んでくるなんて馬鹿ね!」


 シェヘラザードがニヤリと笑うと“闇遊戯デスルーレット”の一回目の効果が発動した。

 ルーレットの花弁から飛び出したのは、大量の魔法の矢だ。

 空高く弧を描いて上ったかと思えば、次の瞬間にはスケットン目がけて雨のように降り注ぐ。

 だがスケットンは怯まない。恐怖もない。その顔に浮かぶのは不敵な笑みだ。

 スケットンはニィと笑うと【竜殺し】でそれを薙ぎ払う。

 剣心を淡く輝かせる魔力が衝撃波となり、一定範囲の魔法の矢を一気に相殺した。


「大した事ぁねーな!」


 魔法の矢の雨は、スケットンにかすり傷つけずにその効果を終える。

 地面に空いた穴を見てシェヘラザードが「あら、すごい」と感心したように言うと、彼女の背後のルーレットの花弁の一枚がガラスのように砕け散った。


「スケルトンのくせに意外とやるじゃないの」

「スケルトンだろうが何だろうが、このスケットン様にかかればこんなもんよ!」

「相変わらず尊大ですこと! フフン、でもまだまだこれからよ!」


 シェヘラザードがびしっとスケットンを指差すと、“闇遊戯デスルーレット”の二回目の効果が発動する。

 ルーレットの花弁から影のような手が伸び、大地を駆ける。

 その手が触れた場所からは黒い炎が噴き出て、大地を焼いていく。

 シェヘラザードまでの道を阻むように伸びる手は、スケットンへもも襲い掛かる。

 そこでナナシの魔法が完成した。


豊穣の酒神バッカス!」


 呪文スぺルと共にナナシの足元に魔法陣が形成される。

 植物を模したその紋様から現れるのは光の蔦だ。

 オルビド平原に根を張るように広がる光の蔦は、繊細に、そして力強く、闇の業火を貫いて行く。

 やがてスケットンを追い越した光の蔦は、シェヘラザードの背後のルーレットにぶつかり、花弁の一つを打ち砕く。


「あら、魔法使いが勇者って珍しいわね!」

「いやぁこちらも魔法使いと戦うのは久しぶりです!」


 シェヘラザードの言葉にナナシは素直に照れた。

 魔法使い同士の戦いとは、魔法を打ち合い、相手を打ち負かすものではない。

 お互いの魔法をいかしにして打ち消すかで勝負が決まるのだ。

 ナナシがルーレットの一片を潰すと同時に、もう一片で発動中の魔法もその効果を終え、砕け散る。残りは二つだ。


「おらおらどうした! 残り二つだぞ、四天王さんよ!」


 悪役のような事を言いながらスケットンは走る。

 走っている途中で、地面に剣が刺さっているのが見えた。かつての戦いで使われたものなのだろう。

 錆びて刃こぼれしたそれを、スケットンは走りながら左手で抜いた。

 柄に巻かれたボロボロの布には血のような染みがあった。スケットンは小さく「借りるぜ」と言うと、ダンッと右足を地面に叩きつける。


「――――オラァッ!」


 そして走る勢いも合わせ、抜いた剣を投擲よろしくシェヘラザードに向かって投げつけた!

 錆びたからとて剣は剣。

 その剣は未だ発動中であるナナシの“豊穣の酒神バッカス”を貫き、その魔力を帯びる。

 そして速度を威力としてまとい、錆びた切っ先をシェヘラザードへ向けて風を切って飛ぶ。


「げっ」


 シェヘラザードの顔が嫌そうに歪む。

 魔法発動中のシェヘラザードは次の魔法を放てない。魔法は、同時に二つの魔法を発動する事ができないのだ。

 シェヘラザードは舌打ちし、スケットンの投擲した剣を回避する。剣はそのまま“闇遊戯デスルーレット”一片を貫き、砕いた。

 残る魔法効果は一回だ。

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