この物語に於いて、明確に描き出されるヒト、動物(或いはフレンズ)は極めて少ないと思います。挙げるとすれば、
何処か虚ろで、笑う事の出来なくなったペンギン。
誰にでも気配りが出来て、有らゆるフレンズから慕われる、それでも何処か後ろ暗いパークガイド。
頻りに噂に上る、行方不明のパークのアイドル。
そしてそれに酷似した、ニヒルで食えないセルリアン。
けれどもその小さく暗いコミュニティで進んでいた筈の物語が、いつの間にかパーク全体を侵食していく。水面下で進んでいた大きな潮流が、ある点を境にして堰を切ったように溢れてくるそのストーリーに震えます。
それぞれの”個”がその意志をもって世界そのものに関わっていく様子に、私は初めに「セカイ系」的要素を感じました。けれども、それだけではない。
愛憎劇的要素も、ある種のSF的スペクタクル要素も含んでいる。それが混然となって、けれども決して制御を失った混沌とはならない。その雰囲気が癖になります。
また、あちこちに散りばめられた伏線、メタファーが、最後にかけて怒涛の早さで回収されていく事で、大きなカタルシスも感じられました。再読する事で改めて分かることも多く、この物語を今からご覧になる方は是非複数回読み直すことをお勧めします。
沈鬱とする部分も多いが、けものフレンズにおける世界観は失わないで、その為か読後感は奇妙に暖かい。けれども同時に襲ってくる虚無感は、やはり根底に根差すものが“ナンセンス”だからなのか。PPPを巡る作品の中では、個人的にはトップに位置する小説だと感じました。