第7話
ここからの眺めに感情が懐かしむ。
それ程にここから離れていたみたいで。
「はぁ。」
溜め息を吐かざるおえない。
こんな場所を選んだことに対してと。
「お姫様、ねぇ。」
“私”のことをマガリァンがどう見てるか知って。
「生憎、そう呼ばれるような柄じゃないわよ。」
「確かに貴女はお姫様の名に反して、笑っていません。それでも私は今の貴女を指す名前を他に知りません、だからプリンセスと呼んでも構いませんか?」
「まぁ確かにこの状況、私がパークの危機から皆を救う希望に見えなくもないけど。嫌味かしら?」
「敬意を表したまでです。」
「そう、好きにすれば。」
「はい、初めましてプリンセス。マガリァンと言います、以後お見知りおきを。」
初対面と言うには私がお姫様の夢を忘れたのも含め。
あの写真から読み取って知り尽くしているだろうに。
「さて人質を取っていたにも拘らず、よくもまぁこうして直接ショーを見に来てくれました。ミライとの話し合いも切りがいいですし、歓迎します。」
「それはどうも、具体的に何をされるのやら。」
「そうですね、取り敢えずステージまで降りましょうっか。観客席越しに話すのも面倒ですし、お姫様が立つ舞台はここだと思うんですよ。」
「危険です、ロイヤルペンギンさん! 私は大丈夫ですから――。」
「煩いです、ミライ。私は今“プリンセス”と話してるんですから邪魔しないでください、それとも何か。映像をプレゼントされたいんでしたら、今すぐにでもっ。」
「それは、っ……。」
ミライの虚勢は呆れる位虚しく。
見てて分かり切った展開過ぎて呆れる。
「あぁセルリアン化したラッキービーストが誰か襲うって映像を見せる奴? 全く、ここまで来たんだからわざわざ脅さなくても行くわよ。」
「ロイヤルペンギンさん……。」
正直立ちたくないのが本音。
それでもフルルにしたようにしては向き合えない。
「関係ないけどここってライブ会場じゃなかったっけ?」
「あらら? 授業でも習ったでしょうに。フレンズの存在が確認されたばかりで、まだパークが普通の動物園として運営出来てた頃は、ここで動物のペンギンショーが行われてたじゃないですか。」
「だとしてもパークガイドを見世物にするなんて、一度も見たことも聞いたこともない展開だわ。」
「同じことの繰り返しじゃ、結果は得られないと思った次第です。なら優先すべきはインパクトを与えること、歴史に名を残すには尚更。」
「私を見てもなお、それを本気で信じてるつもりなら直接言ってあげるわ。貴女のしてることだって何も変えられない、大したことじゃないって。」
一段々々と観客席から降りてって。
あの日叶わなかったステージに私は立たされる。
「だから留めに来たと? 無意味だと教える為。」
「思ったんだけど、これってそんなに酷いことなのかしら? だって、たかが一人のフレンズの身元を詐称しただけでしょ。」
きっとパーク中が唖然することを口に出来てしまう。
ほら当事者のミライでさえそう。
そしてその中には当然マガリァンも含まれて。
彼女はというと、笑っていた。
「くゎっ、くゎかかかかあふぁ、ふぁっふぁはははははははは!? なんですか、それ。奪われる側から奪う側に成ったから、彼女の痛みが分からないって言うんですか? たった一つの嘘だとしても、どれであれ皆の純粋な気持ちを利用した事実が、どれだけ痛みを伴うことか“貴女”なら知ってるでしょうに。もしステージに立つ資格を偽ってもなお、皆の前でただ笑顔を振り撒けるような精神だとしたらそれは、偶像に他なりませんよ。」
「そう言えば、そうだったわ。でもこれが今の私みたいよ。」
「もぅ泣きたく成って来るじゃないですか、だから改めて奪われる立場に成って考えましょうよ?」
どういう理屈だか、何を期待してるんだか。
彼女はラッキービーストを差し向ける。
だから襲い掛かる触手の口に。
言葉を返しても話が通じる訳もなく。
左腕を差し出す、痛みはあったが。
しっかり噛み付いてくれた。
あとは彼を力尽くで手元まで引っ張れば。
本体に代わる弱点の石目掛けて。
「――ぱっかーん。」
右腕の反動もセルリアンの散り際も他人事みたいで。
口にすることで状況を呑み込めた。
「ごめんなさい、ミライさん。貴女のラッキービーストを壊して。」
この場の誰もがそれぞれ信じられずにいた。
ミライは相棒の彼がいなく成ったあっという間に。
マガリァンはお姫様の暴力的野性に。
そして私はそんなことを口にする神経に。
「……これはこれはビックリです、“ロイヤルペンギン”の身体で捨て身ですか。私としては綺麗な姿が台なしで、道標としても痛々しくて見てられないですよ。」
「どうであれ壊せたんだからとやかく言われる筋合いはないわ、まぁペンギンの翼だからって無理をしたのは認めるけど。」
「石は石でも耐火防水バッチリのラッキービーストの本体を元にしてるんですから、当然衝撃にも強いことは分かったでしょうに。それに私が言いたいのは、その身体は貴女だけの物ではないんですから。」
「忘れてないわよ、でも今更私が自分の身体に興味があると思う?」
「成る程、だとしたら気にする必要はなかったですね。それにしてもミライの相棒の彼に関しては、壊せない物とばかり思ってたんですがね。」
「セルリアン化させられた時点で察しなさいよ。」
「確かにそうでした、ステージの彼がいなく成っても、パーク中に代わりは幾らでもいましたね。どうしますか、次は何を犠牲にして私に立ち向かってくれるんですか?」
まるで飽きさせないでと言わんばかり?
それに応えることに成るのは癪だった。
「――そんなの、ハッタリに決まってるでしょ。私も貴女も。ラッキービーストを従わせられても、パーク中の彼らをセルリアン化させられる程のサンドスター・ローなんて、そもそも今のパークにないんだから。」
あと数時間待たない限り。
「――はい、その通りです。流石プリンセスですね、これで笑顔を見せてくれたら、とその点に関してはミライ同様思わずにはいられません。」
だけど彼女は笑顔を崩さない。
「……やけにあっさり認めるのね。」
「言っときますけど私だって皆さんに嘘を吐きたかった訳じゃないですよ、ただこればかりは私でも準備に手間取るものでして、深くお詫びします。でもお陰で皆さんに最高のシナリオをお見せ出来ます。」
時間切れだった、私が知らない内に。
彼女が決めたキャスティングに従い。
切り替わったスクリーンに――。
誰かが映ることはなかった。
「観測所の、映像……?」
放送事故に思えた、だったらよかった。
定点カメラ越しの絵面は実に滑稽で困惑して。
だけどミライがフォローを入れることも込みなら。
サンドスター火山へ例のない異変を襲う。
――空に影が映ったそして何かを落とした気がした。
瞬間、山頂は消し飛んだ。
『――、』
拾い切れない音声がブレる映像として伝わる。
震動は離れてる筈の会場まで。
いや、パーク中に遅れて来るんだった。
――こんなこと出来るあんな物は一つしかない。
「B-2、ステルス戦略爆撃機……。」
誰が口にしたかは関係ない。
状況はもう手遅れだった。
「あぁ、あ。やっぱり墜落しちゃいますか、自然の摂理には逆らえないとはいえ、折角世界一の軍事システムを乗っ取れたのになぁ。まぁここまでやれれば充分ですし、よしとしましょう。」
どうやら山頂を爆撃した機体は。
それによってキノコ雲を晴らす勢いで噴出した。
サンドスター・ローで駄目に成ったようだが。
幸いと思った所で空が黒に覆い尽くされるのが先で。
「さて皆さん、これこそ貴女達が一方的に恩恵を貪り尽くしたサンドスター火山の真の姿です。じきにサンドスター・ローが行き渡り、超大型セルリアンがパークを蹂躙することでしょう。逃げ場なんてありません。もしこの光景を見て貴女達が見捨てたマゼランのことを少しでも考えましたら、どうぞお好きに食われる前に謝罪でもなんなりしてください。最も今更しても遅いことをお忘れなく、私からは以上です。」
まるで用済みと言わんばかりに。
ステージから立ち去る彼女をもう誰も留めない。
今更倒した所で解決しないのは分かること。
そんな物語みたいに出来た展開は現実にない。
「――待ちなさいよ。」
それでも皆の道標として声を掛けるしかないでしょ。
それが私に求められた役割だって言うなら。
「マガリァン。それが貴女の、【けじめ】の付け方なの?」
「――はい、だからサンドスター火山の五合目で待ってますよ。例によってそこが火口に成ってる筈ですし、その方が雰囲気が出てピッタリでしょう?」
「……えぇ、そうね。この異変の幕を引くにはこれ以上の舞台は他に望めないわ、誰が見てもね。」
凡ての元凶に見合う笑顔を見せる彼女を見届けた。
話したいことは沢山あるけど。
皆の目があるここでは見せられないから。
まずはミライの拘束を解かないと。
「ここにもすぐセルリアンが来るわ、だから逃げてミライさん。」
痺れが残る右腕に左腕代わりの嘴を使ってなんとか。
見捨ててはお姫様の格好が付かないから?
「でも貴女は、マガリァンさんの元へ行くんですか……。」
「この莫迦げた事態の元凶として振る舞うセルリアンをのさばらせたままじゃ皆、納得出来ないでしょ?」
「そんなことして何に成るんですっ。ボロボロの身体であのサンドスター・ローの真っただ中に飛び込んで、無駄死にでしかないこと位分かってください!」
「その無駄死にをしに私は行くのよ。」
「っ……? な、何を言って。」
「でもそう悪いもんじゃないわ、だって――。」
“自分達”にも意味を与えようとしてるんだから。
「それにね、苦しくてしょうがなかったこの名前が今は力強く感じるの。まだ新人だったミライさんがここで、ひとりぼっちの私のお守りに成りますようにと送ってくれたあの日みたいに、背中を推してくれる。」
「……それこそ、なんのことだか分かりません。だって私が新人だった時代に、――ロイヤルペンギンのフレンズは生まれてないんですから。」
「……そうだったわ、この世界ではそういうことにしてたんだった。」
代わりにフレンズ化した四人が初代PPPと成った。
そんなの私の我が儘でしかないのに。
「ねぇミライさん、どんなに頑張って生きてもいつかは死んでしまうよね。それなら産まれて来たことは無意味だって思っちゃうけど、それでも世代を超えて語り継がれる輝きがある。喩えばPPPとか、それにマガリァンは目を付けた。だってそれにすら意味がなかったら悲しいもの、だから私は行って来るわ。」
説明に成ってない感情で置き去りにする。
こんな始末じゃ私がこれからお送りするのも。
マガリァンが納得出来るとは到底思えない。
不安要素には都合よくなぁなぁの自分で通した。
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