未来へ

 10分走り森の前公園に着いた時にはもうベンチに蒼汰は座っていた。俺は公園に入り早歩きでベンチまで向かう。

「どうした? そんな血相変えて」

「蒼汰……。お前、金崎夢って子知ってるか?」

「あー。潦人が最近できたって言ってた好きな子?」

 座っている蒼汰の右肩を左手で掴みながらかなり強めの口調で言った。

「質問に答えろよ」

「知ってるよ。昔付き合ってた」

「じゃあお前彼女のお腹に子供がいることも知ってたのか?」

「ああ。知ってたよ」

 俺はどこかまだ少し夢ちゃんの嘘とか間違いなのではないかと思っていたが蒼汰出たその言葉に、俺は悲しさと苛立ちが入り乱れ、下唇を噛む。

「何で逃げたんだよ!」

「何で……か、まず俺は潦人が思っているほど良い奴じゃない。俺はみんなから好かれたいんだ」

「何を言ってるんだ?」

「要するにだ、まだ結婚できる年でもないのに子供を産ましたってなると俺のイメージはどうなる? 決していいものじゃないだろ? だから俺は彼女との関係を切りなかったことにしたんだ」

 バンッと鈍い音がした。俺は蒼汰の顔面を殴っていた。

「お前夢ちゃんの気持ちをちょっとでも考えてそうゆう行動をとったのか⁈」

 バンッとまた鈍い音がし、今度は俺が殴られた。

「お前の人の事は言えないだろ。子供は生ましていないにしても、遊んでばっかじゃないか。まあ確かに俺はあの子の事が好きだったよ。でもな、俺は彼女より自分の事が好きなんだよ」

 俺は怒りを通り越し涙が溢れてきていた。

 また俺は蒼汰を殴り、そしてまた蒼汰に殴り返される。

「何でだよ。何でなんだよ!」

 俺と蒼汰の間に言葉はなく、拳で語り合っていた。正直俺が殴られる理由はわからない。

「二度と夢ちゃんに近づくな。俺にもな」

 返ってくる言葉はなかった。確かに俺もたくさんの女の子を傷つけたかもしれない。でも俺は自分のしたことに対する責任だけは取る。俺はあいつとは違う。俺は蒼汰に背を向け公園を出る。

 唇は切れ血が出ている。スマホを内カメラにして顔を見てみるととても腫れていた。

 今の時刻は5時である。6時からミスターコンの面接がある。しかし、俺は面接会場へは向かわず、夢ちゃんのいる病院へと向かった。


 トントンとノックすると「はい」と返事があったので中に入る。

「どうしたのその顔」

 すごく驚いた顔で俺の顔をまじまじと見てくる。

「一戦交えてきた。いつもよりイケメンやろ?」

「ほんとバカじゃないの~。いつもよりイケメンだけどさ」

 彼女はそう言いながら声を立てて笑う。

「悪かったな、バカで」

 まだ彼女は笑っている。

「ありがとね」

 少し照れもあり、俺は彼女のから目をそらし外の方に目をやる。

「まあこの顔の傷は戦士の証的な」

「じゃあ、私のお腹の傷も戦士の証かな」

 2人して冗談を言って笑いあえるなら俺はそれでいい。俺が彼女の心の傷を少しでも癒せていける人間になりたい。

 だから

「俺やっぱり夢ちゃんの事が好きだわ。俺を夢ちゃんの横にずっと居させてほしい」

「そんな顔の時に告白してくる?」

 またそう言ってクスクスと彼女は笑っている。

「いつもよりイケメンって言ってくれたじゃん」

「言ったけどさ~。ホント面白いね。ずっと横にいてくれてもいいけど離れて行ったら、そんな顔の傷と腫れ具合ではすまないからね」

「あ、はい。了解しました」


 今まで適当に女の子と遊ぶだけだった俺がこうして初めて1人の女の子に一途な感情を抱き、お互いが大切な関係となれた。これから見たことのない道を数百数千と経験するだろう。だが、不安はない彼女とならどんな困難でも越えていけると思うから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

川の流れのように @puuumaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る