第5話
正直マガリァンが何を考えて動いてるのか。
分からないことがほとんどだけど。
彼女はセルリアンだから、と言い訳する前に。
元に成ったフルルの輝きが何か位は知るべきで。
「ふっふふん。」
喩えばこうした上機嫌な時は訊き出すチャンス。
と思いつつも思い切りに欠ける自分。
「……何やら楽しそうね、マガリァン。」
「だって未来のお姫様と逢い引き(デート)してると考えたら、心がウキウキしますよ。」
「私としては合い挽き(ミンチ)にでもされに連れ込まれたんじゃないかって、内心ヒヤヒヤものだったけど。」
夜のジャパリ女学園の図書室にて。
本来無人である所をこっそり寮から抜け出して。
居座るロイヤルとマガリァン。
当然何があっても誰も駆け付けない。
「そんなことしませんってば、ヒトじゃないんですから。」
「貴女のヒトに対する評価も大概ね。」
「それはもう、新人時代のミライで散々思い知りましたし。」
「ちょっと待って、貴女ミライさんのこと知ってるの? というか新人時代のミライでってどういうこと?」
「だってミライは凡ての元凶じゃないですか。」
「は?」
「あっ、先走って言っちゃいました。でもその反応からして、放課後あたりにミライと会ったばかりでしたか?」
「まぁ、そうだけど……。」
「門限を破ってまで私のお誘いに乗ってくれて意外と思ってましたが、そういう要因も働いてるとしたらミライに感謝しないとですね。」
ミライへの未練を断ったお陰で今向き合えてると?
間違ってないけど本当は。
ミライとかを理由に先送りしてた問題に。
とうとう向き合うしかなく成っただけ。
「でもどうせ誘われるなら、ロイヤル的には世界一周がお望みですよね。」
「別に、貴女にそんなことは望んでないわよ。にしても噂っていうのは当てに成らないわね、本棚なんて倒れてないじゃないの。」
「当然ですよ、誰も使わない場所と言ってもそこは最新鋭の設備が揃っているパーク。耐震性はしっかりしてますし、時折ラッキービーストも見回りに来ますよ。」
「パーク中に隈なく配備されてるからって、培養肉といい無駄遣いと言われてもしょうがないわね。」
「この図書室にも言えることですね。私としてはバレずに調べ物が出来て助かってますけど、それもロイヤルがスマホを貸してくれば済む話ですし。」
恨めしそうに自分を見ながら言って。
調べ物だけに使うつもりなのか怪しく成る。
「そうね、調べる過程が紙媒体だろうと電子媒体だろうと、結果得られる情報は一緒だし。なら手軽かつ手っ取り早く済む方がいいに決まってるのに、それでもヒトがここを作ったのはたぶん、情操教育の一環なんだと思う。」
「フレンズの感性を豊かにするという名目、と? なんだか適当にそう言っとけば、なんでも予算が降りる気がして来ました。」
「まぁこの使われてない現状を見たら、パークの運営に不安を持つのは分かるけど。調べ物の途中で見付けた他のことに興味を持ったり、寄り道だからこそ得る物もあるって教えたかったんじゃないかしら、喩えそれが傍から見れば無価値なことだとしても。」
「と言われましても、やっぱりちゃんとした意味がないとやる気に成れませんよ。でも行き成りお姫様を目覚めさせるキスをしても、全然ロマンチックじゃないのは分かります。あ、アイドル志望のロイヤル的には恋愛絡みは禁止事項でしたよね、私としたことがつい。」
「いや、そんなのどうでもいいわよ。」
「まぁ私としてもプランを前倒しするつもりはありませんので、安心してください。」
正直どんなプランを立てたとしても知りたくない。
のが本音、それで本当に彼女を知ろうとしてた?
「はぁ、言っとくけどそんな理由でスマホを貸さなかった訳じゃないわよ。」
「もう、そんな勘違いしませんってば。ロイヤルが自分で、盗みはいけないって言ってたじゃないですか。なのにどうして今更、気にするんです?」
「それは……、その。」
「口ではそう言っといて本当の所、最初から私に図書室で調べ物をさせるつもりだったのではありませんか?」
「……。」
「図星、みたいですね。普通に考えれば、私に知って欲しいことがあるなら直接言えば済む話です。調べ物をさせることに意味があるとしても、情操教育でもないのに効率的なスマホを使わせないとはどうしてか。考えられるのは時間稼ぎしかありません、私がそれを知るまでの。ロイヤルが実は、パークの罪に気付いてながら何もしなかったという罪に。」
二人して淡々とした反応だった。
唐突な展開に見えてその実。
散々先送りし続けた問題に。
彼女は呆れてる、自分はまだ覚悟が決まらない。
「……情けないって思うでしょ。」
「ロイヤルは私にそういう感情を期待してるんでしょうが、残念ながら私の元に成った輝きでは叶えられません。」
「分かってるわ、フルルがそんなこと願ってなかった位。」
この期に及んで名前で呼ばないとか。
指摘してくれた方が楽に成れるのに。
「だって彼女は私なんかと違って、普通の女の子が憧れるみたいにアイドルに成りたがるような純粋でいい子で。だから皆を騙してることに耐えられなく成って、なのに誰のことも恨まず自分だけを犠牲にすることを選んじゃう子で。」
「むしろロイヤルのことを尊敬してたみたいですよ。PPPの活動に追われて勉強が疎かに成ってた自分と比べて、しっかりしてる貴女に。」
「だから私の方がPPPに相応しいと思った訳。でも私がPPPに憧れたのは……、アイドルが人間じゃないからなのに。」
「……恋愛絡みの話題を気にしなかった様子からして、普通のアイドル志望とは違う気はしてましたが。随分な言いようですね、でも我が儘も言わず笑顔を振り撒く存在というのは確かに。偶像で、ロイヤルみたいな人間クサさは感じられませんね。」
そこに自分が忘れた動物らしさを見出すあまり。
ただのアイドルではなく。
ペンギンアイドルのPPPに成りたがる始末。
二代目が決まって一度は忘れた筈が。
諦め切れなかった醜い動機を知られて。
傷付けた、のにお咎めなしなんてあんまりで。
そんな自分の前に彼女が現れたら。
名前には罰してくれるよう意味を込めちゃうでしょ?
「まるで悟りを開きたいという煩悩を持ってしまう、お坊さんみたいですね。」
「あは、そんな感想求めてないっつぅの。」
「それでも私としてはロイヤルのことが分かってスッキリしました、イチイチ注意しときながら私のことはミライ達に告げ口しなくて。ありがたかったですけど、可笑しくもありましたし。」
「最初から道化だって分かってた訳、はぁ。」
結局なぁなぁな関係で済まして。
自分にはお似合いなのかもしれないけど。
「――でもこれでようやく、お姫様に返せると思ったらドキドキしますね。」
返すって何を、とじゃーん、と。
彼女は何処からともなく本からともなく。
だって栞代わりに使ってた。
五人組のPPPの集合写真を取り出す。
「な、なんで貴女がそれを持ってるの?」
「なんでってそんなの、彼女が最期の瞬間まで手離さなかったので、私がスマホと一緒にいただくことに成っただけですってば。持ち出したのは無意識のことだったと思います、これを見てロイヤルがPPPに成りたがってたことを知ってしまったんですからね。そこから運悪く部屋に帰って来たロイヤルと鉢合わせたこともあって、逃げるように寮から飛び出したのも無理はないですね。」
「そりゃぁ、そうよね……。」
考えれば分かること、なんてことはない。
ロイヤルペンギンを描き足しただけのコラ画像。
確かにPPPと決別しようと作った代物だけど。
どうしてそんなにも、その“私”を見るのが怖い?
「あ、そう言えば言いそびれてたことなんですが。」
「何?」
「たぶんロイヤルは私のことを、【自殺】の輝きを持ったセルリアンなんじゃないかと思ったかもしれませんが。確かに彼女の行動からそう考えても仕方ありません、でもそれは全くの勘違いです。」
「え?」
「あの時彼女が私ことセルリアンに食べられに行ったのは、皆を騙していた自分に罰を与える為なんですよ。つまり彼女の輝きに照らし合わせると私は、【断罪】のセルリアンと言った所でして。よかったですね、ロイヤル。」
「よかったって、何を言って?」
「だって罰を受けられて、私も嬉しいです。――お姫様じゃない貴女はいらないですから。」
そう言われて気付く、気付くのが遅かった。
自分の知る限りただの写真だったそれが。
桁外れの輝きを込められていることに。
気付いた時には彼女から推し付けられていた。
「ぁ――、ぃぃぃぃぃぃぃぃいいi?i?i?i?」
写真に触れた瞬間、理解させられる。
輝きに自分自分自分自分? が上書きされる感覚を。
「――そして私はお守りと七人の神様に願いました?」
口遊む、カンニングペーパーを読むように。
無意識に避けていた物語の歴史の答えを。
「楽しかったですよ、ロイヤルとの日々は。でももう時間もありませんし、ここでさようならにします。」
彼女の声がした気がした。
その前に自分の意識は消えていた。
ミライは駆け付けていた。
夜中だろうと連絡が入ったからには。
「ラッキー、この先で合ってますか?」
「合ッテルヨ、コノ先カラ【ふるるノすまほ】ノ信号ガ発信サレテイル。」
罠、と考えるのが自然だろう。
突然こんな時間帯に人気のない場所からなんて。
怪し過ぎると言わざるを得なくても。
本当にフルルからの可能性がある以上見過ごせない。
「フルルさんっ。」
何をそんなに焦ってるんだか。
彼女にフルルを推し付けた責任からか。
一刻も早く彼女の口封じをする為か。
よからぬ想像ばかりするように成ったもので。
「――もう来るなんてビックリです、ミライ。」
だから彼女の存在もすんなり受け入れてしまえる。
実に効率重視な思考だこと。
フルルの生存を絶望視してるようなものが。
パークの皆を守るには必要だから。
「初めまして、貴女は。フルルさんのフレンズ型セルリアン、でいいでしょうか?」
「はい、マガリァンと言います。以後お見知りおきを。」
「アワ、アワワワワワワワワ?」
この誘い込まれた形、ラッキービーストのエラー。
そもそも名前からして意趣返しを連想させ。
挨拶はしたものの友好的関係は期待出来そうにない。
だけど頼りに成るフレンズもいない状況。
「ここ最近ラッキービーストのエラー報告が相次いでましたが、貴女と遭遇した結果だったんですね。」
「本(もと)を正せば貴女達のせいなんですけどね、お陰で今まで発見されずに済みました。」
世間話でもすることしか出来ない。
相手のスキを作るには。
「では私と話してるこの状況は不本意ということでしょうか、スマホの電源を入れればこう成ることは分かってましたよね?」
「それは勿論、ミライ一人を呼ぶには打って付けだと思いまして。でも正直言えば、もうちょっと来るのを待って欲しかったです。やっと念願のスマホを思う存分弄くれたのに、呼んでおいて悪いですけど邪魔された気分でして。」
「そうですか。でも折角ならお話しませんか、スマホの使い方も教えますよ。」
そう言いつつそっと手を伸ばすのは忍ばせた拳銃に。
この距離での対峙なら彼女が気付こうが問題なく。
「それなら大丈夫です、ラッキービーストに教えて貰いますから。」
「ラッキーと仲よくしてくれるのは嬉しいですけど、貴女を見るだけでエラーを起こすのでどうしたものか。」
「だからこそ繋がり合えると思うんですよ、……同じ嘘を吐く羽目に成った物同士。ほら?」
「え?」
彼女に促されて振り向くと。
そこには一つ目に成ってミライを見上げる。
「ラッキー……?」
まるでセルリアンみたいな相棒が。
エラーを起こしてた筈なのに触手の口で襲って来て。
「おやすみなさい、ミライ。」
ミライの記憶はそこで途絶える。
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