第4話

 「あの、ミライさん。」

 「はい、なんでしょう。」

 「えぇ、とその。ラッキービーストの動物解説を監修したのって、ミライさんで合ってる?」

 「それはまたまた、唐突なことを訊きますね。」

 「別に、いいでしょ。」

 「ふふ、その通りですよ。フレンズさんを言い当てることで、パークの誰にも負けるつもりはありません。」


 放課後サンドスター火山の観測所にて。

 突然お邪魔しといて会話の糸口が下手クソな。

 ロイヤルにもミライは時間を割いてこれまたまぁ。

 申し訳ないより忙しいだろうにと皮肉る。


 「ミライさんっていいヒトよね、私の知ってる相手の中で一番。でもそこら辺にいるようなフレンズの雑談にわざわざ付き合っちゃってさ、仕事大丈夫?」

 「フレンズさんとの交流も仕事の内ですから、責任があります。」


 そんな責任感が強い彼女のこと。

 自分みたいな余計な面倒も背負おうとする。


 「何か悩みがあって、私に会いに来たんじゃありませんか?」

 「訊きたいことは訊けたから、言ってもしょうがないし。」

 「それを言うなら私だってそこら辺にいるパークガイドの一人ですよ、確認するだけなら他にもいるでしょ。だけどロイヤルペンギンさんは私の口から聞こうとした、違いますか?」


 当てられる、これでは言い逃れられない。

 確認しに会いに来たのに発想が逃げ腰のそれ。

 フルルからもマガリァンからも。

 自分のことからも?


 「ミライさんが観測所に来てるのって、最近起きてる地震と関係あったりする?」

 「敏い、ですね。」

 「地震と火山活動には関連性があることは、授業で習ったから。サンドスター火山にも当て嵌めていいものか、怪しいけど。」

 「立場上それも含めて調査中としか言えません、ただ私からはちゃんと勉強したことを活かしてて偉いです。」

 「そうかしら、私よりも勉強して来たミライさん達でも分かってないのに意味あるの?」

 「あはは、これは胸に刺さりますね。確かにどれだけ優秀な研究者でも、その一生を費やしてもサンドスターの解明に至れるかどうか。」

 「ごめんなさい、でもこういうこと答えてくれそうなのもミライさん位な気もするから。」


 嫌味を言った直後に持ち上げるとか。

 自分の人間味がイヤに成る、そう言い訳することも。


 「まぁおおよそ予想は付いてたりするけどね。」

 「えぇ……、それで言ってもしょうがない訳ですか?」

 「あくまで予想よ、それでも沢山のヒトがそんな研究に関わってるのは。今は無理だとしても、いつかその研究を引き継いだ誰かが夢を叶えてくれると信じてるから。結果的に礎として無駄に成らないから頑張れる、どうかしら。」

 「そこまで深く私達のことを理解してるフレンズさんもそういないでしょうに、驚きです。」

 「動物だったフレンズだから思い当たる節があって、そしてそれこそミライさんに訊きたいことでもあるわ。その次世代に繋ぐ発想は、動物が種を残そうとするのと一緒だと思う?」


 それこそどういう発想をしたら出て来る質問だと。

 訊き返して有耶無耶にして欲しかったのに。


 「それは……、私は違う気がします。私達は動物さんみたいに自然に出来る訳じゃないですから。」

 「将来評価されるかもしれないから? でもそれって約束されてる訳じゃないじゃ……。」

 「誰にも未来のことは確かめられませんからね、幾らでも夢が見れちゃうんです。だけどそういうことにしておかないと、私達には未来が分からないから耐えられないんです。ロイヤルペンギンさんは礎だと言ってくれましたが、それが間違った犠牲でないとは言い切れません。それなのになんの成果も得られませんでした、で済まされないんです。」

 「……だから子供騙しだって分かってて、希望を必要とするの?」


 そりゃセルリアンや地震なんて不安要素があっては。

 食べ物でイチイチ気にするようなヒト達だし。


 「なんだか話が逸れちゃいましたね、折角悩みを話してくれたのに。ルームメイトだったフルルさんもまだ見付けられず、不安にさせてばかりですみません。」

 「いえ参考に成ったから、充分。」


 結局自分が憧れる世界基準を満たすには。

 成れもしないPPPに成るしかない。


 「ねぇ、こんな時に言うのアレだけど。私がPPPに成りたいって言ったら、どうする?」

 「なんですかそれ、フルルさんの後釜でも狙ってるんですか。でも駄目です、初代PPPは四人組でロイヤルペンギンさんはいなかったんですから。」

 「知ってるわ。」

 「それに皆のお姫様に成るなら笑ってなきゃ、誰も笑えませんよ。」

 「それは、知らなかった……。」


 本当に自分は知らない、のにどうして胸が苦しい?

 きっとミライみたいなヒトに成りたがったせい。

 こんな自分でも胸を張って生きれた筈だって。

 勝手に期待してたのは自分だろうに。

 だけど動物に明るい彼女が。

 パークの闇を知らない方が可笑しいでしょ?


 「……フルル。」


 観測所から距離を置いてもショックからか。

 ふと名前の彼女に言いたく成った。


 「逃げ出したい程辛かったなら、いっそ――。その名前を捨てればよかったのよ。」


 その先を私は口に出来てしまう。

 一緒にお姫様に成る夢も忘れた私だから。

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