最終話

※最初にお話しした通り変更点に関して、理解を得られたと思いますので、答え合わせをさせていただきます。

 既にお気付きの方もいるでしょう――、ト書きにおける“私”とはロイヤルペンギンのことではありません。









 私にとって最初にあたる彼との邂逅は。


 『今回も、駄目だった。結局【しゅうまつ】は避けられない運命なのかっ……。』


 開幕早々意味不明な呟きで。

 だけど悲壮な何かが込められてて。


 『あの、私でよければ貴女の話し相手に成るけど。』


 声を掛けずにはいられなかった。


 『貴女は確かPPPの……、ううん言ったってしょうがない。』

 『言うだけ言ってみるのも悪くないんじゃない? 少しは気が楽に。』

 『違う、とても信じられないようなことだから。』

 『信じるかどうかは、聞いたあと決めることにするわ。だから、ね?』


 私に何かを期待した訳じゃない。

 むしろ言っても言わなくても何も変わらないことは。

 彼が一番思い知ってただろう。

 それでも口にしたのは私の想いを無下にしない為。


 『私はジャパリパークの園長をしてる。』

 『園長? でも役職があるだけで決まってないって聞いたけど。』

 『今はね、でもそう遠くない内に成ることが決まってる。』

 『内定って奴?』

 『――私は未来から来た。』


 想定外の告白に頭が付いて来れなかった。

 取り敢えず信じられない内容だったことは確か。


 『へ、へぇ。それは凄いわね……、一応訊くけどどうやって?』

 『この、守護けものの紋章が揃ったお守りの力を使って。』

 『ふぅん、でも不思議ね。もし本当だったら叶わないことなんてないでしょうに、どうして貴女は苦しそうな訳?』

 『時間を遡れると言っても、あくまで自分が生きていた時代の範囲に限った話で。それに過去をどれだけ変えた所で、これから起きる事態を留められた試しがない。まるで世界が寄って集ってその未来から外れることを許さないとばかりに。』


 彼が取り出したお守りを手で包み込む。

 暖めるように、本当は奪えるように?


 『……辛かったわね、きっと逃げ出したくてしょうがない筈なのに。それでも今度こそはって希望を捨てられなくて。』

 『信じてくれたなんてそれこそ信じられない、こんな莫迦げた話を。』

 『えぇ、だってこのお守りからは貴女の言った通り、桁外れの輝きを感じるんだもの。貴女の頑張った証が、貴女は頑張った……。だからその世界の希望って奴、私に引き受けさせてくれない?』

 『っ……、駄目! それを手にしたら永遠に苦しむことに成る、どんなに頑張っても世界は応えてくれない。考え付く限りやった、許されないことも沢山……。生まれたばかりのセルリアンを絶滅させたりもした、それでも全部無駄だった……!』

 『なら尚更代わった方が結果が出るもんじゃない? 大丈夫よ、貴女は一人のヒトだったけど私はフレンズ。世代交代を繰り返して未来の自分に託せる、そして遺伝子は系統樹として過去の自分に繋がる。』


 自分達の都合も考えずによくまぁ。

 私は向こう見ずで笑って言った。


 『――私はプリンセス。この名前が世代を超えて皆の道標と成りますようにと、そうミライさんが願ってくれたんだから。』


 そんな私がまだ笑えてた頃の話。

 今と成っては物語でしかない歴史。


 「そして私はお守りと七人の神様に願いました。」


 それで音読を終える。









 プリンセスが消えて元通りの写真を片手に。

 マガリァンへ意趣返しを期待した読み手は。


 「――で、“彼女”との出会いを見せて何がしたいんですか?」


 揺さぶることも出来ず仕舞いの無様なもので。

 この自分で私を目覚めさせた彼女みたくいくとでも?


 「はぁ、言っとくけど彼女じゃなくて“彼”だから。」

 「どっちでもいいじゃないですか、園長の性別や見た目がどうであれ世界に影響しないんですし。でもそう考えると虚しい物ですね、胎内回帰までして自分を作り直したのに。生きている範囲を文字通り揺籠から墓場までと解釈した、悪くないやり方だと思うんですけどね。」

 「悪足掻きの間違いじゃないかしら、そこから誰をフレンズ化させるか選ぶ考えを憶えた私が言うかでしょうけど。そんなことが出来たってね自慢にも成らない、精々顔を合わせたくないルームメイトが生まれないでくださいって我が儘が通るだけ。」

 「それで代わりにマゼランペンギンがフレンズ化し、そして私が生まれた訳ですから結果オーライですってば。」


 だから無駄じゃなかったと言いたい訳?

 そうも自身の存在意義を見出だせる彼女が眩しい。


 「……言ってくれるかなってちょっとは期待したのよ。」

 「さっきので?」

 「やめろって。」

 「どうして私がミライみたいなことを。」

 「だってあの出会いがなければ世代を超えたタイムリープをせずに済んだんだから、間違った道に進もうとするお姫様を留めようと思わない? 喩え記憶越しで無駄と分かっても見てられず、なんてことがあってよさそうなのにね。」

 「言う訳がないじゃないですか、全く何を期待してるのかと思えば。その苦しみも引っ括めてプリンセスのシンデレラストーリーなんですから大切にしないと、でなきゃ今の貴女になんの意味があるんです?」


 事実を突き付けられる。

 そう言われるのは初めてのことだったから。


 「えぇそうね、全くその通りだわ。なかったことに出来たらどれ程楽か、実に短絡的でご都合主義な救いよね。だけど今更なかったことには出来ない、してはいけない。」

 「当事者からすればデウスエクスマキナなんて、じゃぁ今までの頑張りはなんだったんだ。が本音なこと位分かって当然です、だから安心してください。私はそんな選択はしません、許しません。」

 「認めるわマガリァン、貴女の意志は本物よ。中途半端な同情から来る物じゃない、それこそ無責任な言葉で片付けるつもりもない。貴女は本気で私のことを、――救おうとしてたのね。」


 サンドスター火山の五合目。

 彼女が設定した最終決戦の舞台にて。

 私は理解される嬉しさを知る。

 そんな空気読めないのは彼女もそうで。


 「あぁこんな賭けでもあるやり方を信じてくれるなんて、それだけでもう本懐と言っても過言じゃありません。なのに時間がないからと説明を省き、試す形に成ったのが申し訳ないです。これじゃぁ本人に直接言わず回りくどい手を取った、ロイヤルのことを言えませんね。」

 「まんまと貴女のキャスティング通りに踊らされた気分だけど、てっきりカンニングや断罪発言から罪を暴いてどうこうするつもりとばかり。所詮は私も含めて、予想出来てしまう程度の自由意志しか持ち得ないだわ。」

 「だから未来は変えられないと、私の行動もまた無駄に思えても仕方のないことです。」

 「フォローどうも、でも永遠と世界を繰り返して駄目だったのはそんな単純な話じゃないのよね、わざわざ言われるまでもないでしょうけども。噴火の予兆である地震に気付きながら誰も留められなかった、それはきっと例の異変が定められた運命って奴だから。」


 彼に言われようとも認める訳にはいかなった。

 現実を今はあっさり受け入れられて。


 「進化とは“個”を得る過程だと思います。生存競争を勝ち抜く動物も、最適解を導き出す機械も、輝きを奪うセルリアンも。その行き着く先に自我を持ち始めるからです。けれど折角手に入れた“それ”は世界になんの影響も与えられないまま、終わりを迎える。自然相手に限らず自らが作った社会にさえ相手されず、それなのに“我々”が産まれる意味はあるのか……。」


 彼女は語る、理不尽な世界の在り方を。

 それでもなお彼女は諦めない。


 「だけど、そんなのないなんて言いたくありません。だって努力は報われるべき物なんですから、喩えどんなズルだろうと犠牲を積み重ねてでも。それに最期に見合うだけの成果さえ出せちゃえば、それらは間違いじゃなかったって言えるでしょ?」

 「それはそれは素敵な話だこと。でもここまでのお膳立てをしてみせた貴女ならきっと……、彼や私とは違って大丈夫なのでしょうね。」

 「私も橋渡し役であることには一緒ですよ。ただヒトの一生しか持ち得ない園長に、片や成れてもアイドルが御の字のお姫様では、道標足り得なかっただけのこと。だから私はプリンセスという名前をプロデュースするんです。留めらないのなら利用すればいい、そう。例の異変を起こしたセルリアンを倒したパークの英雄として、歴史に。」

 「さながら航海者マゼランを討ち取ったラプ=ラプ王のように?」

 「王(ロイヤル)だけに?」


 それこそ物語みたいな符号の一致。

 私も彼女もそんな物を信じる質?


 「ロイヤルなんて生半可な自分じゃないわ、私はプリンセスよ。マガリァン、貴女はどうなの。【けじめ】のセルリアン?」


 決して高尚と呼べる物じゃなくとも。

 決死で低俗じゃないそれをそう呼ぶことにしただけ。


 「確かに私のしていることは言ってしまえば、凡ての責任を一身に引き受けようとした彼女の輝きその物でしょう。だけどここに立つことを選んだのは紛れもなく、生まれて間もなく手にした写真のお姫様に憧れた私です。桁外れの輝きのあまりにセルリアンが取り込むことの叶わない、それでもなおそこには世界を相手にひとりぼっちでも頑張ってた、笑えなく成るまで……。そしてそんな彼女の力に成りたいと、誰に言われるまでもなく私は願ってました。だからこれは貴女に送る、私の“i”なんです。」


 彼女がナイフを放り投げる。


 「どうぞ、その身体では私の石を壊すのも大変でしょうし。」

 「用意がいいこと、今の私でも火口に突き落とす位は出来るつもりだけど。」

 「セルリアンをサンドスター・ローの発生源にって、そんなんじゃぁ私は死にませんよ?」


 足元に刺さったそれを取らなければ。

 最初から私達の関係が近付ける筈なくて。


 「そうね……。貴女のことだから受け留め切れずぱっかーん、なんてオチ期待しても無駄なんでしょうよ。」


 分かってただろうに。

 彼女は不幸なんかじゃないって。

 誰かに強制された訳でもなく。

 凡て承知なうえで夢に向かい。

 一生懸命考えてくれたのをどうして留められようか。

 例の異変の先も待ち受ける【終末】に諦めた私が。


 「はぁ。」


 溜め息を吐かざるおえない。

 こんなにも慕ってくれてる彼女に対して。


 「お姫様、ねぇ。」


 私がこれからすることを考えると。


 「皆揃って夢見ちゃってさ、こんなのが人生を命を掛ける程立派な物だっていうのかしら。」

 「わざわざ私の覚悟の程を知ろうとしてくれました、“個”を持ってしまったが故の人間的葛藤。だから貴女に託せるんです、託したいんです。」

 「だからイヤなのよ、私の人間性なんてちっぽけな輝きを信じる貴女に自分に。……莫迦じゃないの。」

 「なんとでも言ってください。」

 「そう、じゃぁ可哀相だわ。そんなご大層な夢を見なくちゃ自分らしくいられない貴女達が、ホントもう。普通に生きればいいのに――、あっ。」


 言っちゃった。

 ほら見てよ、彼女の顔。

 あれを見てなんとも思わない訳?

 えぇ……、なんにも。

 罪悪感の一つすら感じないとかふざけてる。

 今の私を言葉にするなら、――世界。


 「何を、言ってるんですか……。」

 「何ってまぁ、本心だけど?」

 「まさかとは思いますが、今更綺麗事で済ますつもりで?」

 「誰かの犠牲で成り立つ未来ならいらないとかって? だったら貴女に出会えた奇跡はどう成るのって話よ。」

 「じゃぁどうして! 目の前にある希望を取ろうとしないんです……? 私は貴女が求めた物に成りますよ。世界を変える力に、ただ一人の理解者に、そして。」

 「そして友達に……、でしょ。喩えば相談に乗ってくれるようなね。私がここまでして貰いながら無様に帰って来たとしても、笑って次を考え出す貴女が想像付いて呆れる。」


 私の為、ただそれだけで彼女はやってのける。

 汚れ役だろうと痛々しかろうと関係なし。

 それを否定することはエゴでしかなく成る。

 だというのに私と来たら。


 「私の中に残る自分は貴女のこと、凄いって思う。でも世界としての私はこう思っちゃうのよ、わざわざ苦しい想いをしてまですることなのって。」

 「意味が、分からない。」

 「でしょうね、私は貴女のように強くなかったから。ただ繰り返すしか出来ない自分を信じられなく成って、世界の一部であることを選んだ。動物だった頃のような確かに繋がれているあの感覚、ただ私がここに在る以上の意味を必要としない。だから貴女達が必死に成るのが理解出来ない、それが今の私。」

 「それでも貴女は私を通して、自分を信じようとした筈。」

 「えぇ、自分の正義感故になんじゃないかって何処かで期待した。でも違った、貴女を留める理由がないと知ってもなお。私の考えは変わらない、それを口に出来てしまう。」

 「違う、」

 「――貴女にアイドルとしての名前を送ります、力に成り果てた私から羽搏ける道標と成るよう。」

 「そんなの……、私はっ。」

 「“イース”。だから、いいでしょ……?」


 それが私の繰り返して来た意味でも。

 ――胸の痛みを感じた。

 駆け寄った彼女がナイフを取ってそれから。

 ……そこまで見といて。


 「……望んでない。」


 この痛みは刺された時の物で。

 心じゃない。


 「そんなこと、私は貴女に――!」


 こんなにも近く。

 彼女の叫びを聞いてなお心は痛まない。


 「なんでなんでなんでなんで、なんでですか!?」


 圧し倒される視界。

 なんでなんでとなんでか彼女は駄々を捏ねる。


 「私の知ってる貴女はこんなことしないっ、だってだってだってだってそうでしょ?」


 滅多刺し訴えられるも。

 痛いだけの、だから何って感じで。


 「そうじゃなきゃなんだったって言うんです、貴女に憧れた私は……。だから願った、でも私が捧げられる物なんてこれしかないのにっなのにどうして!?」


 振り向いたりしない、出来ない私が。


 「嘘って言ってくださいよ、ホントは痛いんですよね? 痛いなら抵抗する物でしょ、だったら私を殺さないとお姫様なんで死んじゃうんです? お願いだから死なないでよ! 諦めないでよ! ねぇったらねぇ!?」


 報われない“i”をそれでも祝福するなんて笑える。

 ――乾いた音が一発した。

 ただそれだけのこと、彼女が泣きやむ。

 代わってポロポロ身体が私に降り積もる。


 「あぁ、あ。“貴女”はお呼びじゃなかったのになぁ……。」


 そう最期に口にして、対して今更気付く私。

 凡ての元凶と成った名前を送った相手を。

 彼女は嫌いだったことに。

 それ位分かって当然なのに、何を見てたんだか。


 「――清めの塩(アンチセルリウム)弾。」


 彼女の重みから解放された身体を横に向ける。


 「ミライさんがそれ使う所、初めて見た。」


 拳銃を構えて立ち尽くすミライの。

 それはもう酷い顔と言ったら。


 「……一フレンズのロイヤルペンギンさんが知る筈もないこれを知っているということはやはり、貴女は別の未来から来た存在なんですね。」

 「そこでようやく信じてくれた訳、私達のやり取りずっと見てたんでしょうに。」

 「今でも、信じられないことばかりです。」

 「私を留めようとしといて格好付かないこと、私も言えた義理じゃないけどさ。」


 助けに来た所悪いけど手遅れの死に体。

 彼女は抱き締める、ポロポロと。


 「泣いてくれるの、ミライさん。」

 「だって、マガリァンさんは確かに生きてました。それを私が、殺したんです。」

 「私を助ける為でしょ。」

 「でも貴女はっ、……それを望んでない。」

 「いいのよ、それで。無駄でも、貴女の選択なのだから。そもそもの原因も私だしね、所謂承認欲求。ミライさんが私の道標にと送った名前では飽き足らず、皆の為にある物だって背負いもしない見栄張り出して。挙句その皆を行き着く所まで巻き込んじゃうんなんてね、莫迦としか言いようがないっていう。」


 口が回ること回る。

 瀕死設定は何処へやら、ほらドン引いてる。


 「ね、分かったでしょ? 私は貴女達とは違う、生き物だなんて呼べない。貴女達の精一杯な頑張りを理解しながら、何事もなく何様として言い捨ててしまえる。ケモノの摂理から外れた存在、そんなのバケモノ以外のなんだって言うの?」


 目を閉じる、喋るのに疲れたから。

 そのまま永遠の眠りにでも付きそうで。

 目を開ければそこには別の自分がいるだけの永遠。

 私にはもうどうでもいいこと。


 「それでも私は――、貴女達に生きて欲しいと願います。だって貴女も彼女も、この世界に産まれて来たんですから。」


 彼女の届かない願い、「そう」と私は返す。

 意味なんてある?

 正直言ってない。

 だけどそれこそナンセンスだと思うから。

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