第3話

 「ねぇ、ラッキービースト。」

 「何カナ。」

 「これって人工的に作った、あぁ養殖って意味じゃなくて。……培養肉、て教わったけど本当なの?」

 「本当ダヨ、製造行程ハ極秘デ見セラレナイケド。ソレガドウカシタ?」

 「いえ、教えてくれてありがとうね。」


 一番乗りでラッキービーストから朝食を受け取り。

 だから誰もいない朝の食堂で一人。


 「いただきます。」


 ロイヤルは動物の頃の記憶を引き合いに出す。

 うん、やっぱり見た目も味からして。


 「本物の魚と区別が付かないわよね。」

 「それってもしかして、実は本物の肉を培養肉と偽って食べさせられてるんじゃないかって、ロイヤルは言いたいんですか?」

 「っ……。」


 背筋が凍る体験をする、今ここには自分しかいない。

 だからこその一人言にまるで幽霊からの返事。

 実際問題フルルの幽霊みたいな物か。

 じゃなくて一番の問題は共有スペースに出たこと。


 「……部屋で本読んでるんじゃなかったの、マガリァン。」

 「折角だからロイヤルの朝食に付き合おうかと思いまして、あと一応今朝は本は読んでいませんね。」

 「誰かに見付かったらどうするのよ。」

 「大丈夫ですってば、この時間でマトモに起きてるのはロイヤル位でしょうし。」


 その誰かにはラッキービーストも含まれるのだが。

 幸いキッチンからは死角で取り敢えず大丈夫として?


 「まぁ今までパークの職員達の目を掻い潜って来た実績を信じるとするわ。で、だとしたら貴女は何が言いたいの?」

 「敢えて言うなら。……ハンバーガーの肉にはミミズが使われている、という都市伝説的なノリでしょうか。」

 「え、そうなの?」

 「いえ嘘ですよ、本当にミミズ肉を使ってたら元手なんて取れないでしょうし。ただ学校と言えば怪談話が付き物だと本で読んだんですが、その割りには噂好きの学園のフレンズ達の間で、その手の話題が挙げられないのが引っ掛かりまして。」

 「まぁ普通に考えたらタブーな案件よね、動物同士がコミュニケーションを取り合えたら食べ物関連は。下手したら共食い構造に成りかねないもの、だからこそ退屈を紛らすスリルにも成りうる所、不思議とフレンズはそのことを気にしない、むしろどうして気にするのってナンセンスなことと捉えてる位だし。それをどうしてかって訊かれると説明に困るけど、たぶん生き物が食べる食べられる世界で生きてる、生きて来たって本能的に受け入れてるからだと思う。」


 なんとも曖昧な言葉で濁すのは。

 そうとしか喩えられない超自然的な感覚で。

 人間的感情が介在しない。

 世界の一部として在りたいなら正しいと思う。


 「でもセルリアンには抵抗しますよね。」

 「当然よ、別に食べられたいって訳じゃないもの。それこそ動物の頃からね、でなきゃ生きられないわ。」

 「うぅん、なんだか都合がいいと言いますか。はぐらかされている気がしなくもないです。」

 「説明が下手で悪かったわね。ただフレンズは優しく思えるけど、同時に何処か動物だった頃の名残でシビアな面を持ち合わせていると言うか……。」


 力が劣るのなら死を、だから。

 世界を受け入れる在り方に基づけば、罪には罰を。


 「所でミミズ肉の話からすると培養肉も嘘でいいのかしら、肝心な製造行程が極秘って言うあたり怪しいっちゃ怪しいけど。」

 「たぶんですけど、ラッキービーストが言ったなら本当のことだと思いますよ。」

 「どうして?」

 「機械は嘘を吐けませんから、データに反することを言おうとしてもエラーを引き起こすだけです。と言っても費用が掛かる点に関しては一緒でしょうし、パークが閉鎖した暁にはジャパリまん位しか供給されないのが予想出来ます。」

 「まるで見たかのように言うわね。」

 「本の他に読んでいる物もありますから。」

 「そう。でもだとしたらわざわざお金を掛けてる所ヒトには悪いけど、余計なお世話というか。まぁ世間体もあるんでしょうね。」


 フレンズの存在がどう見られてるか。

 それこそ普通のフレンズには関係ない話。


 「そう言えば噂話でもう一つ気に成ることが、皆さんPPPのことばかり話して飽きないんでしょうか?」

 「それ、話題を持ち込んだ元凶の貴女が言うかしら。」

 「だってこの広いパーク探せばPPP程ではないにしろ、他にもアイドルのフレンズはいる筈ですよね。」

 「そりゃぁそうなんだけど、それだけ抜きん出て有名でもあるからね。伝説的初代PPPの後継グループとして、パークの運営側も力を入れてるみたいだし。」

 「成る程、それはプレッシャーも大きく成る訳です。アイドルとして偶像視されて完璧な自分を求められたら、誰でも参っちゃいます。」

 「……ねぇ、マガリァン。やっぱりフルルは自分から貴女に、食べられに行ったの。」


 ずっと訊きたかったことは訊かなくても分かる。

 当時付近でセルリアンが出た話はなかった。

 だから闇雲に飛び出したって出会す筈がない。

 それこそセルリアン出没の危険地帯に行かなければ。


 「偶々そこにいたのが私だっただけですよ、でもどうしてそんなことを訊くんですか? フレンズだって食べられたい、なんて普通は思わないと言ったばかりなのに。」

 「それは……。」

 「ロイヤルってホント不思議です、普通なら気にしない筈の食べ物のことも口にして。お姫様の夢を忘れてもなお、何が今の貴女をも苦しめてるんですか。」

 「ア。」


 ア? 誰かの固まる声がした。

 自分じゃないとしたら誰がと振り返ると。

 ラッキービーストがこっちを見ていた。

 あ、終わった――。


 「アワ?」


 とバレた筈の次の瞬間。


 「アワワワワワワワワ????????」


 フルル(?)発見の報せをする間もなく。

 ラッキービーストはエラーを引き起こした。


 「マガリァン……?」

 「あぁ、あ。ホント、ヒトには困っちゃいます。」


 原因と思われる彼女に声を掛けるも。

 彼女はラッキービースト越しにヒトの姿を見ていた。


 「PPPの中でも世界で初めて本に載ったのは彼女の名前なのに、そのデータを改竄なんてするから。」


 あぁ、マガリァンならとっくに知ってて当然だった。

 ロイヤルとパークの罪に。









 いつもより遅くミライは目覚める。

 連日の疲れが溜まっているのだろう。

 だけど仕事は待ってくれない。

 今も目覚まし代わりに電話を鳴らして来る。


 「はい、ミライです。えぇ、例の品ちゃんと届きました。正直フレンズさんは私なんかより断然強いので、これを使う事態があるとしたら覚悟しなくてはいけませんね。最近ラッキービーストの不可解なエラー報告もありますし、念には念をです。では失礼します、守護けもの様。」


 電話を切り改めて確かめるように構える。

 パークガイドの肩書きに似付かない拳銃を。


 「これも全部、パークの皆さんを守る為だから……。」


 また手を汚すことに成ろうとも。

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